第14話 どうしたんだ世界よ、俺のためにあれ!
学校の男子寮であるべき所に、まさかこんな場所があるなんて僕は思ってもみなかった。
誰もが子供時代にはガシャガシャにハマった時期があるだろう。僕も御多分に漏れず、好きなアニメのミニストラップや動物や昆虫のリアルなフィギュアを、大切な小遣いで毎月回すのが楽しみだった。僕はガシャガシャを回すという世界に没頭しているのであり、今のように自分の外側の世界にむやみに憧れることを知らないのだった。
なんと僕の学園のタワー状男子寮はその1階から3階まで全てがガシャガシャで埋め尽くされていたのだ。4階以降はパソコン部の部室化しており、活動スペースやソフトを物販するスペースと化していた。まともな寮生活が送れているとは到底思えない。
「なぁ?すごいだろう?どうしてお前は今まで知らなかったんだ?」
モヒカンに近いスポーツ刈りの先輩と僕は長い長いガシャフロアーを通り過ぎるべく、階段を子気味良いペースで上っていく。
この先輩という人間はなんと二年も留年しているのだ。僕と先輩は元は二学年差で、今僕は3年生つまり同級生ということになる。男のくせにと言うのはなんだが、先輩は留年長い間髪を伸ばし続けている。同じ部活だったということで僕は先輩を凄く尊敬しているのだが、ここだけはやめて欲しいと心から思っている。もちろん先輩は聞く耳を持たない。
「普通の寮だと思ってたからですよ。先輩がいつまでも卒業できない理由が分かりました」
先輩のフサフサしたもみ上げに夢中になっていると4階に辿り着いた。そこには絵に描いたようなオタク。眼鏡集団がパソコンのモニターに集中して何やら議論を白熱させているようだ。
「今にも生命がここに誕生しようとしている」
「ガチャガチャ連中に負けない頑強な見せかけだけではない生物がここに誕生しようとしている」
僕にはぼんやりとした黒いものにしか見えなかったけど彼らに言わせれば何でもないようなものをどう見るかが重要らしい。僕はここをただの男子寮だと見ていただけかもしれない。本当なんて誰が決めるんだ。
僕は目を背けていたのかもしれない。楽しいことはここにあったのか。僕の介入が阻害される空間。そこに楽しいことはある。集まった皆と孤立した僕。僕が拒んでいるのかあちらが僕を拒んでいるのか。
「さすが部長!仕事が早い!」
仲の良さそうなパソコン部員たちの会話は僕を苛立たせた。本当に楽しめないのは僕に責任があるのか。僕が楽しもうとしていないからなのか。僕だけが責められるのか。いつまでも世界で取り残された存在なのか。無視され嘲笑われ蹴とばされゴミのように扱われるのか。それでもヘラヘラといつまでも笑っているのが僕なのか。自分の気持ちに嘘をついて偽りの仲間を作ってそこで仲良くしていればいいのか。それすらもできるのか。
いや違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。俺のせいじゃない。何もかも俺に押し付けるな。世界は俺に厳しい。おれは俺を中心に生活するべきだ。
気づいたら俺はパソコン部員を殴り飛ばしありとあらゆるpcを破壊していた。先輩は呆然と見つめていただろう。これが俺だ。誰も理解しようとしない、誰も受け入れようとしない、誰もが部外者扱いする本当の俺だ。刮目せよ。馬鹿どもが。本当の俺、世界にあるべき俺の姿を求めることは懐かしのガシャガシャマシーンを壊すまでにもいたったのだ。
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