第6話 日常 下

 人間のいる世界。そこは俺にとって地獄ともよべる場所。それは魔素が薄すぎるから。魔族にとって魔素とは酸素のようなもの。人間界に行った魔族の力が弱くなるのは酸素不足、魔素不足になるから。


 簡単にいうと魔力が空気中に少なくなることによって本来の力が出せない。という状況だ。


 逆に人間は魔素が濃すぎることにより思うように魔力が動かせなくなることで本来の力が出せなくなってしまう。魔族と人間はひたすら反対なのだ。魔族のイメージカラーは黒。人間は白。魔力も同様で魔族が黒みがかった紫、人間が白。属性も魔族は闇、人間は聖。と言ったように人間魔族はやっぱり対象の色なのだ。


「分かりました?」


「分かりました?」


「なんで疑問系?聞いてるんだけど?」


「分かってるよ。そんなに馬鹿ではない」


「ファル様のお父様は全くもって理解なさっておりませんでしたよ?」


「何でもかんでもお父様基準にしないで頂けますか?」


「ファル様はお父様にそっくりなんですからしょうがないじゃないですか!大きくなったファル様を奥様が見たら泣き崩れますよ。あんなに愛されていたのだから思い出さないはずがないです」


 お母様とお父様の話は仲が良かったしか聞いたことがないのだが、他のネタはないのだろうか?そろそろ飽きてきたぞ。


「お母様とお父様の話なんかないの?」


「えーなんかですか?」


「なんでもいいから」


「なんでもいいんですね。いいましたね?」


 魔王様ウェルフォード様は15歳。成人の儀で初めて出会ったリューレリア様に一目惚れなさいました。当時婚約者のいたリューレリア様ですが、お相手と仲が悪かったのです。その隙をついて婚約を申し込むに至ったらしいのですが、リューレリア様に未練がましく引き留めたため婚約の成立は2年後となってしまいました。あれだけ短気なウェルフォード様がそこまで待ってられたのが奇跡ですけどね。それで、無事に婚約を成した二人はなぜか次の日から同棲していたのです。ウェルフォード様は自室にリューレリア様を連れ込みました。使用人に黙って。なので後でそれが発覚した時はすごい騒ぎになりましたね。あれだけ頑なに婚約をしなかった人が自室に女性を連れ込むようになるとは、と。ま、ウェルフォード様の成長でしたから自室に連れ込むのは良しとなりましたけど、その時はもう魔王様になっていたので決定権は自分にある状態だったので、罰せられることはありませんでしたね。ウェルフォード様の先代魔王様はもうすでにこの世にいらっしゃいませんでしたし。


 まあ、だんだんウェルフォード様の愛が抑えられなくなり使用人の前だろうがなんだろうが戯れてらっしゃいました。


 見ているこっちが恥ずかしかったのを覚えています。


 こんな状態で大丈夫なのか。と心配になること多々ありました。二人きりになったらどんなことをしているのか。と頭を悩ませられましたね。


 うん、こんな話を生後1ヶ月の人間にしていいものか。精神年齢17歳だから大丈夫であり、ある意味大丈夫でなかった。


「へぇ、お父様もお母様も仲が良かったんだね」


「ファル様も女の人に近づかないですよね。何か理由があるのですか?特に同年代の方などはすごい勢いで逃げ位さって行くのが気になります」


 そんなの、非リア充にしか分かるわけないだろ!モブはモブとして生きてきた俺には無理だ。そもそもクロムに女性の扱いがなってないとか言われたから俺はもう近づかないことにしたんだよ。エスコートがどうだののこうの……俺には無理な話だっちゅうの!


「さあ?どうしてでしょう?」


「答えてくださらないのですか?」


 はい、答えません。授業を続けてください?


「……」


謎の沈黙。


「授業開始しよ。で、俺は婚約しないとダメなの?」


「まだ平気ですよ?というか竜馬様はしばらく身長が伸びないので婚約は無理ですよ?」


 うん、それは知ってたけどやっぱり改めて伸びないって言われると悲しいんだよなぁ。ま、10年後くらいに伸びると考えればそれはそれでいい気もするけど。


 「成長」って成長した分成長が早くなるのかと思いきやちゃんと停滞時があったよ。


「じゃあ、結婚しなくても何も言わない?」


「いいます。無理矢理でも後継を作ってもらいます」


「……」


「聞いてましたか?」


「俺は胡桃以外好きになれない!」


「胡桃って誰ですか!」


「俺の好みドストライクの子です!」


 男同士ならこんな会話が上がっても気まずくはならないからね。


 紗衣斗だった頃唯一好きだった女子だ。男子からはそれなりに人気な大人っぽい系の女子。俺はよく話す方だったし、連絡先も繋がってた。そして俺の人生で唯一不登校になったことを心配してくれた優しい子。


「ドストライクの子って……ファル様は前世でもあったんですかい!」


「前世の記憶ありますよ…言っていいものかわからないけど」


「はい?もしかしてじゃ無くても転生者?」


「転生者ですね…交通事故で死んだ記憶があるので」


「ありゃま、こりゃ勇者も召喚されてるかね……」


 今なんて言った?勇者?と言うことは俺は悪役!!!!!!


