第95話 カリストの隣
公にできない治療だから、代金の受け取りを断ると、エリザベスはならばせめて、夕飯をご馳走させてほしい、と譲らず。
仕方ないので、連れられるまま夕暮れの城下町へ繰り出す。
エリザベス・ガロッテは今年20歳。23歳になるジェマとは母方の親戚繋がりらしい。
小さい頃からジェマにライバル心を一方的に燃やしているが、ジェマがまったく相手にせず、知らずうちに毎回リードされていること。
騎士団に入る!と家を飛び出したが、近衛兵止まりでザマ見ろと思いきや、実は恋人が王族で、近衛兵でトップだったが将来を見据え、騎士団には入れなかった・・・など。
確かに・・・ジェマにとって、エリザベスはまったく眼中にない存在なのだろう。
なんか、聞けば聞くほどエリザベスの空回りな努力が、痛々しく感じる。
が。
「だからわたくし、ジェマの嫌いなカリスト様を落とすことに決めたのです!」
いきなりの爆弾発言に、ビビはワインを噴き出した。
「・・・は???」
なぜ、そこで彼の名前が?
彼女の周りのテーブルの上には、すでに飲み干したワインのグラスが数個、片付けが間に合わないのかそのまま置かれている。
サングラスをしているので目元はわからなかったが、頬がすこし赤くなっているのは、多少なりとお酒が回り出しているのだろう。
まつげがなくなる心配がなくなったせいか、随分饒舌、というか・・・こんなに早いピッチで飲んで大丈夫なんだろうか?
ビビの心配をよそに、エリザベスは給仕にワインをボトルで追加オーダーする。
手にしたグラスワインをくいっと一気にあおり・・・わーお、可憐な外見に似合わず、飲み方は男前。
「まぁ、カリスト様の横に並んで立つには、私くらいの器量さが必要なのは、勿論ですけど!ジェマに対抗するには、もう男!ですわ。カリスト様しかいませんわ!そう思いませんこと?」
エリザベスはすっかりいつもの調子?に戻ったようで。さらり、と自慢の金色の巻き髪を、空いている方の手で肩の後ろへ押しやる。
あ、こりゃ酔いがまわってエンジンがかかり出す前兆だ、とビビは思った。
が、しかし・・・ちょっと待たれよ。
「・・・自分の見栄で、相手を選んでいるってこと?恋愛感情は二の次で」
「まさか?カリスト様のこと、お慕いしているわよ?あの美貌。騎士団副隊長としての地位、16歳から4年間テーレの御子として選ばれ一緒にいたのです。わたくしたちが結ばれる・・・これは運命なのですわ。当たり前のことお聞きにならないで」
・・・残念ながらカリストは、まったくそう思っていない気がするんだけど・・・。
あの、恐ろしいほど無愛想な男の顔を思い浮かべながら、ビビは苦笑した。
その態度に不満そうなエリザベスは、つやつやとグロスをひいたような唇を突き出すようにし、少しすねたようにする。その子供っぽい仕草もまた可憐だな、と思った。
悪い人物ではないのはわかる。非を認める素直さもある。でも、どうしても・・・今の彼女に対しては好意を持てない。
「・・・当たり前、なのか」
噴いたワインを拭きながら、ビビは複雑な気分で、カリストの素晴らしさ!を力説するエリザベスを見る。
さすが親戚。
イヴァーノ総長の筋肉←ここポイント、を熱く語るジェマと重なる。
まったく語られた内容が頭に入ってこないのも、同じ。それは、自身がそれに関して興味がないから。
どうやら酒豪らしいのも同じ。・・・絡み酒系統なのは、ジエマとは違うかな?・・・怒られそうだけど。
などと分析しながら、ビビはワインをちびちび飲みながら、ため息をつく。
カリストとエリザベス。確かに美男美女の文句ない組み合わせなんだけど・・・なんか、あのカリストとエリザベスが恋人?という図が想像できない。
だってさ・・・
ビビは手元のワイングラスをのぞきこむ。
ふと先日、ジュノー神殿で思い返していた両親の会話。GAMEでのシーン。
初めて出会ったのは、ジュノー神殿でのカリストの妹の結婚式。ブルーベルの枝に絡まったオリエの髪をほどいてくれたことがきっかけだった。
"ねえ、今日は何の日か知っている?"
とある朝いきなり誘ってきて、忘れていたけどその日はオリエの誕生日で。綺麗な花束を贈られ、好きだと告白されたシーンを思い出す。
"今日は聞いてほしいことがあるんだ"
ジュノー神殿の花の前で跪き、結婚してください、とプロポーズされたシーンを思い出す。
"一生愛し、護ると誓う"
と、ジュノー神殿で交わした騎士の誓いと、キスシーンを。
オリエは自分が作った理想のキャラだから、当たり前なんだろうけど、本当にお似合いの2人だった。
カリストの隣は・・・オリエだったのに。
*
「なんか・・・複雑だなぁ」
なんだろう、胸がざわざわする。
ああ、いけない。またGAMEの世界とリンクしてしまった。
ここは別世界なんだ。皆、自由に生きていい世界なんだ。自分の理想を押し付けるなんて、間違っている。
ズキリ、とこめかみに痛みが走り、ビビは息をついた。
給仕らしい男性がやってきて、エリザベスにそっと耳打ちをした。エリザベスは僅かに眉をひそめ、ちょっと失礼と席を立つ。
何だろう?とその後ろ姿を見送り・・・そろそろ帰りたいなと思った矢先。
「なに、人の話題で勝手に盛り上がってるの?」
上から聞き覚えのある声が降ってきて、ビビはびっくりして顔をあげた。
「・・・サルティーヌ、様?」
※※※※※
余談ですが。
わたしはよく『吹き出す』という言葉を使います。
可笑しくて、プッと笑ってしまう意味で使っていましたが・・・
口からふくのは、吹き出す→噴き出すが正解みたいですね。
気づいたら直すようにします(^-^;)日本語って難しいですねー
お読みいただきありがとうございました。
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