第15話 ルキアとの会食

 3日とは早いもので会食は今日の夕食にまで迫っていた。今回何か起こる気がするものの、何が起こるかはわからないので対策の取りようがない。今日、この日のために戦闘能力を上げることにほとんどの時間を費やした。


 晴樹とクロムはルキアを警戒している。その理由は大体俺のお父様が関わっていると言うことも大体予想がつく。俺には話さないけど何かあったと言うことだけは窺える。それでもルキアは北の領地を収める優秀な人材だ。人間との戦において彼は大いに役立つだろう。それを踏まえれば、俺の命がどうこうなんてどうでもいい気はしないが、どうでもいいだろう。どうせ人間ではないのだからそう簡単には死なないし、無闇に魔王を殺す事もないだろう。俺はルキアが正当な脳みそを持っていることを願いながら今日1日を過ごす。


 ちなみにクロムは朝から忙しかったみたいで俺に女装をさせることはなかったので今は昨日の朝だけ着ていたものと同じ袴を着ている。


 いやー、戦術の訓練では流石にスカートだと……ということで袴で行ったのだが、とても動きやすかった。あれは期待以上の動きやすさだ。


 今日のために色々と遠回しな言い方を習得した。そして決まった言葉を言われた時の対処法も、今回は魔王とその直属の部下という感じなので使用人……俺とルキア以外は退出することになるだろう。


 今回は夕食の席でするような議題ではないものも入っているだろうが、それは夕食後の時間で話すことにしよう。ルキアは大人数での隠密行動が得意だと聞いている。なので人間界に乗り込んでもらいたい。


 この間クロムが出かけた理由は後ほどわかった。食材を買いに行っていたのだ。それも膨大に‥…商人ということにしてあるので何ら問題はないそうだ。今は食糧庫に沢山の食料が入っている。買い溜めしても大丈夫なようになっているのでいくらでも買ってこられるそうだ。俺がいることで長時間出かけることができなかったが、今回を期に定期的に人間界へ向かうと言うようなことも聞いている。


 クロムは完全に一対一に特化した武器の扱い方なので隠密行動は不得意だと言っていた。ある程度は成すことができるが、気づかれる恐れが全くないとは言い切れないそうだ。暗殺者で言ったら陰から静かに鉄砲でバンッ!じゃなくて路地裏に誘い込んで背後からザクッ!と言う感じだ。どっちにしろ気付かれないようにしなくてはならないが、路地裏に誘い込んで背後からザクッ!は近接を得意とする者なので気付かれてもどうにかできる。と言う点で隠密行動が得意ではなくても問題なかったのだろう。


 話を戻すが、人間界に行って調べてもらいたいのは勇者について。クロムの話だと魔王が転生者なら勇者も転生者だそうだ。そう言った場合両者共に今までの勇者や魔王とは比べ物にならないレベルで強いらしい。


 今勇者がどのくらい強くなっているのか、後は勇者の基本情報だ。何属性が得意でどんな武器を使って、その他にも性別、名前、年齢、人数、たくさん調べてきてもらいたいことがある。それを依頼するのでいいだろう。そしてこの前の魔物の襲撃の件について想定を大きく上回る数の魔物に大型の魔物など、そのことについての調査結果も話して貰おうと思う。


 後は普通に世間話的な?何を話すかはその状態によるなぁ……


 そろそろ1時になるので訓練場へ向かう。


 まだ晴樹は来ていないが、この時間で本気の魔術を放って実験をしておかないと晴樹が来てからでは何もできない。と言うか魔力切れで魔法が放てない。


 こうして実験を3〜4回やったところで晴樹が来る。


「自主練ですか?」


「うん、そなとこ」


「ではこの前の続きを」


「うん、剣術からでいいんだよね?」


「そうです。さあ構えてください」


 そう言って晴樹は剣を構える。と言っても訓練用の件なの鉄でできてはいるが、刃は潰されている。当たれ痛いが、切はしない、はずだ。ただ、スピードが早ければ俺も意味ないんだけどね。俺は何回か傷を負ったことあるし、晴樹もできてたことあった。


 確かダガーを両手に持って戦った時だったかな?素早く刃を滑らせ、間合いに入った時、腕を狙ってダガーを振ったら皮膚が切れていた。剣同士を滑らせたせいで研いじゃったかな?とか思ったけど、そう簡単に研げるものではないと考えを改めたのは記憶に新しい。


 傷は魔族なので治りが早いから次の日には無くなっていた。


「では片手剣か両手剣どちらかを取ってください」


 そう言われたので両手剣を持つ。ここで日本刀とか出てきたらいいのにと思わずにはいられない。元オタクの日本人だよ?誰だって自分が刀使っている所想像するでしょ。両手剣は片手剣より重いけど、一回一回の攻撃に重みを出すことができるから自分より体の大きい人相手には最適だ。体が小さいのは良くないね。いいこともあるけど、不利なことの方が多い。中身0歳が10歳の体持つとかおかしすぎだよ。精神年齢は実際16歳だが……


