第14話 女装した生活
《クロムが帰ってきてから1週間》
あの日、あの時クロムに女装している姿が見つからなかったらこうならなかったんだろうな。そう思いながら俺は今まで着ていた服ではなく、城下町で手に入れた袴を着ている。どーせ俺はこれを脱がされてワンピースを着せられるのだろうが、今だけでも男でいたい。
俺は後10分で女になる。なぜなら今が5時50分ぴったりだからだ。部屋を出た瞬間に着替えさせられるだろう。クロムの早着替えの手際には感心するが、着替えさせられるのは好きではない。これが俺ではなく他の誰かだったら感心するだけで済んでいただろう。
俺は自室に持ち出している書類と睨めっこしつつ、頭の隅では今日の服について考える。
昨日は黒のワンピースで、2日前は青、3日前は悲惨だった。なぜならピンクのドレスだったから。
こんな感じで色々な色のドレスが増え、男物の服、今まで着ていた服はどこかにしまわれてしまった。その服がどこにあるかは大体分かるが、あまり行きたくない場所だ。行ったことがバレたらどうなるか知ったこっちゃない。
タンスを開けた瞬間服がなくて「あっれ〜?」となったのは記憶に新しい。
ワンピースは上と下が繋がっているから動きやすいかって言ったら動きやすいのだろうけど、足はスースーするし、パンツは見えるし……不便なことの方が多い。女装させられるならまだスカートの方が良かったかもしれないなどと思ったりもするが、あれもワンピースと同じなのだろう。
クロムの手先が器用なのは前からだが、最近はとても凝った服を作っている。
女の子の服は男の子の服より装飾をつけられるから楽しいのだそうだ。俺には裁縫の楽しさは分からないが、女装をしているのをみるのは楽しいと言うことを知っている。
紗衣斗の時俺は学校の中で存在感が全くない人間だったから人がやっているのをただみるだけ、と言うのは日常だった。そして高校の文化祭の舞台で女装した同級生がダンスをしていた。それを見て俺は面白色思ったし、楽しかった。このことから考えると、人がやっているのをみるのは楽しいけど自分がやるのは楽しくない。インキャでネガティブな思考に陥ってしまう俺だからこうなのかもしれないが、誰だって毎日女装するのはご遠慮願いたいだろう。
こうしているうちにだいぶ時間が経ってしまった。タイムリミットはもうすぐだ。そろそろ支度をして部屋を出ないとなぁ。憂鬱な気分で服装を整え、残りの書類などをまとめる。
部屋のドアノブに手をかけゆっくりと回し、ドアを引く。
「おはようございます。お手荷物はお預かりしますね。さてこちらへどうぞ」
「遠慮したいのだが?」
「遠慮などいりません」
「遠慮したい」
「遠慮しなくてもいいと言っているではないですか」
そう言って俺は別室に誘導され、服を剥ぎ取られ、ワンピースを着せられてしまった。もう無駄な抵抗はしない。抵抗しても無駄だと言うことをここ1週間で学んだからだ。
抵抗すればそれだけ体力が失われ、挙句こっちには何の利益もない。城内な為高度な魔法の使用は不可能だし、たとえ発動して逃れられたとしてもそれは一時凌ぎでしかない。クロムは俺の知らない拘束系の魔法を使って俺のことを拘束してくるから勝ちは最初からクロムにある。
「抵抗しないんですね」
「抵抗しても無駄だと言うことをここ1週間でよ〜く学んだからな。それとおまけでクロムの魔法を解析もしたぞ」
「おー、それは怖い怖い」
ぜって〜思ってね〜な。拘束系の魔法は跳ね返すことができない。だから、喰らわないように魔力を感知しなくてはならないらしい。ちなみにこれは本からの知識である。
魔力の感知をすることが出来ないと高速の魔法から逃れられないなんてなんて最悪な魔法なんだ。そして、拘束の魔法は人間界では使われていないらしい。その理由は人間の場合魔力が少なくて発動できないと言う人も多いし、それを使って誰かを苦しめる輩がいたのだそうだ。過去にその魔法をキング、王に使って事件が起きたこともあるのだとか。こっちではないよ。人間の世界だけだからね?
「では着替えますよ」
「俺はもう嫌なんだが?それに袴は着心地よかったぞ?」
「袴などというものを着たことがありませんので」
「いや、あれはいい。それに着物があったらいいんじゃないか?着物は女性に人気だし、自分の好きなように着こなせるから楽だと思うぞ。形を変えれば先頭に向いたものにできるはずだし……」
「後で考えてみますね」
ちなみに元オタクの俺からすると着物はよく小さい子が来ているような浴衣のが好きだ。スカートが短いから細くて白い足が見えるのがいい!前世の趣味なので今世ではそうと思わないわけではないが、思わないことにしておいてくれ。
と言うような思考はやめよう。口に出てしまったら大変だしな。
「着替え終わりましたよ。今日は雰囲気変えてみましたよ」
昨日までフリッフリのワンピースだったのにどうしたの。いきなりこんなシンプルになるって何かあった?
「シンプルにしたほうが似合う説は当たっていたようだ。こちらの方が可愛ではないですか!ファル様!」
「俺は可愛い格好したくないんだよ。それと出来れは袴作ってくれない?あれいい。色は黒とか藍色とか青とかそこら辺の色にしておいて」
そう言って俺は食事を食べるために食堂へ向かった。
「こんにちは」
そう、騎士がコスプレをしたメイドさんだ。この前の掃除大事件の時に仲良くなった。
「また会いましたね」
「っこおに住んでるからね」
「今日もワンピースですか?何かありました?」
「何にもないよ。クロムに着せられてるだけだから」
「私が何とかしましょう!」
「できるの?」
「これでも一応騎士団長なので!」
うん?今なんて言ったぁ⁉︎
「き、騎士団長⁉︎」
「騎士団長ですが何か?そう言えば新しい魔王様に挨拶してなかったですね」
「第3騎士団、騎士団長ミカだ。以後お見知り置きを」
「知ってるだろうけど俺は魔王のファルヴァント。これからよろしくね」
「こちらこそ」
そう言って俺は食事の席に着く。もう席には料理が置かれており、いつでも食べられる状態になっている。いつも通りの食事を口にしつつ俺は思う。全部こいつが原因なんだけど……と。
「魔王様は女装するのが気に入ったのですか?」
「何で?」
「いや、魔王様なら抵抗出来ないのかなぁと思いまして……」
「クロムに無理やり着せられてる。何度着替えても何度逃げても結局はこれを着ざるおえないから無駄な抵抗をするのはやめた。それだけのことだよ。それに抵抗したら抵抗しただけ体力も失われるからね。それだけのこと」
「なんかすみません。意外とクロムは強いですからね……」
そうだね。クロムは強いよ。と言うか追いかけるのだけは早いよ。剣とか使ってるの見たことない。
食事を食べ終わった俺は執務室に向かい自分の仕事をまっとうすることにした。ルキアにも招待状を出さないとだな。報告書は城に誘ったときについでに持ってくると言っていたから。早いほうがいいだろうろう。俺の経験談だが、報告書の作成は簡単だ。そんなに時間がかからずに終わる。1日あれば完成すると思う。
クロムと相談した結果ルキアとの食事会は3日後となった。こっちに来る時間を考えるとこれは早すぎだが、クロムからルキアへの嫌がらせだそうだ。俺はば黙っておくことにする。ルキアの領地から1日で着くのだから大丈夫だろうと思いながら。
上から下への手紙は使い魔で送ることが多いので、今回も使い魔で送ることになった。
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