第8話 グッバイa

動物のことが好きな僕、けどそれは適度に好きという意味。例えば僕が飼っている猫には僕の愛情は及ぶけど、他人が飼っている猫には及ばない。

どれだけネットで他人の猫の動画を見たって情が移ることなんてない。移ったとしてもそれは仮の感情に過ぎない。その猫が死んだとしても次の瞬間には忘れているから。

 aはどうですか?分離したもう一人の僕。彼は前時代的で現代的だ。動物のことに関しては僕と正反対な人間。彼は他人の猫への虐待を虐待として非難するという行為について前時代的、非難に叫ぶという行為に前時代的、しかし非難する原因が猫ということについて現代的、全ての猫ということについて現代的。

 まったく、問題のある性癖だ。遺伝子に近いものなのかもしれない。aの殺人について筆談によりaの言い訳を聞いてやろうと試みたことがある。

 「私のAIの人権を侵害し、AIが判断を下した。」

 AIに人間の人権を求める奴は猫や犬を過剰に保護しようとする人間だというのは常々思っていた。この時代には一般的になった猫や犬に対する擬人法はAIにまでも普及してしまったことがaにより立証された。aは人間の尊厳を守れない私の意識の分離体とaのデータベースを取り込んだAI。

 aはいてはいけない。多様性の中にaを許容してはいけない。aは私が消す。全ての人の尊厳のために。グッバイa、グッバイaのような人間達、さようなら私。

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