第70話 免疫なき16歳

 ああ、

 びっくりした・・・

 びっくりした・・・

 びっくりしたー!!!

 無自覚なイケメンって、タチが悪すぎ!


 ジェマと城内を大股でずんずん歩きながら、ビビの心臓はバクバクである。

 ぬかった。全くをもって、油断していた。

 と、焦りながらも・・・先ほどいきなり抱きしめられた感触が、まだ残っているようで。


 頬に触れた黒髪は、ちょっとくせ毛でやわらかかったな、とか。

 背中に回された腕は力強くて。

 びっくりするくらい、胸も広くて。細身だと思いきや、練習着を通してわかる鍛え上げられた胸筋の感触が・・・


 「いやいやいや!なに妄想暴走してるの、わたし!」

 

 仮にも!相手はカリスト・サルティーヌだぞ!

 GAME上では、父親なんだぞ!

 父親にときめくって、娘としてやばいだろう!


 *


 「・・・大丈夫?顔、赤いよ?」

 

 顔から湯気を出さんばかりに動揺し、百面相をしているビビに、ジェマが心配そうに尋ねる。

 「恥ずかしながら・・・免疫ないの、バレバレだよね」

 赤く染まった頬を両手ではさみ、ビビは目を潤ませながらため息をつく。そんなビビの横顔を見つめ、ジェマはやばいなぁ、と苦笑する。

 

 「その顔、ぜったい野郎連中に見せちゃ駄目だからね?それだけ可愛いければ、過去に男の一人や二人いてもおかしくないのに、免疫ないなんて意外。もしや、ビビったらまだバージン?」

 ぶほっ、とさらにビビの顔面温度が上昇する。

 「ば、バージンって、ジェマ!わたしまだ16歳だよ?成人して間もないんだけど!」

 「え?ここは16歳じゃ普通に経験済みだよ?私とか15歳の時に・・・」

 「いやぁああああ!そんな情報、いらないからーーーーーっ!」

 なんだろう、この前世との成熟の差異は?十代で婚約とか結婚とか出産とか、当たり前なんだろうか。

 

 「あら、まじで。私が男なら躊躇なくソッコー押し倒していただいているわ、残念」

 ジェマは苦笑して、ビビの頭をなでる。

 「・・・でも、カリストはやめときなね。あいつ面倒くさいしビビが泣くの目に見えているもん」

 「誰とも、どうにもなりません。わたしは一生一人を貫きますから!」

 ビビはぶーたれたように、顔を背ける。

 そうだ、こんな力、子供に引き継ぐわけにはいかない。わたしの代で終わらせなきゃ。


 カリスト・サルティーヌは危険だ・・・

 近づいちゃ、いけない。


 先日のカリストとの手合わせで、"神獣ユグドラシルの加護"を持ち、龍騎士の始祖と呼ばれた母親のスキルを受け継いでいる、という話をイヴァーノとリュディガーに打ち明けて。

 時代を分けて存在した二人のオリエ・ランドバルドと【時の加護】について、どこまで信じてくれたかは不明だが、

陛下をはじめ、それでもガドル王国に留まることを、許してくれたことに、感謝しかない。


 ジャンルカは弟子として傍にいることを許してくれた。生きろ、と言ってくれた。

 だから、滞在できる来年の春ギリギリまで自分にできることは、全部やろうと決めていた。

 ヒール草のレベル向上から、王家の温室管理、回収した魔銃機兵を使ったエネルギーカートリッジの開発。ダンジョンの生態系の研究。そして自身新たに溢れ出るスキルと魔法陣のコントロール。

 怖いけれど、今は受け入れるしかない。

 学び、選んで、そして"最果ての地"へ向かうのだ。


 【黒い鳥】を探し、今度こそオリエを【時の加護】から解放させるために。

 わたし自身、あるべき世界へ戻るために。


 恋、なんぞにかまけている暇はないのだと、自身を叱咤する。

 第一、万が一帰化して結婚し、GAMEのように子供でも作ろうもんなら・・・またその子供に【時の加護】を引き継がせ、同じことを繰り返すことになってしまうだろう。


 もう、間違わない。わたしは逃げるわけには、いかないんだ。

 そう言い聞かせて・・・。

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