第112話 丸太切り落とし大会本戦

 夕刻 ガドル王国王立闘技場にて。


 「丸太落とし本戦、決勝!上位3組の紹介です!」


 「一番手、ヴァルカン山岳兵団、軍人貴族ミラー家長子。フィオン・ミラー!」


 「二番手、ハーキュレーズ王宮騎士団、第三騎士団副隊長。カリスト・サルティーヌ!」


 「三番手、異色の武術団ペア、ヴァルカン山岳兵団、軍人貴族ゲレスハイム家長子。カルメン・フォン・ゲレスハイム、

ハーキュレーズ王宮騎士団歩兵隊。ジェマ・アレクサンドル!」


 ワアアアアアア!!


 怒涛の波のように、イベント会場である闘技場内に歓声が響く。

 あまりの盛り上がりように、メインイベントであるはずの釣り大会の表彰式が、先に行われたくらいである。

 

 「9年に一度のアルコイリス杯の決勝だって、ここまで盛り上がらないわよ。どうなっているのかしら?」

 隣に座るファビエンヌが可笑しそうに呟く。

 ビビは胃の痛みに耐えながら、観客席からステージにあがる三組を見る。


 「しっかし、さすがいい身体しているわよね~眼福だわぁ」

 

 周囲を見ると、遠方の席の女性は皆双眼鏡のような魔具を片手に、鼻にはハンカチをあてているという異様な光景である。

 中には真っ赤になって、失神寸前の者もいる。倒れて担架で運ばれる者も・・・。

 改めてステージを見下ろし、ファビエンヌの言葉に納得するビビ。


 フィオンは上半身裸で、見事な筋肉を惜しげもなく晒し。

 その鍛え抜かれ、盛り上がった肩と背中のライン、無駄なく引き締まって割れた腹筋。

 文句つけ所のない体躯である。ヴェスタ農業管理会婦人会のマダムなぞ、ヨダレものだろう。


 一方、カリストといえば。予選では見慣れた騎士団の練習着姿だったが、決勝では肩むき出しの、黒いピッタリしたインナーを身に着けていた。

 フィオンほどではないが、すらりと見えながら思いのほか筋肉質で。

 黒髪に白い肌と黒のインナー。首にさげた銀のドックタグの対色が妙にセクシーでフェロモン全開。

 若い女性はその姿を目に焼き付けようと、"瞬きするなんて勿体ない!"とそろいもそろって乾燥からの充血モード。こりゃ、目薬を大量に準備しておかなきゃな、魔術師会館通して市場の薬局に通達しておこう、とビビは思った。


 そして、意外に一番歓声を受けているのが、ジェマとカルメンコンビ。

 なんと、おそろいのダボダボの作業ズボンに、上は両者豊満な胸を強調する赤いトップス姿がカッコよすぎる!

 男性顔負けの筋肉と、見事なシックスパックを披露して、男女共々、視線をくぎ付けにしている。

 "ジェマおねえさま~"、"カルメンさまぁ~!"と少女達からの大声援。中には『結婚してください!』と意味不明なメッセージが書かれたプラカードを掲げている者も。


 よくよく聞けば、オスカーがこの勝負の落としどころをリュディガーに相談し、そこにたまたまいたエリザベスが思いつきカルメンに提案したところ、カルメンも密かにフィオンに対して敵対心を持っていたようで・・・ギャフンと言わせられるなら、とジェマとの共戦を受け入れたという。

 イヴァーノだけ知らされていなかったことに対し、裏切り者!!俺の楽しみを返せ!と文句を言っていたようだが、いつものごとくスルーされていた。


 カルメンとジェマの異種格闘技?ペアは、想像以上の快進撃を繰り広げ、参加者の度肝を抜いた。

 仲が悪いと思われたこの二人、驚くほどのチームワークを見せ、寸秒も無駄にせず声を掛け合い交代しながら、次々とすごいスピードで丸太を斬り落としていく。

 これは、ひょっとしたらひょっとして、本当に優勝をかっさらってしまうかも?


 "ビビのキスは渡さないわよ!"

 

 参加選手が発表になった時二人より宣戦布告され。フィオンがこりゃやられた、と笑っていたのに対し、カリストは鼻で笑って相手にせず、一触即発だったという。

 ビビは相変わらず無表情で、周囲の声援に応えるふうでもなく、平然と手にグローブを装着しベルト調整しているカリストを見つめた。


 *


 "なんで、丸木落としのイベントに参加したのか、って?"


 決勝戦がはじまる少し前、ジェマとカルメンに激励をおくり、スタンド席に戻る途中カリストを見かけて思わず声をかけた。

 早朝のジュノー神殿では、人に囲まれてロクに会話が出来なかったから。

 このイベントに参加すると聞いたときから、ずっと疑問に思っていたこと。


 "ひとつは・・・今自分がどれだけ"気"を扱えるようになったか、試したかったから"

 イヴァーノが言った通りの回答だった。

 もう、ひとつは。


 すっと伸びた手が、ビビの腕を捕える。

 そのまま引き寄せられ、壁に押しつけられた。


 "俺は売られた喧嘩は買う主義だ"


 えっ?と顔をあげれば、怖いほど真剣な目で、まっすぐ自分を見つめる青い瞳。


 "ご褒美"


  カリストの唇がゆっくりと弧をかいて、そのままビビの耳元に寄せられ、囁く。


 "キスは口によろしく"


 *


 かぁああっ、とビビの顔が赤くなる。


 は、鼻血でるかと思った!

 耳元で囁くのはやめてほしい・・・!


 あの後、腰が抜けてしばらく動けなかったことを思いだし。ビビは思わず両手で耳を押さえ、悶えた。


 「どうしたの?」

 フィビエンヌが不思議そうな顔をしてビビを見る。

 「・・・いいえ、ちょっと今後はもう少し、自分へ興味持つことにします」

 「・・・?まぁ、ジェマとカルメンペアが優勝しないと、公開処刑が待っているもんねぇ」

 「あああ、なんでこんなことに」

 さらに悶えるビビに、ファビエンヌはほほ笑む。

 

 「ふふふ、祝福のキスが欲しいってより、ビビに対する執着と意地の張り合い勝負ってところかしら?」

 取り合いされるうちが、華よ~と頭をなでられ、ビビは恨めしそうにファビエンヌをみあげる。

 「・・・わたしに、そんな価値があるとは思えませんが。暇な人たち」

 「あなたがそんなんじゃ、あの子たちも浮かばれないわよね」

 ポップコーンとエールを手に、ファビエンヌは肩をすくめた。

 「ジャンルカも、弟子の危機なんだから、こんな日くらい出てくればいいのに・・・」


****

すみません、思い切り趣味の筋肉フェチ暴走しました・・・だって、好きなんだもん。

お詫びで(笑)もう一話アップします。

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