第187話 悲しい別れ⑦
「ビビは・・・?」
二階の客室から降りてきたベティーに、ジェマは心配そうに尋ねる。
酒場のドアには"本日臨時休業"の看板が下げられ、葬儀が終わった後、参列した面々は自然にここに集まっていた。
少し前までカイザルック魔術師団とハーキュレーズ王宮騎士団は、互いに関わるのを避けていたが、ビビが乱入してから不思議に以前のような蟠りもなくなっていたので、店内テーブルには各武術団のメンバーがごっちゃになって座って、雑談に華を咲かせている。
なんといっても、奥のテーブルでは、カイザルック魔術師団長のリュディガー・ブラウンとハーキュレーズ王宮騎士団総長のイヴァーノ・カサノバス、ヴァルカン山岳兵団最高顧問のオスカー・フォン・ゲレスハイムという、武術団最強スリートップの豪華な顔ぶれがジャンルカに献盃をしていて。
その滅多に御目にかかれない光景に、入ってきた一般客はみな驚いて回れ右状態で商売にならず、結局貸し切りにしてしまったのだ。
「やっと落ちついたみたい。カリストがついているから、大丈夫でしょう」
ベティーが答えると、
「ってか、なんで奴なわけ?私だって、ビビを心配しているのに」
と、ジェマは不満そう。
「仕方ないでしょ。ビビちゃんがカリストに飛びついたんだから」
デリックがジェマのグラスに酒を注ぐ。
「そうよねぇ・・・実際、あんな泣いているビビを前に、私だったらどうしていいのかわからなかったから・・・カリストがいて助かったかな、って」
アドリアーナがため息をつく。
「あの子・・・笑っているとこしか、見たことなかったもんね」
アントネラが頷く。それに、不満げにジェマはグラスを一気飲みした。
「ってかさぁ、それってカリストがビビを泣かせ慣れしているってことでしょー。全然動揺していなかったじゃない」
「どうしてもカリストを悪者にしたいのね、ジェマは」
デリックの呆れた声に周囲から笑いが起こる。
明るくまどろんだ?談笑の中、特権乱用で昼間からワインをあおる、武術団スリートップ。
「ビビが・・・素直にこのままカリストの嫁になっちまえば、丸く収まるんだがな」
ボソッと言ったイヴァーノに、リュディガーは苦笑する。
「ビビを落とすのは、守護龍アナンタ・ドライグを倒す試練レベルだな。自己評価は底辺を行くし、ビビに力を引き継いだ母親も、違う時代でガドル王国発展の為に、自己犠牲で成り立っていた人間だったようだし。娘のビビもそれを受け継いでいるんだろう」
そんなところまで、似なくてもいいのになぁと、イヴァーノは肩肘ついて苦笑する。
「いや、どう見ても俺にはビビはカリストとすでに相思相愛、なんの問題もないように感じるが?」
なのに何故ここでこじれる?オスカーは不思議そうに尋ねた。
「それは、愚息の不徳といたすところで、親としてお詫び申し上げます」
突然声がかかり、顔をあげる三人。
「おお、プラット組合長」
オスカーが椅子を引き、プラットは"失礼します"と着席する。
武術組織スリートップに加え、ヴェスタ農業管理会の組合長までが同席。店内は驚きでざわめく。
これでトドメにソルティア陛下でも現れようものなら、店はパニック必須である。
「で、実際のところどうなんだ?あの二人は」
イヴァーノに問われ、プラットはため息をつく。
「愚息がビビさんの返事を大人しく待っている状態ですね。指輪まで贈っておきながら。らしくない、といいますか・・・」
「まぁ・・・ビビ自身、まだ来年出国する意思は変わっていないからね」
苦々しくリュディガーはぼやいた。
「一応、ジャンルカの研究途中の引き継ぎは、ビビにさせるつもりだ。なんとかそれで春までは時間は稼げる」
「に、したってなぁ・・・」
オスカーが苦笑した。
「来年早々、グロッサ王国合同での討伐が始まる。今以上、カリストとビビの接点がなくなる」
「こうなったら、カリストに一服盛ってだな・・・」
言いかけたイヴァーノを、リュディガーとプラットが睨みつける。
「おい!うちの娘を嫁入り前に傷物にするのは、許さんぞ!」
いや、すでに貫通済み、だとは・・・さすがに言えずイヴァーノは苦笑いをするしかない。
「同感です。騎士団の精神に則り、しかるべき手順を踏んで・・・」
「おい、それお前が言う?エレクトラの時はデキ婚だったろーが?」
イヴァーノに突っ込まれ、プラットは珍しくワインを詰まらせ咳きこんだ。
「な、なぜそれを・・・」
「エレクトラはハーキュレーズ王宮騎士団のマドンナだったからな。憧れる独身男が多かったから、当時有名な話だぜ?」
「ふえええ~そりゃ、初耳」
ニヤニヤするオスカーに、バツが悪そうにプラットは咳ばらいをした。
しん、とする周囲に見渡せば、皆興味深々でこちらを伺っているのが見える。プラットがジロリ、と睨むと、あわてて目を逸らす一同。
とりあえずは、と話は振り出しに戻る。
「まぁ薬を盛る件は冗談としてだな、カリストに発破かけて・・・」
ヒソヒソ
「このヴァルカン山岳兵団最高顧問のオスカー・フォン・ゲレスハイム。エセル・ヴァルカンの名において全力をかけ協力する。このまま出国なんてことになったら、俺の自動洗濯機計画が・・・」
思わず口を滑らしたオスカーに、三者一斉に詰め寄る。
「ちょっと待て、なんだそれは」
「あ、やばい。なんでもない」
「お前、またビビから発想を・・・!これ以上ビビを独占するのは許さんぞ!」
「だってさ~自動で衣類を洗濯して、乾燥までする魔具、すごくない?働く婦人の味方だよ?さすが主婦目線!」
「勝手に主婦にするな!ビビはまだ独身だ!」
「そんなことに没頭させて、婚期がこれ以上ずれたらどうするんですか!」
「大丈夫だよ~設計するのはミラーんとこの、アナクレトだから。ちょっとアドヴァイザーをお願いしたいだけで・・・」
「「「許さん!」」」
「けち~~~!」
何故かどんどん話が脱線していっては、突っ込みあいながら元に戻る・・・。
まるで女子会のトークのようなノリに、ベティーは苦笑を隠しきれない。
まぁ、葬儀の後は大体皆暗いから、それに比べたらこの、飲み会の延長のような明るさは救われる。
しかし、よくこれだけの面子、集まった。武術集団が集結するアルコイリス杯開催の時でさえ、御目にかかれるものではない。
ジャンルカの功績も、もちろん大きいのだろうが・・・
「・・・これもビビ効果なのかしら?」
あれからビビは・・・といえば、泣きつかれたのか、カリストに抱えられて酒場に戻った時には、すでに夢の中だった。皆びっくりして、どよめきが起こったが・・・以前も似たシチュエーションに遭遇したことのあるベティーは、慣れたように二階のビビの部屋にカリストを案内した。
だが驚いたことに、ベッドにビビを寝かしたはよいものの、ビビはカリストの上着をしっかり握りしめて離さない。
カリストを伺うと
「俺、少しここにいる」
目線はビビに注いだまま、カリストはベットの傍らにある椅子を引き寄せ座る。
空いた方の手で、そっとビビの頭を撫でる横顔は・・・。
思わずベティーですら赤面して、部屋を逃げるように出てきてしまった。
「あのカリストが・・・ね」
※※※※
イケオジの女子会風な会話を妄想してみた(笑)
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