第7話 初代魔王の生誕祭

 初代魔王の生誕祭とは誰もが楽しみにする日、俺だって楽しみだった。仕事があると聞くまでは。仕事があるから午前中はおとなしくしていなくてはならないし、その後も阻止の日という形で外に出ることになるらしい。本来魔王は堂々と言ったほうがいいのだろうが、俺は「成長」という魔法で体を大きくしたり、知能を発達させてしまったりしたから魔王代理という立場を奪われた恨みをかているらしい。


 なんでだよって思うんだよね。本来魔王の子供が継がなくてはならないが、子供ができなかった場合などは従兄弟や叔父など血のつながりのある人間がなるはず。血筋重視であればの話だが、能力重視の場合は血筋が関係していないのでそれは理解できなくもない。だが、この世界は血筋重視だったから恨みを買ったとしても重数人だと思うんだよね。なんで恨みをいっぱい買っているのかなぁ。


 この話になるとため息が止まらない。恨みを買っているから、まだ力が不十分だからという理由で外に出るのを禁止されるのは不本意だ。


「魔王様、順番でございます」


「ああ、今行く」


 魔王として表に出ているときは魔王としての振る舞いをしなくてはならない。それもまた難しいところだ。日本語で喋っているからいろいろな言い回しができるけど英語とか言ったら何にも話せないんですけど?俺、魔王に転生してよかった〜。そう思わずにはいられない。


「魔王様のありがたいお言葉と祝辞」


「今日は初代魔王の生誕祭だ。皆も楽しく過ごしたまえ。初代魔王という紙にも…………」


 長ったるい祝いの言葉を言い終え、祝詞を言う。


「闇の神、アイエティス。其方の力が我々の世界まで届く時、新たなる闇の力の誕生に祝福を、そして永遠の闇に飲まれ続けているこの地をどうかお救いください」


「「「「「「わああぁぁぁ!!!!」」」」」」


 この祝詞は両膝をついて手を前に出す、そして手は器の形を作って唱えるものだ。なんのためにこの格好ウィしているのか分からない。


 なんてよくわからない祝詞なんだ俺にはこの宿志が何を示しているのか全くわからんぞ!


 闇の神、アイエティス。は闇の神に呼びかけていて、其方の力が我々のデカイまで届く時。は、神の干渉があった時ということだから俺みたいな転生者を送り込んだりすることで、新たなる闇の力の誕生は転生者がなんかいい案出してくれるだろ!みたいな感じ?で、そして永遠の闇に飲まれ続けているこの地をどうかお救いくださいは?どういう意味なんだろう。多分この地を救ってくれ〜ってことだと思うけど、そんなにひどい状況かな?


 服はこの時のために新調したらしく、白い生地に黒の光沢のある糸で刺繍した袴のようなもの。結構かっこいいな。これを普段着にできないか聞いてみよ。


 俺は一旦城へ戻って着替えを済ませ、なるべく目立たない格好にする。その上から真っ黒な外套を羽織り、廊下に出て待つ。そろそろクロムが来るはずだ。クロムも自分の準備が出来次第部屋の前に来ると言っていたからな。


「お待たせしかしたファル様」


「それほど待っていない」


 こうはいっているものの20分くらいここで待ってたような……ま、気にしない気にしない。多分結構待ってたの気がついてる。気まずっ。俺が余計な気を遣って、それほど待っていないとか言ったから空気が思い。そしてクロム黙らないでくれ。俺の唯一の筆頭側仕えなんだ。筆頭側仕えって普通は十人くらいいるらしいよ。俺は基準から比べると10分の1だもんな。少ないよねぇ。でも、信用できる人間がなかなか見つからない。のが悪いんだから。


「どこから回りますか?」


「腹へった」


「食べたばかりではなかったのですか?」


「少なかったんだよ。それと変に緊張して腹へった」


「はい、では食べ物から買いに行きますか」


 俺は子供のようにはしゃいだ。いろいろな物を見てはこれはなんだ?と声をかける本当に子供になったみたいだった。


「あ、これ!」


「りんご飴がどうかしたんですか?」


「美味しそう」


「では買っていきましょうか」


 そう言ってりんご飴を5つ買ってもらった。こんなにいらないと思っていたが、美味しくてすぐになくなってしまったから5つ買っておいて正解だと思った。


 人間界では300円くらいしたのに、この世界はりんごあめが100円だって!そして今日初めて知ったのだが、魔王領の通貨って円なんだね。なんか日本みたい。てか日本にそっくり。一部で日本刀という剣も作っているらしいから。今度あったら絶対買う。


 そのほかにも気に入ったものをいくつかかった。


 りんご飴に綿飴、じゃがバターにお好み焼き、美味しそうなものが次々とならぶ。俺はクロムと半分にして食べたからいろんなんが食べられた。


そして最後に水飴をかって城に戻った。


「美味しかったな」


「来年もきましょうね」


「ああ、来年こ来たいな」


「はい、来年も祝詞頑張って唱えてくださいね」


 ら、来年もっていった?まじ?マジで来年もこれ読むの!え、もう無理なんだけど!


「魔王様の仕事ですので、再来年もありますよ」


 さらっと地獄なこと言わないでもらえる?俺もう無理〜!


「じゃあ、そろそろ情報の開示をしましょうか。ここからはあなたにとっていい話だと思いますよ?なぜなら勇者の話なので」


「お、早く教えてくれ!」


 そう言って急かす。するとどこからか魔族が一人出てきた。見た目からして悪魔だろうか?


イケメンっていうか美青年。みたいなイメージを持たせる人だった。


「ファルヴァント様お初にお目にかかります。晴樹と申します。私は珍しくカタカナではなく漢字で滑を書く者ですが覚えていただけると幸いです」


 そう言って渡されたのは晴樹という人物の個人情報だった。こ、こんなのいらないよ〜そう思った時だった。


「ついでに私のも受け取ってもらえれば」


 そう言ってさ仕出してきたのは先ほどの紙と全く同じ項目で書かれたものだった。いや、こんなのもらってどうするんだよ!


「前魔王様は保管してらっしゃいましたが、どうします?」


「大きめなファイルに入れておいてくれ」


「かしこまりました」


 そう言って頭を下げる。そんなにかしこまらなくてもいいのに、そう思ってしまう。


「で、勇者のことについてだが、わかったことはあるか?」


「勇者召喚は貴方様の転生と同じ日に行われています。ということは10月1日ですね。そしてその者たちはもうある程度強くなっています。ファルヴァント様もなるべく早く成長なられたほうがよろしいかと。そしてもう一つの問題は勇者のせいの魔力が強すぎること。相当正義感が強いと思われます。性格的にはファルヴァント様と相性が悪いかと」


「そうだな。罠を仕掛けたりとかしてこなさそうだもんな。まっすぐ来そうで、ただ正論を言い続けてそう。そして自分の理想を押し付けそう。ファル様には向かないね」


「メンタル強化でもしたらどうです?」


「こいつの精神力。ものすごいぞ。魔力がなくなるのが先だって言いたいくらい凄いぞ。とても生後数ヶ月とは思えない」


「今何歳なんですか?」


「0歳。12月4日だから2ヶ月ですね」


「2ヶ月の魔族が戦争か、戦力的に厳しいだろ?」


「これでも上の上なので……」


 ここから俺抜きの会話をしていた。聞き耳を立てていたので話の内容は全てきいている。


 勇者や人間界の情報は結構持ち帰ってきてくれたなぁ。これはありがたい。


 そう思いながら椅子で眠りについたのだった。

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