第120話 女神テーレの御子コンテスト①

 「ビビが女神テーレの御子の候補に選ばれたのは、知っていたよ?」


 待ち合わせ場所の、街角広場に現れたフィオンは茶目っ気たっぷりに答えた。

 着飾ったビビを見た瞬間、フィオンは満面の笑みを浮かべて、

 「抱きしめていい?」

 と両腕を広げ、躊躇なく聞いてきた。

 赤くなりながらも頷き歩み寄ると、そっと背中に腕をまわされやさしく抱きしめられる。

 それを見かけた通りすがりの人々が、ヒューヒューと口笛を吹いて茶化したり、祝福の声をかけてくる。

 ビビは真っ赤になって、フィオンの胸に顔をうずめたまま上げることができず。反して、フィオンは笑いながらその声援に明るく応じている。

 なにか吹っ切れたような、いつもと違う雰囲気に戸惑いを隠せない。


 周囲を見渡すと、待ち合わせたカップルが抱擁をかわし、中には人目はばからずキスをするカップルも。さすが年に一度の太陽神ソルと月の女神エナの逢瀬の日である。陽の昇らない幻想的な雰囲気も一役かって、恋人たちはいつもより大胆になるようだった。


 「武術組織のスリートップが、ビビの衣装を手掛けるって噂は聞いていたけど、まさかヴェスタ農業管理会の組合長も絡んでくる、なんて」

 ビビを離す、フィオンの表情は何故か複雑そうだ。

 ビビが首を傾げると

 

 「だって、サルティーヌ組合長は・・・恋敵の実父だし。こんなことなら、そのブーツ俺が作ればよかった」

 「恋敵って・・・フィオン君は靴も作れるの??」

 「いや?俺は金属専門だし。でも、死ぬ気で向き合えば・・・」

 真面目に答え、拳を握りしめるフィオンに、ビビは爆笑した。

 

 「やだ、フィオン君。そんな敵対心持つなんて、子供みたい」

 「ビビに関しては、妥協はしないんだよ」

 つられて笑い、フィオンはビビの手を握る。

 「今年はエリザベス嬢も年齢制限でエントリーされていないし。きっとビビが投票は独占、だね」


 *


 フィオンとのんびり城下町を歩き、時々神獣や女神の仮面をかぶった子供たちにお菓子をねだられ、ヘム・マシュマロを配る。

 ヘム・マシュマロは子供たちには大好評のようで、噂をききつけた子供たちが次々と押し寄せ、ストックしていたマシュマロはあっという間になくなってしまった。

 お菓子を切らした大人たちは、子供たちのいたずらの餌食になる。くすぐりの刑だ~とか、ミマタ攻撃~と騒いでフオンの腕にぶら下がろうとする子供たちを避け、フィオンはビビの手を引き逃げ回った。


 「なんか久しぶりに会ったのに、子供たちのせいで全然落ち着かないなぁ」

 女神テーレの御子コンテストは、王立闘技場で間もなく開催される。

 結局は子供たちからほぼ逃げ回るのに時間を費やし、フィオンは残念そうに言った。

 

 「ごめんね?こんななら、もう少しお菓子多めに持ってくればよかった」

 息をきらし、ビビは苦笑する。

 「いいよ。コンテストが終わったら、ゆっくり話せるんでしょ?」

 「うん、まぁ・・・」

 「俺、ビビに話さなきゃいけないことあるんだ。この前の引き継ぎの儀式が終わった後、話したかったんだけどバタバタしちゃって」

 何気なく伝えられたその言葉に、ビビはドキリ、とする。

 

 見上げたビビの頬を、フィオンはそっと両手で包み込む。

 不安そうな顔に、くすっと笑い、

 「大丈夫、ビビなら女神テーレの御子に選ばれるよ」

 言って素早く額にキスを落とした。

 「・・・!」

 「おまじない」

 「・・・もう、」

 いたずらっ子のような笑みを浮かべたフィオンに、ビビもまた笑い返す。

 「観客席で見ているから、行っておいで」

 「ん、行ってくるね」


 **


 いつもは明るい王立闘技場だが、今日は銀月祭だからなのか、必要最低限の灯りが灯され、厳かな雰囲気が漂う。

 闘技エリア中央には、観客席から見下ろせるステージが設けられ、ステージには花がたくさん飾られている。


 フィオン君が話さなきゃいけないことって、なんだろう・・・。


 ビビはステージの裏、女性候補の最後に並び、悶々としていた。

 プロポーズまがいな告白を受けてから、その後色々とバタバタしていて、はっきりした返事を返さずにいた。

 あわただしく収穫祭も過ぎ、フィオンの兵団長の就任も終え、ビビ自身も来年の春には出国する意思は未だ変わっていない。

 ちゃんと返事をして、明確にしなければまた迷惑をかけることになってしまう。


 でも・・・


 ビビはため息をつく。

 フィオンに、なんと告げたら良いのか、わからない。

 あの包み込むような、やさしい笑顔を前に・・・手放したくないと、傍にいたいと、抱きしめて離さないでほしいと願ってしまう、弱くて卑怯な自分。

 自分はひょっとして・・・あの時以上にフィオンへ残酷なことをしようとしているのではないかと、そう思いビビは身を震わせる。


 *


 ワアッ!とあがる歓声に、ビビははっと我に返った。


 司会進行役により、女神テーレの御子コンテストの開催が告げられる。

 まず、男性の候補10名が紹介される。声援が収まり、次に女性の候補者の紹介が始まる。ビビは一番最後紹介され、控えていた神官に誘導されるまま、ステージに上がった。

 いつもはフードをすっぽりかぶって、あまり素顔を見せないビビの、いつもと違う装いに、観客席から軽いどよめきがあがる。


 足ががくがくして、ひきつらせながら顔をあげると、観客席の特等席エリアを陣取っている人たちの姿が、目に飛び込んできた。


 あ・・・っ


 目が合い、にっこり笑ってワイングラスを掲げてみせるリュデイガー師団長。

 片眉をあげ、隣に座っているプラット組合長に何やら文句を言っているふうの、イヴァーノ総長。

 それに、しれっ、とした表情でスルーしているプラット組合長。

 オスカー兵団顧問は、そんな二人を見て茶化しているように笑っている。ビビを見て、"似合っているぞ!"と口パクで伝えてくる。


 じわり、と胸に温かいものが湧いてきて、ビビは思わず笑みを漏らした。


*


 「では、投票結果を報告します」


 進行役が書類片手にステージへあがる。

 まず、数名の男性の名前が発表され、最後に名前を告げられた男性は天に向かって大きくガッツポーズをとった。

 歓声と拍手が沸き上がり、巫女から賞品らしき包みを渡される。


 そして次は、女性陣の発表。

 歓声とともに次々と名前をコールされるのを、ビビはぼんやり聞いていた。


 「最後に、女性で女神テーレの御子に選ばれたのは・・・」



 「ビビ・ランドバルドさん」


 ・・・え?


***


ほとんど人前に出ないビビが何故グランプリに選ばれたのか?

・・・きっとオーロックス牛も投票対象に入っていたのではないかと←ヲイ(;^ω^)

ま~進行上必要なゆるい設定ということでご勘弁くださいませ。

と、お詫び?も兼ねてもう一話投稿します☆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る