第10話 カイザルック魔術師団①
ジャンルカ・ブライトマン
ベティーからその名前を聞いた瞬間、頭に浮かんだのは。
ビビの母であるオリエでGAME PLAY中、ガドル王国に帰化して、翌年からヴェスタ農業管理会に就職→貯金をして生活を安定させ、念願の魔銃士に転職した時・・・カイザルック魔術師団の魔銃士のメンバーの1人、だったこと。
アルコイリスの世界では、7人の神様が登場する。キャラクター設定時、もしくは子供の出産時にある一定の確率でボーナスとして、神々からギフトを授けられる場合がある。
オリエも女性なら誰でも欲しい、人に対し魅力が倍増する"女神ジュノー"からギフトを贈られていた。女神ジュノー様様で次々銃士メンバーと懇意になっていく中で、最後まで友人にすらなれなかった人物が、ジャンルカだった。
彼の性格は"一匹狼でポーカーフェイス"。"社交的で人好きする体質"な設定のオリエとは、正反対で相性も悪かったのだろう。
ジャンルカは熟年だった分、戦闘能力や魔力も高く、しかも好みのイケオジキャラで。是非仲良くなって一緒にダンジョン探索してレベルを上げたかったのに、いくら話しかけてもそっけなく、ダンジョン探索に誘っても毎度断られ、料理を差し入れても無視され。あれやこれや手を尽くしたが、相手にされず。埒があかなかったので、早々に友人になるのを諦めた。
ある日の朝、寿命による死亡のメッセージがテロップで流れ、一応葬儀に参加し・・・それから名前を聞く今まで、思い出しもしなかった。
"立てるか?"
恐怖と不安と安堵が入り交じり、腰を抜かして動けないビビに、目線を合わせてかけてくれた低い声は落ち着いていて。
オリエのものであろう、わずかな記憶に残るジャンルカは・・・誰とも行動を共にせず。こんなふうに他人に気遣う人間ではなかったようだ。
思い浮かぶ頭の中の情報が・・・オリエとして生きてきた記憶なのか、オリエでPLAYをしていたゲームの記憶なのか、わからない。
そして、同じ分だけビビとして生きていた記憶も見え隠れしている、妙な感覚。こんな膨大な記憶をもって、混乱しないわけがないのに、必要な記憶が都度必要なだけ引き出されるような、スイッチが切り替わるような妙な感覚。
「これが【時の加護】・・・か」
無意識に両手のひらを目元に掲げ、じっと見つめる。
今の自分は・・・ビビ・ランドバルド、だ。オリエの娘の。
何故か十代に若返ってしまっているけど。
何故か、旅人としてガドル王国に入国した流れになっているけど・・・。
GAMEでは、当たり前のように子供にスキルや武器を引き継ぐことが、器が入れ替わるだけで不老不死と変わらないことに、今更ながら気が付いた。
でも、よりによって
「・・・わたし、ビビとして・・・オリエがスタートした国と時代に戻って転移していたのか」
この事実の方が衝撃が大きかった。
*
「ご無事で良かったです。旅のお方」
ベティーとは対称的なオリエンタルな雰囲気のアランチャは、翌日ビビが王立図書館を訪ねると、司書室に招き入れてくれて、お茶を出してくれた。
黒髪をきっちり司書風にまとめて、装飾のほとんどない落ち着いた色のスーツ。チェーンを下げた銀縁のメガネの似合う、知的な美人である。旅人の管理は王立図書館の司書室で。帰化して国民になるとジュノー神殿の住民課で管理されるのだ、という。
「ガドル港から受け取った入国名簿に、あなたのお名前がありましたが、宿泊先の記名がなかったので」
言って、アランチャは書類にサラサラとペンを走らせる。
「ご心配おかけしました」
ビビが頭をさげると、いえいえ、と笑んで首を振る。
「滞在中は、ベティー・ロードの酒場の二階に滞在されるなら安心です。ビビさんのような、成人して間もない遠方の出身の若い方が、お1人で入国されるのは珍しいんですよ」
