第13話 クロムのいない生活
クロムがいない生活は不便極まりなかった。晴樹は騎士なので料理ができないと言われたのだが、どのくらい作れるのか知りたかったので作らせてみた。そしたら大変なことになっていた。いつまで経っても厨房から出てこないと様子を見に行ったら台所が大惨事になっていた。
切った大根が転がり、中の切り干し大根らしきものはつゆに浸かっていた。切り干し大根ってこんなにつゆ多かったっけ?未だぐつぐつと音を立てている鍋は大変なことになっていた。
と言う事件があり、食事は俺が作ることになった。
俺は前世の記憶があるからある程度の料理なら作れる。それにここは豆腐があるのだから味噌や醤油もあるだろうと倉庫を漁ったら出てきたのだ。クロムは味噌や醤油の使い方がわからなかったみたいだけど、俺はわかるからそれで味噌汁を作ろうと思う。
味噌汁があると米が欲しくなるがそれはなかった。流石に植物がなかなか育たない地で植物は少ないよなぁ……味噌や醤油も大豆からできているはずなんだけどなぁ…‥もしかしたら森の中に生えているかもしれない!と思って植物が唯一普通に生えることができる地に行った。その奥にある沼にないかなぁ?と言う期待をかけて。
この森の奥はあんまり行ったことなかったから何があるか知らないんだよね。他にも食べられそうな植物があるといいな。
結果から言うと成功だった。沼のところに大豆や米、麦など日本でよく食べた食材が生えていたからだ。
俺はこの世界では珍しいであろう食材を使って食事を作った。使用人の分は自分たちで作っているからクロムも作っていないそうだ。なので俺も自分の分と晴樹の分だけ作った。クッキーなど美味しいお菓子はみんなで食べた。
こんな生活が始まってから1週間。城が物凄く埃臭い。そういや掃除をやっている者をみかけるが、全てに手が行き届いていないように感じる。そのせいだろうか?
床の隅や家具の上などに埃が溜まり、蜘蛛の巣があちこちにある。不気味な感じが魔王城っぽくていいが、埃はどうにかしたい。なので毎度のコスプレをしている騎士に俺は掃除をするよう頼んだ。
そして俺が自分の仕事を終えて散歩でもしようかと廊下を歩いている時だった。
防音結界が張ってったからだろうか?気ずかなかったが、凄い音がしている。
あっちからはドッカーン!とか、こっちからはガリガリガリ……とか。い、一体何が起きているのだ!
「お前、何をやっている!」
「えっと、床を綺麗にするには水が必要かなぁ?と思ったので水属性の攻撃を繰り出しました」
「お前は馬鹿か!これは全部片付けておくように」
「は、はい」
「そして掃除は削るのではなく、掃いたり吹いたりするのだ。ちゃんと綺麗にやってくれ」
「わかりました」
俺は次のところに行って話を聞きに行く。全員にちゃんと片付けて掃除をするように命じておいた。ちゃんとやってくれるか心配だなぁ。そう思いながら俺は風呂に入りに行った。そしてそのまま自室に戻り、今日は休むことにした。
眩しいな。そう思って体を起こす。
「……」
「はああぁぁ!!」
な、何じゃこりゃ。た、確かに綺麗にしろ。とは言ったもののこう言う意味で綺麗にしろと言ったのではない!
なんと部屋が王宮のようにキラキラになっていたのだ。眩しいと感じたのは魔法灯が異様に明るかったから。
机や椅子、棚などの家具は全て黒に近い色だったのに、全て白になっている。そして装飾も宝石がたくさん付いていてキラキラしている。ベッドも天幕にたくさんのレースや宝石、布が付け足されていて、流石に食器類は変えることが不可能だったのか黒もままだが、それ以外は明るい色が使われている。
さっきは埃や、蜘蛛の巣まみれだったのに……これなら埃や蜘蛛の巣まみれの方がマシだ。
「ファルヴァント様、お目覚めになりましたでしょうか?ではこちらにお着替えください」
「服は新しく新調しました。私たち全員で頑張ったのです」
「う、うん。ありがとう」
白、白、白……どこをみても白なんだけど!俺魔王なんだけど。城が勇者の城なんだけど!
