第166話 朝焼け※

 ※大人向け表現あり。ご注意ください。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 「・・・腰が痛い」


 ベットの中でビビは思わずうめき声をあげた。

 シャワーを浴びて奥の部屋から出てきたカリストが、それを聞いて噴き出す。


 「もう、絶対流されないんだから」

 

 呟いた声が掠れている。昨夜、あれだけ翻弄され、声をあげたのだから、仕方が無い。

 ううう、と手探りで衣服を探し、手に触れたものをとりあえず身にまとい、起き上がる。起き上がり、再び腰を押さえて唸った。

 もう、嫌だ。これ以上無理だって、駄目だって散々訴えたのに・・・。


 「それ、俺のシャツだけど?」

 くすくす笑いながら、濡れた髪をタオルで拭きつつ、カリストはベットに腰を下ろす。

 ビビは恨めしそうな視線を、平然として爽やかに笑っている男に向ける。

 あれだけ人を抱いておいて、この男の体力は化け物並だ。付き合っていたら、身体がもたない!

 

 「だって、わたしの衣類あんな遠くにやっちゃったの、サルティーヌ様でしょ!」

 ビビの衣類は遠く、手の届かないソファーの上に投げ落とされている。

 「だって、お前、なかなか脱がないしすぐ隠そうとするから」

 「サルティーヌ様が、あっぴろげすぎるんです!」

 「どうせやるときは全部脱ぐんだから、邪魔なだけだろ」

 「言い方もあっぴろげすぎ!」

 「え~だって、あれだけお互いさらけ出してヤリまくったんだから、今更・・・」

 「いやああああ!」

 真っ赤になって悶え、シーツに潜り込むビビに、カリストは声をあげて笑った。


 「ねえ」

 「・・・」

 「機嫌直せよ」

 顔、見せて?

 シーツの中で首を振っているのか、はみ出た赤い髪がふるふる動く。

 「嫌です」

 聞こえる、くぐもった声。

 「恥ずかしい・・・もん」

 「なんで?乱れて可愛かったよ、お前」

 「いやあああ!」

 ビビは更に布団に潜り込み、丸まる。

 「サルティーヌ様のバカ!変態!そんな露骨に言わないで!」

 「え~?だって打ち上げられた漁港の魚みたいなのに比べたら、感度良い方が・・・」

 「市場に並ぶ魚と比べないで!」

 

 うわーん、と声をあげるビビを無視して、カリストはシーツを剥ぎ取る。逃げようとする身体を押さえつけた。

 そのまま両脇を抱えると、ひょいと持ち上げてベットに座る自分と向い合せにして、腿の上に引き上げる。

 ビビは小さな悲鳴をあげて、あわててカリストの両肩に手を置いて、自分の身体を支えた。


 「・・・いい眺め」

 カリストはニコッと笑う。

 少し大きめの白いシャツは、裾がちょうどビビの腿の半分までで。すらりとした脚が、カリストを跨ぐように伸びている。

 一番上までボタンを止めても、ずれて綺麗な鎖骨が露わになっていた。

 可愛いな、と顔が自然にゆるむ。

 「悪くないね。俺のシャツ、お前が着ているのって、新鮮」

 ビビはふてくされたように眉を寄せ、カリストをジト目で見返す。それでも、薄い朝日が部屋を射し込む気配にふ、と表情を硬くする。

 

 昨日、あれからカリストの自宅へ連れて帰られて。

 もつれあうようにベットに身を沈めて、時間も忘れてお互い求め合った。

 最初は酔った勢いで。二度目は、合意での行為と呼ぶには程遠く。

 なので、どちらかが一方的ではなく、お互いが気持ちの良い場所を探り、求め、与えあうのは初めてだった。

 身体だけでなく、心も繋っていると、錯覚してしまうくらいに、行為に溺れた。


 カリストは優しかった、と思う。

 でも、耳元で囁き、その指先で、唇で、散々焦らされ翻弄され。

 初心なビビにとっては、全てが初めてで、やさしく触れあうと呼ぶには濃厚すぎて。

 思い出すだけで、顔から火が出そうだ。

 

