第11話 カイザルック魔術師団②

 ファビエンヌはくるっと身を翻し、さっさ司書室を出ていく。ビビは慌ててアランチャに会釈して、その後を追った。


 GAMEのカイザルック魔術師会館は、こじんまりとした建物だったが、実際はそのなん十倍か?ってくらい、佇まいは城そのものだ。会館の敷地内に併設されている王立図書館は入ってすぐの場所にあったが、ビビは迷子にならないよう、必死にファビエンヌの後を追った。

 身にまとっている衣装から、ファビエンヌがカイザルック魔術師団の魔銃士のメンバーであることは間違いなさそうだ。


 鮮やかな赤のロングコートに対比した黒のレザーパンツとブーツ。魔銃士の証であるエンブレムが輝く、鍔のある黒い帽子。腰の銃帯にさげられた、銀の光を放つ魔銃。左右に小ぶりな魔銃をさげているのを見る限り、どうやらこの女魔銃士は両銃使いのようだ。


 GAMEでは。女魔銃士が魔銃を片手に、西部劇のガンマン顔負けの連射で、敵である魔銃機兵を次々と仕留める姿は、爽快で胸が踊った。

 まずお金を貯めるために数年、ヴェスタ農業管理会で働き、次にガドル王国要となる3つある武術組織の職業、騎士【剣】、山岳兵【盾】、魔銃士【知恵】の中で、オリエに迷わず魔銃士を選ばせたのは、ズバリ。女魔銃士の戦闘スタイルのカッコ良さだった。目の前を歩くファビエンヌも例にもれず。ロングコートを翻し、颯爽と歩く後ろ姿は、歳を感じさせず惚れ惚れしてしまう。


 「あいつ、普段はじぶんの研究室に籠って、滅多に出てこないの」

 歩きながら、ファビエンヌは言う。

 あいつ、とはジャンルカ氏を指しているのだろう。

 「昨日はたまたま、不足した素材の採集でベルド遺跡にダイブして、あなたを見つけたらしいわ。運が良かったわね。魔銃機兵と遭遇したんでしょう?」

 「魔銃機兵・・・」

 ああ、あのワケわからない攻撃してきたヤツか。ベルド遺跡は元々機械帝国の廃墟から生れたダンジョンだから、登場する敵もロボット型が多かったな。多分そのうちの一機種なんだろう。

 

 「・・・すみません、良く覚えていないんですが・・・攻撃されるなんて、ヤバかったんですね?わたし」

 彼らに自分がどう伝わっているかわからなかったので、記憶が曖昧であることを念のためアピールしておくことにした。

 ビビの言葉に、ファビエンヌは片眉を僅かにあげる。首をかしげて見せると軽く肩をすくめて目を細めた。

 「そうね。奴もソロでよく仕留められたわね。腐っても元第一魔術師団の銃士トップの名は、伊達じゃないってことかしら?」

 なんか、ずいぶん酷い言われような気がする。

 ジャンルカ氏は魔術師団の中で、良く思われていないのだろうか。でも彼女の口調はどちからというと、良き友人をからかっているような親しみを感じる。

 「でもお陰で、貴重な魔銃機兵のパーツを回収できたみたいだし?良かったんじゃない?」

 「はぁ・・・」

 

 「さて、ついた」

 カチャリと分厚いドアを開ける、ファビエンヌ。ビビは緊張のあまり、ビシッと背筋を伸ばした。

 部屋の中は薬草の匂いで充満していて、白衣姿の人間が仕切られたテーブルの前に立って、手を動かしている。調合に集中しているのか、入ってきた二人に見向きもしなかった。

 ビビがジャンルカの姿を求めて、きょろきょろ見渡していると、ファビエンヌはロングコートを脱ぎ、魔銃と帽子を壁にかけると、代わりにかけてあった白衣を身にまとう。テーブルの上に束になって積みあがっている書類を手に取った。ガラリと女魔銃士から、研究者か女医に雰囲気が様変わりするのに驚く。

 ファビエンヌを見止めて、数人の白衣姿の男が声をかけてきた。彼女より若手の男たちに、女上司らしくてきぱきと指示を出すファビエンヌ。

 ぼーっとそれを見ているビビに、ファビエンヌはああ失礼、と笑って書類を奥の扉に向けて指して見せる。


 「ジャンルカの研究室は、その奥だから」


 "ジャンルカ"

 その名前をファビエンヌが口にした瞬間、それまで黙々と作業していた人間が、手を止め一斉にこちらへ視線を向ける。

 ビビはギョッとして、思わず一歩後退した。

 「どうしたの?行ってらっしゃいな」

 背中を軽く押され、ファビエンヌを見上げると。ファビエンヌはキツネを連想させる笑みを返す。

 

 なんか・・・試されている気分が。

 ビビは愛想笑いで返し、奥の部屋に向かった。

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