第193話 黒い鳥の告白
「ソルティア陛下・・・?」
言いかけて、ビビは目を瞬く。
ビビの知る、ガドル王国の国王であるソルティア・デル・アレクサンドルは、壮年を越えていたが、目の前に立つ人物は・・・
面影も、声も、ソルティア陛下のものだったが、いつも着用している簡易的な王族の衣装ではなく、全身黒づくめの異国の装いをしていて、しかも年齢がどう見ても、二十越えたくらいの青年で。
戸惑うビビを見返し、ソルティア陛下はああ、と苦笑した。
「そうか、いつもと服装違うから?」
「いえ、服装どころか、若返っていませんか?陛下」
いつものソルティア陛下の口調にほっとして、ビビはその隣へと歩み寄る。ソルティア陛下は笑い、肩をすくめた。
「本来の僕はこうなの。ガドル王国国王ソルティア・デル・アレクサンドルは、仮の姿」
「・・・普通、逆ですよ。実は国王だった、ビックリ!!ってのが
真面目に質問してくるビビに、ソルティア陛下は噴き出し、声をあげて笑った。
「魔法じゃないよ。この空間では、僕は本来の姿に戻るんだ」
「この空間・・・?」
ビビは思い立ったように、ソルティア陛下を見る。
「わたし、タマに誘われて城の裏庭で魔法陣見つけて、そのままタマに突き落とされちゃったんです。あれ、やっぱり陛下がつないだ魔法陣だったんですね?」
「うん。ただし、君にしか見えないし発動もしないよ?発動条件が【時の加護】を持つ人間という設定になっているからね」
「・・・え?」
ビビと目が合い、ソルティア陛下は目を細める。
「君には・・・今回フジヤーノ嬢の件で、いろいろ迷惑をかけてしまったね」
「迷惑・・・って、陛下」
どこから話せばいいんだろう・・・とソルティア陛下はしばらく視線を遠くに彷徨わせ、やがて口を開いた。
「まず、僕は《アドミニア》である君を知っていた。ここが君の世界で言うところの"GAME"という世界で、僕たちは"キャラクター"と呼ばれ、君たちが管理する箱庭の中で生活している、ということ。《アドミニア》はそこで生きる自分の
こくり、とビビは息を飲む。
「フジヤーノ嬢、だけどね」
ソルティア陛下は困ったように肩をすくめる。
「あれは、君の箱庭で産まれた"キャラクター"だった。ただの
まあ・・・半分は僕の旧友の
少し疲れた口調でソルティア陛下は告げる。
「え、じゃあ、彼女は・・・」
「うん。そのまま存在を削除されたようだね。そのうち皆の記憶からも消え去っていくよ」
「・・・っ、」
ビビは思わず胸を押さえ、ソルティア陛下を見返した。
「陛下、あなたは一体・・・」
箱庭で動くただの"キャラクター"ではないのは、感じていた。ソルティア陛下はビビを見つめ、ふ、と小さく息を吐いた。
「ビビちゃん。僕もまた、【時の加護】をうけた一人、でもある」
「えっ・・・?」
ビビは目を見開く。では、ソルティア陛下も元、《アドミニア》なのだろうか?
ビビの思考を察したように、ソルティア陛下は苦笑し、首を振った。
「ちがうよ?【時の加護】は《アドミニア》を介して与えられるもの、とは限らない。僕は・・・創造神ジュピターと女神ノルンより創造された生命体でね。ずっと君たち《アドミニア》の管理する箱庭を巡り、世界を父親である創造神ジュピターのかわりに空から監視していた。・・・そうだね、わかりやすく言えば、元、【ソル】と呼ばれる太陽神。今は剥奪されたただの【黒い鳥】ソルティア・デル・アレクサンドルと呼ばれるガドル王国の国王、なんて退屈なものやっているけど」
言って、ソルティア陛下は手を目の前に掲げ、真横に切るように振り上げる。
バサッ!
何かが羽ばたく音とともに、大気が大きく振動する。真正面からぶつかってくる風圧にビビは思わず両腕で顔を覆い、後ろ退去った。
ハラハラ、と目の前に舞い落ちる影に、恐る恐る顔をあげるビビ。
足元に落ちるのは、不思議な光沢を放つ黒曜の羽。
そして、
「・・・・!!」
目の前に立つソルティア陛下の姿に、今度こそビビは息を飲んだ。
暗闇でも映える二つの黒曜の翼が、全身を覆う黒い衣装の背中からつきだし、天に向かって伸びていた。
ビビと目が合うと、ソルティア陛下はふっと表情を和らげ、突き上げた腕をおろす。翼もそれに合わせるかのように畳まれた。
「黒い・・・鳥、?」
「うん」
「太陽神・・・ソル、」
にこり、とソルティア陛下は笑った。
【銀月祭】にまつわる隠された、もう一つの話。
結ばれることが叶わず、引き裂かれた元聖女であった月の女神【ルナ】と太陽神【ソル】の二人の神様の逢瀬の日。
(ルナ、見つけた!)
星の日の前日、神獣の仮面をかぶった男の子。
(ルナ、どこにいるんだろう・・・)
ビビが人違いとわかると、気の毒なほど落胆して雑踏の中へ姿を消した、黒髪の男の子。
もしソルティア陛下が【ソル】だというのなら、あの男の子は?探していたのは・・・【ルナ】と呼んでいた・・・?
「わたし・・・神殿で、聖女に・・・ルナ、に会いました」
ビビの声は震えていた。
「わたしと同じ、赤い髪で、わたしと同じ瞳で・・・でも、」
(あのね、お姉ちゃん)
少女はビビを見上げ、屈託なく笑っていた。
(わたし、本当の名前があるの)
(ルナ、はね?調和の女神テーレ様からつけてもらった神名、なんだって。わたしの本当の名前はオリエ)
ーーーーオリエ・ルナ・ランドバルド
ソルティア陛下は淡い笑みを浮かべる。いつもの飄々とした雰囲気とは違うその静かなまなざしにビビは戸惑った。
「ああ。オリエは君の知る通り神獣ユグドラシルに唯一加護を与えられた、女神テーレに仕えるオーデヘイム王国最後の聖女だった。本名はオリエ・ルナ・ランドバルド。君のその姿は・・・本来は彼女のものなんだ」
そして、とソルティア陛下は言葉を区切る。
「僕とオリエは・・・魂縛の誓約魔法で結ばれた、魂の半身であり。君が《鍵》としてこの箱庭に転移されてしまったのは、この誓約魔法によるもの」
驚きのあまり言葉を失うビビ。
「伝説なんて、過去の過ちを美化し、民衆に聞こえ良く改ざんされたものに過ぎない。【ルナ】が・・・オリエが月の女神なんて、笑わせる」
ソルティア陛下は、一歩足を踏み出すとオーロラの広がる暗い夜空を見上げた。
「少し・・・昔の話をしようか」
※※※※※
お読みいただき、ありがとうございます。
明日、少し更新遅れます。
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