第110話 因縁の対決?

 「やあ、諸君。盛り上がっているね」


 と、そこへやってきたのが、ヴァルカン山岳兵団のオスカー・フォン・ゲレスハイム兵団最高顧問。

 相変わらず惚れ惚れする肩の筋肉を惜しみなく露出し。白い歯を見せて不敵に笑う。

 

 「ふふふ、悪いけど今年も丸太切り競争、優勝はウチがもらうから」

 

 おはようございます、と頭をさげるビビ。

 オスカーは破顔して、うん、おはよう~今日も小さくて可愛いねぇ、とビビの頭をくしゃりと撫でる。が、次の瞬間、横からリュディガーの手が伸び、バシッと叩かれた。ケチ!と文句を言いながら腰に手をあて、ふんぞりかえるオスカー。

 

 「なんといっても、丸太切りはフィオンとカルメンでアベック優勝狙うし!」

 アベック・・・久々聞いた気がする(笑)

 

 「ええ?カルメンが出るんですか?」

 これにはビビも驚いた。

 

 「じゃーん、ビビ!おっはよ~」

 

 オスカーの後ろから両手を掲げ、カルメンが飛び出しビビに抱き着く。その横に立つのはフィオン。

 「おはよう!カルメン。久しぶり!フィオン君も」

 「おはよう、会えて嬉しいよビビ。今日はいい一日になりそうだ」

 

 穏やかにフィオンはほほ笑む。今日も眩しいくらいの爽やかなイケメンだ。癒される。その笑顔に周囲の若い女性は歓声をあげた。

 フィオンはあまり人前では笑顔は見せないようだ。ビビの前ではよく笑うので不思議だったが、本来は不器用で女性におべんちゃらを使うのも苦手らしく、山岳兵団の女子達に囲まれても、ひきつり笑いを浮かべ自分から関わろうとしないとのこと。

 元々、ずっとダンジョンで魔人相手に斧を振っているか、鍛冶小屋に籠っていることが多く。城下に降りてくるのも国の大きな行事や祭典の時くらいで。それでも一般国民の女子には名も知れて人気があるというのだから、びっくりだ。

 

 「ね、ビビ!私、女性部門の優勝狙うから、応援してよね?」

 笑顔のカルメンに、もちろん、と返そうとし、


 「ちょっと、待った!」


 背後からさらに声がかかり、振り返れば


 「ジェマ」

 「出たわね、怪力クマ女」

 チッ、とビビに抱き着いたまま、カルメンは舌打ちをする。

 