うん、もうやだ。なんで服まで白なの。しかもキラッキラ。俺は掃除をしろ。と言っただけで城のリフォームはしろと言っていない。
「なんでこんなことになっているのだ?」
「綺麗にしろとのご命令でしたので。ふふっ」
お前は確信犯か。魔族は白を嫌うと言うのを知って居ながら……
はぁ……
疲れた。朝からもうどうすることもできない。クロムが早く帰ってきてくれないかなぁ。
「食事、作らないとかぁ」
「もう、ご用意しております」
それは助かる。そう思って出てきたものを見た時はびっくり。王宮の食事みたいじゃないか!どっから出てきたんだこの食材……
いつもの豆腐や味噌汁などの和食ではなく。完全に洋食だった。たまには洋食もいいかな?と思いつつその食事を口に入れた。
「うん、美味しい」
部屋の雰囲気は最悪だけど食事はうまい。そして服はまだ着替えていないので魔王のまんまだ。流石に勇者みたいな服吐きたくない。
「この城は気に入りましたか?」
「白じゃなくて黒い城だったら気に入っていた」
「あら、お気に召さなかったようで?」
「白いからな」
「では、黒ならいいと?」
「ああ、では明日を楽しみにしていてください」
そう言われて俺は城から追い出された。
何でだよ。俺いちゃいけないの!仕事終わってないの!そしてここが何処だかわからないの!帰れないの!どうしたらいい?多分森の中っていうことはわかるんだけど、全く記憶にない場所だ。どうやって帰ろう?
とりあえずひたすら歩いてみることにした。魔王城の方向は魔力が濃くなっているはずだから魔力の多い方に向かって行けばいいと思う。
この魔力の濃さじゃあしばらく城につかないなぁ。と思いながらひたすら走る。早く帰らないと仕事が今日のうちに終わらない。
「はぁ、何でこうなったかなぁ?」
魔物の気配もないし襲われることはないと思うけど、単純に距離的な問題はどうにもならないから全力で走るしかない。
そうだ、飛翔で帰れば走るよりも早いかも……そう言う思考に至ったので俺は「飛翔」を使って帰ることにした。これなら木を避けて走る必要もないから楽だ。
こうして4時間くらい経っただろうか?まだ着かない。大分魔力濃度は高くなっているが、まだまだだ。
「魔王様〜どこにいらっしゃいますか?」
「ここにいる」
「魔王城の改造終わりましたのでお迎えに上がりました」
「はぁ」
そう言った瞬間俺はいつの間にか自室に戻っていた。そう、いつもの自室ではない場所に。いや、あのさぁ、黒が基準の部屋になればいいってもんじゃぁないんだよ。
これはどっからどうみても女の子の部屋だろうが!フリフリの家具ばっかで闇女子か!俺は男だ!
と言う反論は口にするまでもなく俺は他のことに反論しなくてはならなくなった。
「では、こちらに招替えください」
「誰がこんなもの着るんだ!」
「魔王様以外におられますか?」
「俺は女じゃないんだ。スカートは……ワンピースはやめてくれ」
「お気に召しませんでしたか?みんなで頑張ったのに……」
目の前にいるメイドの格好をした騎士に猫かなんかの耳と尻尾がついていたら「シュン」と下がっていただろう。そんな顔をされると断りづらい……でもおかまはやだー!
「しょ、しょうがないから。一回だけ来てやる。一回だけだぞ!」
「は、はい!」
俺は黒いワンピースに着替えて椅子に座る。
もうヤダよ。ワンピースって動きずらい。しかも丈短いから走るとパンツ見える……もうちょっと長くならないのかなぁ?
「ただいま戻りましたファルヴァント様、一体何が………は?ファ、ファルヴァント様!何をしていらっしゃるのです!」
「そこのコスプレ棋士に女装させられていただけだ」
「安心いたしました。意外に女性の格好の主人様も可愛いです」
「今なんて言った?俺の味方が増えたと思ったのだが、敵が増えたのは気のせいだろうか」
「ファル様可愛いです。明日もこの服着ましょう!新しいものも新調させていただきます」
「や、やめろー!」
俺の心の叫びは誰にも伝わることはありませんでした。
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