第13話 僕にどうしろと

駅からちょっと歩いた所の橋を渡って、こちら側の狭い海よりもずっとずっと広い方の海が見える場所。人は住んでいない。もっともっと小さい子供の頃から僕の遊び場になっているちっぽけな島。僕はここを新しい友達に秘密裏に教えてあげようとしていた。

 「早くおいでよ!」

 僕は岩の間でうじうじしている新しい友達を呼んだ。

 「暗い底を見てしまって怖くて肢が動かないんだよ」

 「大丈夫だ。そんなに深くないよ」

 哀れな都会人と友達になる計画。僕の秘密を見せてあげる。例えば生きているウニとかゴカイとかかな。僕はとっておきを知っている。都会人の彼は憧憬を禁じ得ないだろう。

 もっと仲良くなるために、村ではもっと面白いものが見れることを教えてあげよう。村の大人たちの喧嘩だ。これはなかなか見れるものではないだろう。大人の喧嘩だ、遊びじゃない。時には殴り合いの掴み合いになったりもする。

 相手に対して心を開くことが重要だとこの前の道徳の時間に先生が話していた。心を開けば相手も心を開いてくれる。彼に秘密を見せることは僕が心を開いた証であり、彼も心を開く。

 さあ、やっと辿り着いた。

 「見たまえ。ここの深いところにウニがいるだろう。仲間の君にしか教えないよ」

僕はちょうど本土の反対側にある岩場の、なぜか大きな洞窟状になった場所へ彼を案内した。中には大きな穴ボコがあってそこだけ海と筒抜けになっているらしい。暗くて底が見えない。

 ここにウニはいない。そして僕は彼が泳げないことを知っている。

 「ウニってプカプカ浮いてるの?」

彼は興味津々に暗い穴ボコの中を覗く。”前習え!”

 散々やってきたんだ。


 必死に水を掻き分ける彼の両腕と妙に大きい頭だけが水面に浮いたり沈んだりしている。僕は持っていた木の棒で、苦しそうにする彼の頭を何度も小突いた。その度に彼は「ぐへっ」だの「ゴボッ」だの素っ頓狂な喘ぎ声を上げたが、しばらくすると重い鉛のようになって暗闇に沈んでいった。


 「ウニ泥棒!!」

 僕の背後で萎れたような高い声がした。片腕にギブスをはめた老人がそこには立っていた。僕は知っている。こいつはつい最近、街での移住者の取り扱いに関して町長と揉めた男だ。勿論そこには彼の問題も含まれていた。


 「何が希望だ!ちっぽけな村しか見えない未来のないガキが」

僕はまたここに隠せばいいと思っていた。何だかなぁなことも、僕を空気みたいに扱う奴のことも。

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