 「ビビのハグは、我がハーキュレーズ近衛兵、および王宮騎士団の特権よ!後出しのヴァルカン山岳兵団には渡さない。その手を離せ、小娘!」


 バーン!という効果音を背中に背負い、仁王立ちのジェマ。

 その後ろに疲れたような表情のカリスト。爆笑しているデリックとオーガスト。苦笑いのアドリアーナ。


 「去年はカルメンとジェマ、いい勝負でしたのよ。寸秒差でカルメンが負けたのですけど」

 後ろでこそっ、とエリザベスが教えてくれた。


 「ふふん。ビビはいただいていくわ。我がヴァルカン山岳兵団、軍人貴族ゲレスハイム家18代目長子の名にかけて!今年こそは負けないわよ!」

 「はっ、ほざくのは寝言だけ、たれるのは寝小便だけにしな!いつまでもママにパンツ洗わせてんじゃないわよ!」

 「なんですってぇ?この脳みそスッカラカンの筋肉女、覚悟しぃや!」


 うわ~、ジェマさん暴言絶好調だわ。

 二人の間に燃え盛る闘志の炎に、さすがに周囲はドン引き気味である。

 まあまあ、どうどう、とオスカーとイヴァーノにそれぞれ宥められ、ふん!とお互いそっぽを向く。

 なんかすごいことになってきたな~と苦笑いしていると、ポンとリュディガーに肩を叩かれた。


 「お前さん、他人事のような顔しているけど。当事者だからね?」

 「わたしが、ですか?」

 「うん。みんなお前さんがらみで挑んでいるから。ちゃんと責任とるように」

 「はぁ・・・」

 みんな、って?とふと視線を送ると。少し離れたところで、フィオンとカリストが対峙しているのが見えた。


 「"先日"はどうも。挨拶しそびれましたが・・・ヴァルカン山岳兵団軍人貴族ミラー家の長子、フィオンです。サルティーヌ第三騎士団副隊長の噂はかねがね」

 大人の余裕なのか、笑顔でフィオンはカリストに手を差し出す。

 

 「今回は勝負できること、楽しみにしていました。お手柔らかにお願いしますね?」

 「・・・カリスト・サルティーヌです。こちらこそ」

 差し出された手を握る、カリスト。

 双方大人の対応で、ここまではよかった。・・・が。


 「うわ、すごい圧が」

 

 デリックがひえっ、と肩をすくめる。

 握手した瞬間、ズシン、と二人を取り巻く空間に圧がこもる。どす黒いオーラが噴き出し、一瞬にして温和な雰囲気が消し飛んだ。

 周囲をとりまく一般国民は、顔色を変え慌てたようにその場を退く。中には失神して倒れる者もいた。

 おいおい、とオスカーは目を丸くし、イヴァーノは口笛を吹く。

 

 「・・・死人がでないといいんだけどなぁ」

 

 呑気な声に振り向くと、最後に現れたのは、ソルティア・デル・アレクサンドル陛下。

 「ソルティア陛下、おはようございます」

 「うん。朝からお疲れ様」

 ビビと目が合うと、ソルティア陛下はにっこり笑った。周囲は二人の圧におされて青ざめていたが、陛下も彼らの圧にまったく影響を受けない一人である。

 「まったくねぇ、ビビちゃん通して、神獣ユグドラシルからせっかく聖なる創生の祝福をいただいたのに。のっけから、なに破壊してくれてるの、あの二人」

 口では咎めていながらも、ソルティア陛下は実に楽しそうににらみ合う二人を眺めている。


 「ほんと、期待を裏切らないよ。君たちって」

 「・・・わたしも、なんですか?」

 なぜわたしも?と首を傾げるビビにソルティア陛下はますます笑みを深くした。

 

 「うん。ビビちゃんはどっちに勝ってほしい?」

 ソルティア陛下の声に、無言で圧をかけあっていた二人が、バッといきなり視線をこちらに向けてきて、ビビは飛び上がり、後ずさる。

 「えええ??なに?」

 「うん、決めた!」

 ソルティア陛下はニヤ~ッと人の悪い笑みを浮かべる。

 あ、これ絶対ロクなこと言わないやつだ、とイヴァーノは瞬時思った。


 「今年の丸木落としイベントの優勝者には、想い人からの祝福のキスね!」


 響くソルティア国王陛下の声に、神殿内がおおおおおっ!と湧きあがる。

 

 「お、おれ、参加する!エリザベス嬢のキス、欲しい!」

 「俺も、俺も!!」

 「私も参加するわ!カリスト様のキスのためなら、一肌脱ぐ!!」

 「私はフィオンにキスしてほしい!筋肉痛も怖くないわ!!」

 主に独身の男女の盛り上がりは凄まじかった。

 それに唖然としている、武術団上層部約三名、と。


 「・・・丸木、もっと確保しなきゃ足りません・・・よね?」

 

 いつの間にかソルティア陛下の後ろで、がっくり肩を落とすのは、収穫祭イベントの総責任者、ヴェスタ農業管理会の組合長プラット。ソルティア陛下はてへっ、と頭に手を置き、ごめんね、よろしくね~と労りの声をかけた。


※※※※

ソルティア陛下は、お茶目さん(笑)

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