第7話 また会えるといいね

 「あなたの好きなところ、この腕の筋肉」肩まである髪を茶髪に染めパーマをかけた女が隣で僕の体を触りながら言う。

 「腕の筋肉なんて全くないだろう、ただ他の人に比べて非課税なだけ。」

 「ところで君の名前は何て言ったっけ。顔を見ると忘れてしまった。」

 「ひどーい!私も岡田君の名前忘れました。」

 「覚えてるじゃない。」

 「あ、ばれました?てへ、」

 「とりあえず、もう教えなくていいから。僕の知ってる娼婦の名前にするよ。」

 「理央だ、君の名前は今から理央だ。」

 理央は耳のほうを指で触る。彼女の日常の些細な癖。

 「随分最近の名前を付けてくれるんですね。ゆなですよゆな。忘れないで下さい。」

 僕らは学校の教室を模した物好きのためのカフェテリアから近所の図書館へデートの開催場所を移した。僕が本をよく読むからだ。図書館の中にある自習スペースに腰を下ろした。理央は普段から本を読む習慣がないので、僕に合わせてくれている形になる。理央は図書館に少ないが置いてあった女性向けの雑誌を持ってきた。一年以上前のもののようだ。

 「これ見てよ、ここのページ凄いよく覚えてる。この服私も欲しかったな。」

 「あぁこれね。僕も見たことある。」

 「なんで?女子向けの雑誌だよ?」

 「妹がよく読んでたから。僕も無理やり見せられることがあったのよ。」

 「妹ね。」

 理央はなぜか少しがっかりしたように見えた。

 結局図書館では小声しか出せないためか(僕の会話のテクニックが彼女を楽しませることができないためか)、デートははかどらずにもう十分だと帰ることになった。

 その帰り道にゆなは本当は妹の名前で私は理央だというのだった。妹とは数年前に離れ離れになって、いつの日か自分のことをゆなだと無意識に思うようになったのだと、彼女はその日から再び姉妹として生きてきたのだと思う。

 別れ道で彼女の細い背中を眺めながら。なぜ僕は気づかなかったのか。そういえば娼婦としての理央はいつも髪を黒に染めていた。それはとても清廉を思わせ、おそらく彼女の妹よりも幼い印象を残していた。

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