第18話 弟子入り
リュディガー・ブラウン。
オリエがガドル王国に帰化した時、カイザルック魔術師団のトップで、前アルコイリス杯覇者で龍騎士、引退後はベロイア評議会の長老・・・という、ハイパーな経歴の持ち主だった。
初期設定時から戦闘レベルが他のキャラクターと比べて桁外れに高く。GAME進行上で、オリエで一度だけアルコイリス杯で対決したが、恐ろしいほど強く、まったく歯がたたなかった。ほぼ無敵であったオリエに、唯一過去負けをつけた人物でもある。結局は彼自身が引退するまで、その後もトップの座は誰も奪えなかった。
ガドル王国最強の武人でありながら、笑った笑顔が優しくて、魔術師団に入ったばかりの下っ端のオリエを無下にせず、一緒に上級ダンジョンの検索に付き合ってくれたり、誘ってくれたり。時々食事に誘ってくれたりと、非常に友好な関係だった。以上がオリエの記憶である。
そういえば・・・ブラウン師団長だったな、ダンジョンでたまたま一緒に戦って、戦闘が終わったあと声をかけてきて、筋が良いから魔銃兵やってみない?と誘ってくれた人。あの時は、そんな雲の上の人物とは知らず、普通の魔銃士と衣装が違う、やたら強いおじさま・・・という認識だったけど。
そう、前世この龍騎士リュディガー・ブラウンは、お気に入りのキャラクターの一人だったのだ。
うわ、本物の・・・龍騎士だ!"あの"憧れのリュディガー・ブラウン師団長だ!やっぱり、か、かっこいい!
ビビは興奮のあまり、顔を赤くして身を正す。
「びっ、ビビ・ランドバルドです!」
言って頭をさげる。
「ジャンルカ様には、大変お世話になっています!」
・・・。
・・・・・・。
あれ?
反応がないのに、顔をあげると。
額に手をやってため息をついているジャンルカと、うつむき、肩を激しくふるわせている、リュディガーの姿が飛び込んでくる。
「・・・あの?」
ぶはっ、とリュディガーが堪えきれずに、派手に噴き出す。
「あははははは!」
「・・・師団長」
リュディガーーはゲラゲラ笑いながら膝を叩く。それを憮然と眺めるジャンルカ。
あー・・・わたし、またなんかやらかした?
「いや、失礼」
まだ沸き上がってくる笑いに耐えながら、リュディガーは手を振る。
「このジャンルカ様、にね、お世話になっている、なんて言われるの、初めて聞いたもんだから・・・ぶぶっ」
「・・・」
ジャンルカは黙ってグラスにワインを注いでいる。
どうやら、ビビが眠りこけている間、2人で飲んでいたらしい。
テーブルにはワインと、ちょっとしたオードブルが並んでいる。やはり上層部ともなると、食べるものも上品になるなぁ、と感心するビビ。
「謎に包まれていた、ベルド遺跡の甲殻魔銃機兵の回路の解析を祝っていたところだ。お前さんも飲むかい?」
えっ?と首を傾げると、横からグラスを手渡される。
「駄目だ。お前はこっち」
ジャンルカに言われて、受け取ったグラスをのぞきこむと、どうやらジュースのようだ。
「なんだ、すっかり保護者だな」
リュディガーはニヤニヤ意味深に笑う。ジャンルカの憮然とした表情を見て、ビビは慌てて首を振った。
「いえ、わたしお酒強くないので、これで充分です。すみません!せっかくのお二人の語らいに、お邪魔しちゃって・・・」
「何言ってるの。功労賞はお前さんでしょ?起きるまで待っていたんだよ」
言って、リュディガーはにっこり笑って持っていたグラスを、ビビのグラスに重ねる。薄い高級のグラスは、重なって軽やかな音の余韻を響かせた。
「あれだけの回路を書き込むの、大変だっただろう?ご苦労様」
「・・・あ、ハイ」
ビビは隣に座るジャンルカを見上げる。ジャンルカが軽く頷いたのに、ホッとする。憧れのリュディガー師団長に労われるなんて、なんとなく気恥ずかしい。えへへ、とちびちびジュースを口に運ぶビビの頭を、ジャンルカはくしゃりとひと撫でする。
それを見て、リュディガーは満足そうに笑みを浮かべた。
「ビビ」
呼ばれて、視線をリュディガーに向ける。
「今、お前さんが寝ている間に、ジャンルカとも話していたんだけどね」
リュディガーはワインを一口飲む。
「お前さん、ここ、カイザルック魔術師団で働いてみないか?」
「・・・えっ?」
「聞けば今はベティーロードの宿にいるんだろう?王国へ帰化するにせよ、来年出国するにせよ、日々の生活にお金は必要になってくるし」
リュディガーは微笑む。
「そもそも、帰化していない旅人が後ろ楯なく日銭を稼ぐのは、大変だよ。それより、うちで働けば身元も保証するし。なにより・・・」
リュディガーは視線をジャンルカに向ける。促されてジャンルカは頷き、ビビを見る。
「お前は・・・質のいい魔力を持つわりには、あまりにも発動に節操がなく危険だ。大体、無意識に魔力切れを起こすなど危険きわまりない。もう少し魔力のことを学んだ方がいい」
「ジャンルカさん・・・」
「ビビがここで働くうちは、我がカイザルック魔術師団が身元を保証するし、保護する。いろいろ、ジャンルカに教えてもらうといいよ」
リュディガーの言葉に、ビビは目を見開き、ジャンルカを見返す。
「あ、あのわたし、迷惑じゃ・・・」
その視線に、ジャンルカの片眉が軽くあがる。
「すぐに寝て、膝を提供する以外は」
・・・デスヨネ~
がっくりするビビに、ジャンルカは手を伸ばし。くしゃり、とその赤い髪を再度撫でた。
「冗談だ」
ぱっと顔をあげるビビ。自分を見下ろすまなざしは無表情ながらも、どこか温かい。
「お前には期待している。膝くらい、いつでも貸してやる」
言われて、ビビは赤くなった。両手で頬を押さえ、目をそらす。
「あ、ありがとう・・・ございます」
ああ、心臓爆発しそうなんですけど!
リュディガー・ブラウンはまじまじと、そんな2人を見比べる。ビビと目が合うと、にっこり笑った。
「決まりだな。明日にでもアランチャに書類出しておく。よろしくね、ビビ」
「はい!」
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