・・・どうやら自分の年齢は、16歳、という設定のようだ。GAME STARTと同じだ。そして、ガドル歴も214年で同じ・・・。
目覚めた時に身に着けていた革のリュックに入っていた、身分証明のようなカードを眺める。
ビビ・ランドバルド 16歳
出身 オーデヘイム諸国
「オーデヘイム・・・王国、じゃないのか」
オーデヘイム王国は9つある国のひとつだ。確か世界樹のある最果ての島に、一番近い場所にある国で難易度も高く、プレイヤーに好まれない人気最下位の国だったと記憶している。
GAME START時、入国する国がランダムに決められるアルコイリスの世界では、気に入らなかったら、好きな国に入国できるまでリセットするプレイヤーも多い。
中には初期国民のデータがネットで公開され、独身の青年をチェックし、好みのタイプのいる国を目指し、その相手めがけてアタックする強者も・・・。まぁ、そういう楽しみ方もあるんだろう。
当初はそれらの情報を知らず、初心者向きといわれ、一番生活水準の高いガドル王国へオリエを入国させたのだが。
幾つかの質問と、書類にサインをして、無事入国手続きは完了した。
後はGAMEの設定と同じく、滞在できるのは一年間で、国民として帰化するには手続きにお金が必要、との説明をうける。やはり、生活するためには働かなければならないのは、どの世界でも同じなのか。
とりあえず、国のことを知りたいと言うと、図書館にある書籍を色々紹介してもらった。
GAME時は、正直これら国の歴史や情報にはまったく興味はなかったが。こうして実際生活するとなると、必要になってくるだろう。
「・・・ほんとに、GAMEの中に入り込んじゃったんだな・・・」
ため息をつき、ふと顔をあげてアランチャを見る。
「あ、そういえば・・・わたしを、ベティーさんの宿まで運んでくれた方、なんですけど」
「はい。ジャンルカ氏、ですね」
「わたし・・・気を失っちゃったみたいで、お礼言えていないんです。会えますか?」
ビビの問いに、アランチャは苦笑する。
「確かにジャンルカ氏はカイザルック魔術師団のメンバーですが・・・」
「あら、あなたなの?あの能面男が抱っこしてベティー・ロードのところまで運んだ旅人って」
背後から声がかかり、振り返ると。
白髪ながら、ショートカットが若々しい、ややきつめの顔立ちをした老齢の女性が。
「ファビエンヌさん、ごきげんよう」
アランチャはお腹の位置で指を組み、優雅にお辞儀をする。
「はぁい、アランチャ。今日も綺麗ね」
言って、にっこり笑った顔が、キツネを連想させる。目が合って、ビビは慌てて頭をさげた。
「こ、こんにちは」
「こんにちは」
ツカツカと歩み寄り、伸びた指先がビビの顎を軽く捕らえた。くいっ、と顎をもちあげられた拍子に、被っていたフードがはらりと落ちる。
「・・・あの?」
文字通り、ビビが目を白黒させていると、ファビエンヌはにっこり笑った。
「可愛いわね、あなた。肌も綺麗」
「は??」
「珍しい瞳の色しているのね。髪も・・・なるほど、奴が興味持つはずだわ」
「え、えーと・・・」
こほん、とアランチャが咎めるように、咳払いをする。
「ファビエンヌさん、こちらビビ・ランドバルドさんです。ジャンルカ氏に助けていただいたお礼兼ねて会いたいそうですが、仲介お願いできますか?」
ふぅん、とファビエンヌはビビから手を離す。
「あんな鉄仮面に会いたいなんて、変わっているわね、あなた」
「・・・助けていただきましたから」
「ファビエンヌ・チェスロックよ」
言って、ファビエンヌは手を差し出す。おずおずと手を握り返すと、にっこり笑った。
「いいわ。面白そうだから、案内してあげる」
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