 晴樹の始め!と言う声が聞こえてすぐ俺はかけ出す。今回は懐に入るのを目的に走っているから結構早いと思う。肉眼ではギリギリ終えるか追えないかの速さで晴樹に近づき、最後の一歩は大きく踏み込む。自分の脚力を信じて最後の3メートル程の距離を一瞬で詰め、予備動作をなるべくしないで剣を横に入れる。だが、俺の思惑はバレていたのか防がれてしまう。剣を斜めにされ、勢いのついていた剣は容易く流される。だがそこから起動を変え、剣をもう一度下から上に向かって振り、大きく振りかぶった状態を作る。もちろん晴樹も滑らせた後に剣を横に振ろうとしたが、俺が上から攻撃を仕掛けることを察し受ける構えをする。所詮軽い子供だからね。どれだけ上から攻撃しても受け止められちゃうんだよね。


 こんな感じで模擬戦をし続け次戦練習をした。他の武器ももちろん訓練した。体術もだ。そして魔法はひたすら連続攻撃や練度の調整魔法自体は中級まで安寧して使えている。だが、上級となるとこの競技場では試すことができないので安定してできるとは言い難い。


 無事に訓練が終わった俺は部屋に戻って驚いた服が机に沢山置かれていたのだ。そう、今まで来ていた普通の服。


 俺は解放して貰った服を着る。今回の件をきっかけに女装するのは勘弁願いたい。と言うか服が帰ってきたってことはもう女装することがない!?そんな期待をしつつ服を着替える。剣の訓練はもう終わったからね。一回着替えても大丈夫だ。流石に汗まみれの服は着ていたくないから……


「ファル様、そろそろ準備をお願いします」


 そうかもう4時だからね食事開始が6時だとしても5時半には食事の席に着いておきたい。


 俺は扉を開いて了解と言うと部屋に戻って礼服に着替える。シャツの刺繍がすごいな、と毎度毎度着るたび思う。首元や袖などに金の糸で刺繍がされている。


 日本で言うスーツのような格好で外に出るそれからクロムを探して何をすればいいのか聞きに行ったら土産の準備を手伝わされ、準備が終わった時にはもう5時20分だった。そのまま直行で会食を予定している部屋へ向かい、座って待つ。


 しばらくするとルキアが入ってきた。そして食事を摂りながら簡単な議題は済ませていく。


 そしていよいよ本題だ。


「例の魔物事件の件について詳しく話せるか?」


「はい、もっと詳しく知りたいのならこちらを」


 そう言って封筒を渡してきた。結構分厚いなぁ。これは読んだらちゃんと情報得られるのかなぁ?一文一文が長くて理解できなかった…とかならないよね?ちゃんと見やすく書いてあるよね?


「簡単に言うと理由は何だったの?」


「魔族の仕業かと……」


「ふぅん……じゃあ、主な主催者の身分は」


「ある程度は高いかと……」


「じゃあ、君は魔王の座に興味がある?」


「……」


 言い淀んだ。それに全て表情に出ている。子供相手なのにねぇ…情けないよ。ちゃんと表情は濁しておかないと、いくら子供だからって油断してると負けるからね。


「正直なところないと言えば嘘になりますが、今はファルヴァント様が魔王様になって良かったと感じております」


「へぇ、それは良かった。急に話変えて悪いんだけど、魔物の件、直接俺に報告してくれない?今回の件の片付け大変そうだから要約したのを一回聞いておきたいんだけど?」


「か、かしこまりました」


 そう言って魔物退治について細々と説明してくれる。おそらく何か質問された時にボロが出ないようにこの件については話したくなかったのだろう。だが、こちらでも軍の一部を動かしていた。なので情報で言えばどちらも同じくらいの情報を持っているだろう。この事はクロムや晴樹は知らない。騎士団長であるミカにお願いして俺は一部部隊を動かして貰った。本来魔王直属部隊の一つなので俺が動かすのはおかしくないそうだ。


 ミカには俺の力で魔物を従えることができなかったと言ったら大体察してくれたようで「犯人探ししてきます」と言ってどこかへ行ってしまった。その数日後に北の館の誰かだと言うことがわかったと言うふうに言われ、詳しく話された。それで話がまとまったのかミカは上からの指示で、恐らくルキアからの指示だと言った。どうしたらそう言った結果になるのかわからないけど、犯人が特定できてよかった。と言う感じ……


「後もう一つ、お願いがあるんだけど?」


「何なりと」


「人間界に行って調査してきて、勇者について徹底的に調べるように」


「それは何のために?」


「色々とあるんだよ。こっちだって責められて被害出ました〜!とか嫌なんだから、そのために調べてきて」


「わかりました」


「調べてきて欲しいことはここに書いてあるから。お願いね」


 そう言って俺は紙の束を渡す。


 そこには調べてきて欲しいことがまとめて書いてあるので見やすいだろう。


「では、早速人間界の方へ向かう準備をしたいのでそろそろお暇させて頂こう」


「うん、今度もよろしくね」


「はい」


 そう言って部屋から出る。さっきから何なんだよ。手にナイフ持ってて怖いんだけど?それにここに武器を持ち込まないのが普通でしょ!俺は丸腰なんだけど!襲いかかってきたりとかしないよね!?しかも、しかもだよ?腰にいっぱい棒手裏剣持ってるんだよ!おかしいって。それ投げないでね!?


 心な中で何もないことを祈りながら無事に会談を終えたのだった。

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