第5話 創造(コンビネーション)だよ 3

その瞬間、僕は二人に分離した。一人は相変わらず校庭に残って凄惨な事故の起こった海を眺めて、もう一人は三崎君達と共に家へと帰るのだ。

 僕が歩くのはいつもと変わらぬ田園風景、そこには陸に上がろうともがくアメンボはいないし、それを防ごうと、自分たちだけ生き残ろうとする恐ろしい人間味に満ちた将校の顔はない。誰もがさっきまでのタイムスリップしたような旧日本の衝撃を覚えているようなものはいなかった。

 沈みゆく船と海が共に轟くのと優しい稲の葉のかすれる音のコントラストが同期した僕の脳内で鳴り響いた。僕はいつもの日常にいた。悲しくも嬉しくもない穏やかな田舎の風景。しかし何故か涙が流れた。いつものような帰り道で硬いボールを友達と投げ合い脇にそらしたとき、傷ついた野菜を理由にかけてきて説教をするばぁさん。そして言い訳をして必死に弁明する僕と笑いながらそれを見ている仲間たち。不意に全てが僕らなんだという確信が柔らかく僕を襲った。

 僕は目の前のデジタル表記に気が付いた。そうだ、VRゴーグルで遊んでいたのだ。ゴーグルを外して明るい外の世界をまだ慣れていない目で見つめる。そこには三崎君がいた。「どうだった?おもしろいだろ。」

 「いや、面白いというよりは何か感慨深いものを感じたね。」

 「このソフトの名前は何ていうの?」

「創造(コンビネーション)だよ。」


 終

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