 「・・・もう、時間、ですか?」

 カリストは苦笑する。

 「うん」

 「・・・あの、」

 ビビは無理に笑ってみせた。

 「補充、できました?」

 「うん。昨夜は・・・無理させて、ごめん」

 ちゅ、とカリストはビビの首の後ろに手をやり、引き寄せると唇と重ねる。

 何回か、ついばむようにキスを繰り返し、ビビの手がためらいがちにカリストの首に回されると、それが合図のようにキスは深くなる。

 苦し気な吐息と、舌が絡み合う音が、夜明け前の暗い室内に響く。


 ふ、と唇が離れる。少し息があがって、ビビは顔を赤らめたまま目線を反らした。

 「ビビ?」

 「・・・あの、わたし」

 ぎゅっと目を閉じ、ビビは声を絞り出す。

 「その・・・自分が押さえられなくて」

 「え?」

 「あんな乱れて、声出しちゃって・・・サルティーヌ様、呆れているんじゃないかって、恥ずかしくて・・・、」

 「・・・」

 

 親指の腹で、ビビの下唇をそっと撫でる。

 「煽るなよ。もう一回抱かれたいの?」

 「ちが・・・っ、」

 「呆れるわけないだろ。ああもう、どんだけ可愛いのお前って。そんな顔、他の男なんかに見せたら許さないからな」

 そのままベットに押し倒して縫いつけ、あげた小さな悲鳴ごと唇を奪う。舌を絡ませ、指先を絡ませ、苦しげに息を漏らしたビビの唇を舐めた。


 「もう・・・サルティーヌ様は、キス上手すぎ」

 思わず漏れた声に、カリストは軽く目を見開く。

 「キスしたことない、なんて絶対嘘」

 「なに言うのかと思えば」

 ぷいっ、と顔をそむけるビビに小さく笑う。

 「キスも、本気で女抱いたのも。お前が初めてだけど?」

 言って、柔らかな赤い髪を指先に絡め、

 「でも、お前の初キスは・・・他の男に持っていかれたんだよな」

 意地悪く笑うカリストに、ビビはムッと唇を尖らせた。

 「女の過去の遍歴に拘る男は、嫌われるんだから」

 カリストは軽く噴き出した。

 「それは困る。これ以上冷たくされたら、俺生きていけな・・・」

 そっ、とカリストの頬をビビの両手が包み込むのに、言葉が途切れる。

 少し頭をもたげるようにして、ビビはそっとカリストの唇にキスをした。触れるだけの唇は緊張で微かに震え・・・それでも、初めてビビからキスをされて、カリストは驚きのあまり固まってしまった。


 「最初はあげられなかったけど・・・」

 唇を離し、ビビは困ったようにほほ笑む。

 「最後はあなたに捧げますから。それで許してもらえませんか?」

 「・・・まいったな」

 ふいにカリストは泣きそうな表情になり、こつ、と額を重ね合わせる。

 

 「知っている?男はね、惚れた女の初めてに拘るんだって」

 え?と目を瞬き首を傾げるビビ。

 「で、女は・・・惚れた男の最後になりたがるんだと」

 「それは、誰の?」

 「イヴァーノ総長」

 カリストはビビの深緑の目を覗き込むようにして、小さく笑った。

 

 「お前って、どこまでも俺を粉々にするね・・・お前だけだよ。ここまで俺を翻弄するの」

 えっ?と首を傾げるビビに、何でもないとカリストは抱く腕にわずかに力をこめた。


 ああ、無理だ。ビビを好きすぎる気持ちが溢れて止まらない。


 「やっぱ、もう一回したい」

 ダメ?と首を傾げるカリストに、ビビはあっけにとられたような顔をした。くすっ、と笑い首に腕を回す。

 「ほんと、サルティーヌ様の体力って、底なし」

 「ビビを抱くこと限定だけど?」

 肩に下げていたタオルを床に投げ落とし、てカリストも笑う。

 「集合時間・・・」

 「うん、」

 カリストはそっとビビを抱きしめた。

 「大丈夫。まだあるから・・・」


*****

 朝の爽やかな恋人たちのやりとりを書きたかったのに。

なぜか濃厚になってしまったことを、お詫びします。

これにて、ドロン@カエル逃走(;^ω^)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る