第136話 閑話 カリスト・サルティーヌという男
プレイヤーである《アドミニア》だった時の記憶は。
正直、オリエを育てることに集中していたから、周囲のキャラクターのことなんて、気にしたことはなかった。
恋人にカリストを選んだのも、単に顔が良かったから・・・だと思う。GAME START時、右も左もわからないまま、迷いこんだジュノー神殿で丁度結婚式があって。祝福している観客の中で、騎士のいでたちをしていて、妙に目立っていたのがカリストだった。声をかけてきたのもカリストからで、その結婚式がカリストの妹の結婚式であったことも、後から知った。
「・・・考えてみたら、GAME上オリエの旦那だったとはいえ、まったく気にしていなかったんだよなぁ・・・」
若かりし頃、女神テーレの御子コンテストに選ばれ、グランプリになったくらいだったから(連続記録保持者とはこの箱庭に転移して知ったけど)、当然ながら当時はかなりモテていたはずだ。
実際GAMEをPLAYしてた時は、デート中に他の独身女性に声をかけられ、オリエを放置してそのままついて行ったり・・・と、それは結婚するまで続いていたから。
そんなものか、と思っていたら、実はその動きはGAME上の"浮気行為"らしく。後ほど他のプレイヤーのGAME記録の記事を読んで知った。
ちゃんと《好意バロメーター》というものが各PCキャラクターにもあって、その値によって接してくる態度も変わってくるらしい。
一度結婚してしまえばこのような"浮気行為"もなくなるらしいが、それまではやりたい放題?使ったことはないけど、無理やり恋人と別れさせたり、他の男に乗り換えたりする有償アイテムもあるというから、怖い。
意中のPCキャラクターに振り向いてもらうためには、どうすればいいのか?など、GAMEの掲示板で大いに盛り上がってるのも、度々目にして・・・GAMEの世界でもリアルと変わらず、なかなかゲスいなぁ、と思ったものだ。
話は戻って・・・カリストは今考えるとかなり優良株だったのだ。何故オリエと出会う30歳まで独身だったのだろう?要は単なる遊び人だったのか、誘われれば断れない優柔不断なのか。オリエの夫であるカリストは、今のビビの知るカリストとは似も似つかないキャラクターだった。
そんなカリストも最初はそれこそ、ハーキュレーズ王宮騎士団でそこそこ強かったから、ダンジョンに同行させてもらい、レベル上げに便利に使っていた。
頻繁にダンジョンに誘っていたのを、好意ある?と誤解されたのか。何故か毎朝一番に姿を現し声をかけられるようになり(これが好感バロメーターがあがっているアプローチなのだと知ったのは、随分後のこと)ある日突然告白される。
断る理由もなかったので、あまり深く考えずに恋人となり、婚約して結婚したまでは良かったが・・オリエが育っていくにつれレベルが逆転。上級ダンジョンではすぐにダメージを受けてしまうので、ダンジョンにも一緒にいかなくなった。
その頃はヴェスタ農業管理会からカイザルック魔術師団へ転職していて、ダンジョン探索はほぼリュデイガー師団長と行動を共にしていたから。
ところが世代交代でPLAYするキャラクターを、オリエからビビに引き継いで間もなく・・・カリストは、なんと当時龍騎士だったオリエに勝つという偉業をとげ、そのままハーキュレーズ王宮騎士団総長に昇りつめ・・・驚くほど強くなっていたのだ。これには驚いた。
騎士団を引退したイヴァーノ・カサノバス死後は、騎士団に転職したオリエとトーナメント決勝戦で戦い、毎年夫婦で騎士団総長、副総長は独占。そして晩年を迎えたのアルコイリス杯では遂にガドル王国五代目の龍騎士となり、その強さは不動のものとなる。
ビビが念願の近衛騎士になり、カリストに何度挑んでも一振りも返せないまま負け続け、結局一勝もできないまま老衰を迎えて、彼は冥界ハーデスへと旅立った。
ーーーーー
ここまでが、過去自分がPLAYしていた箱庭の記憶で。
もっと最初から、GAMEの流れや仕組みを理解すべきだったと、今更ながら思う。
ただ強くなり、オリエでカンストを目指すなら、無理に結婚する必要もなかったし、子供と世代交代するなら、もっと夫と夫婦仲を維持して計画的に子供を作るべきだったのだ。
はぁ、とため息をつく。
そして現在。ここは《アドミニア》の管理から離れた現実の世界で。
過去自分が《アドミニア》として管理し、PLAYしていた箱庭は、この世界と並行し時を刻んでいると、守護龍アナンタ・ドライグは言っていた。そして、互いの時と記憶が混じり合い不安定な状態なのだ、と。
「サルティーヌ様がビビに興味を寄せるのは・・・もうひとつの時を刻んでいる箱庭の、父親の影響があるんだろうか・・・」
でも、仮にももうひとつの箱庭が干渉、影響しているのなら。フジヤーノ嬢の指摘どおり、ビビ・・・自分は娘の設定なのだ。気持ち悪い、と言われても仕方が無いことだ。時代・年齢は違えど、近親相関に値する。
「ああ、でも確かビビのことは、子供の中で一番溺愛していたもんなぁ・・・」
妻のオリエとの夫婦仲は冷めきっていたが、末っ子のビビの幼児の頃のお出かけや、成人後の探索や手合わせの誘いは、ほとんど断られたことがない、よいパパであり父親だった。それが、どうしてここまで変わる?
あれは恋愛感情という、甘いものではなく・・・ある種の"執着"すら感じる。
何故、カリストほどの男が、自分に執着を?
・・・なんだかワケわからなくなってきた。なんだったんだろう?あのキスは・・・?
「ああもう!フジヤーノ嬢なんてわけわからん女も出てくるし!どうなっているわけ、一体!わたしは、この国を出るんだから!それは決定事項、なんだから!負けないんだからーー!」
とにかく!
カリストには今後要注意だ。あのフェロモンはヤバい。あのキスはかなりヤバい。あれは自分を見失う。近づいてはいけない。
運良く、廃墟の森の転移ゲートの拠点の設定は、ほぼ終わっているし、カリスト絡みの案件の仕事は新規ではないはず・・・ああ、でもどうやったら距離を置けるんだろう・・・あからさまに避けて、前みたいにこじれるのは嫌だし・・・
「ビビ、みっけ~!」
呼ばれたと思った次の瞬間、背後から勢い良く抱きつかれ、思わずぐえっ、と変な声が漏れた。
「・・・ジェマ。お願いだから後ろからタックルするの、やめて。わたしいつか骨折るから」
「だってー!久しぶりなんだもん!」
「うん。そうだよね、でもこれじゃお帰りのハグできないでしょ?」
顔見せて、と言うとジェマはパッと顔を綻ばせてビビから手を離す。ビビは後ろを振り返り、ジェマをぎゅっ、と抱きしめた。
「お疲れ様、怪我はない?」
「ない!ビビの顔見たら疲れもふっとんだ!」
ジェマの笑顔が好きだ。まるで太陽のように明るくて華やかで。見ていて元気になるのは、こっちのほう。
「ひとり?アドリアーナは?」
「元気だよービビに会いたがってた」
魔術師会館には不足した薬草を取りにきたのだ、という。
「今日、遠征の打ち上げやるの。ビビも来ない?」
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