 柴ら悪の沈黙の後俺は決意した。最高の魔王を演じてやるっ!


 今までで極悪な魔王になってみせる!そうだ、このために俺は異世界小説というものを読み込んでいたんだ!


 これまでの経験を活かして最高の魔王になってやる!そして絶対にお母様を助けるんだ!


「はははははははっ」


「ファル様っ」


「あーあ面白い。これで俺のクラスメイト、俺をいじめてた奴が来たら痛ぶり殺してやる。地球でやられたことを倍にして返してやる」


「えっと、何をおっしゃっているのか分かりません」


「俺だけの秘密。勇者を殺してお母様を助けるっていうこと」


「それなら良くないけどよかったです」


 どっちですか。まあこれで俺の最大の目標は決まった。お母様を助けること。そう、復習はあくまでお母様を助けるための手順。勇者のいない世界を作るんだ。俺が全てを支配する世界をな。


 これからはもっと根を詰めて訓練しないとな勇者たちが敵わないと言うくらいに


「じゃあ、授業を再開します」


「ああ」


 この後はこの世界のことについて色々と勉強した。転生の特典なのかどうか知らないが一度見聞きしたものは忘れない主義でな。なんでも覚えられてしまうのだよ。


 これは紗衣斗の時と同じだから勉強法が既に見つかっていて助かるよ。


 紗衣斗の時も一度見聞きしたのは忘れなかった。どれだけ勉強しても頭に入らなかった教科もあるがそれはみなさんのご想像にお任せしよう。


 そしてまた数日が過ぎ、12月4日。今日は日本だったら何もない日だ。でもこの世界では初代魔王様の生誕祭と言って大きな祭りが開かれる。これのために今日まで色々と頑張ってきたのだ。


 魔王から直々の言葉とか言って挨拶をするのだが、その挨拶を全て覚えたり、魔族の名前や受け答えを覚えたたりと頑張った。


 祭りは1日で終わるが、数日間屋台はやっている。屋台のご飯は美味いらしい。どんなのが売られているのか今から楽しみだ。俺の出番は午後なのでそれまではおとなしくしているようにと言われていた。俺のことを知る人はごく少数だが、人数で言えば多いのだ。魔族が全体で87539万人いるとして300人くらいが俺のことを知っているのだから。その300人のうちの誰かに見つかって騒ぎ立てられても困るからだと言っていた。


 その意見には納得できるな。


 本でも読んで過ごすのがいいかもしれないな。本を読んでいればすぐに時間は過ぎていくだろう。


 そう考え、本を読み始めた。ほんの大体4冊くらい読んだ頃だろうか。俺を呼ぶ声が聞こえた。なので自室から出て廊下に顔を出すとクロムがいた。


「礼服に着替えてますか?行く時間まで後30分ほどですよ!」


「ああ、もう着替えている。それにあいさつの言葉も覚えている。もう行ける状態だ」


「さすが、じゃあ20分後にまたお声かけしますね」


「ああ、待っている」


 そう言ってまた自室に戻る。やけに心配性だから今からは本を読まない法外かもしれない。20分のうち何度部屋に声をかけてくるかわからないからな。


〈3分後〉


「ファル様っ、挨拶は覚えていますか?」


「覚えている」


 俺は部屋を出てそう答える。


〈5分後〉


「ファル様っ、挨拶は覚えていますか?」


「覚えている」


俺はさっきと同じように答える。


〈4分後〉


「ファル様っ、挨拶は覚えていますかっ」


「さっきも言ったが覚えているぞ」


〈4分後〉


「ファル様っ、挨拶は大丈夫ですか?服装も!」


「大丈夫だ」


〈2分後〉


「ファル様っ、挨拶は大丈夫ですか!服装もっ!」


「さっきから言っているであろう。大丈夫だと」


〈1分後〉


「ファル様っ、「なんだ。もういいだろ、俺は何度も大丈夫だと言っている。それとしつこい!」す、すみません」


 一体何回言いにくれば気がすむんだ……


 こんな疲れ切った状態で俺は初代魔王様の生誕祭を開始した。

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