第4話 元恋人Ⅱ

 僕と香奈は中学に入学してから出会った。クラスが同じというだけで、僕らは共通の話題なんてなかった。中学一年の時、ただ、委員会が同じだったというだけで、仲良くなる明確な理由は今となっても見つからない。もしもその時代に僕が今のように状況を明確に記録しても、また、きっと写真の様に切り取れたとしてもあまりにも鮮明過ぎて、ピントを合わせるものもわからず、何から書き出していいのか分からなかっただろう。だからこうやって、始めから終わってほしくない終わりまでをぼんやりピントを合わせていくことでその何かの輪郭を映していくしかないのだろう。そして、おそらく、そんな理由もないならきっと僕の恋なのだろう。僕は彼女に告白した。彼女にどの様に告白したかは覚えていない。直接なのか、電話なのか、LINEなのか、でも僕は告白したという事実だけはくっきりと覚えている。そしてその返答として、ヒロトと僕で迷っているということを突きつけられたこともこれもまたはっきりと覚えている。彼女は、迷っていた。いや、迷っているフリをしていてくれたのだと思う。僕が彼女の立場なら間違いなくヒロトを選ぶ。実際彼女はヒロトを選んだ。僕はおそらく悲しかったと思うし、香奈もきっと辛かっただろう。

 四季が半分変わったとしても僕は今まで通り接していた。ただ僕は人の前で彼女の身体に触れたりして好意を伝えていた。しかし明らかに犯罪的であるし、罪悪感はもちろんあった。その罪悪感に殺されてしまわない様に後に謝罪したが、彼女は想像を絶する性癖の持ち主で、「とても興奮していた、ただ周りで騒いでいる人間の方がよっぽど嫌だった。」と言ってくれた。僕らの心は付かず離れずを繰り返して1年生を終えた。

 僕たちは2年生になった。僕とヒロトは同じ卓球部で、そもそも小学校低学年から中が良かったから、これまた付かず離れずといった感じで部活を程々に楽しんでいた。ひとつ上の先輩達は遊び呆けて部活動に顔を出さないし、ひとつ下の後輩達は真面目過ぎて何一つ口を挟まない。だからもう既に僕らが主軸の世代になっていた。練習も授業後の数時間と土曜の午前だけで、各々の素質の高さが我々の意識の低さを補っていた。僕らはずっと適当で、顧問の先生ももっと適当なことだから、武道系の部活のないことでこの学校で貸切状態の武道館を僕たちが独り占めして、くだらないことで遊んでいた。僕とヒロトは香奈の話をしていた。香奈とデートに行った話、香奈の兄の話。ヒロトは僕よりずっとずっと大人で、また彼女を中学生ながら愛していた。そして幸か不幸か僕と香奈はまたしても同じクラスであったから、僕と香奈はヒロトの話をした。ヒロトと遊びに行った話、ヒロトの妹の話。彼女はヒロトを求めていたし、好いていた。僕はまだまだ未熟だったから付き合って、好きあってそれが恋人だと思い込んでいた。だから彼らの関係を羨ましいと思っていたし、また彼らのような恋愛をしてみたいと心から思っていた。

 どんなに皆がお似合いだと言い、必ず結婚するであろうと言われる2人にも秘密があって、その秘密を分かち合うことも皆が憧れる恋愛像にはきっとあるだろう。だが、その秘密は時には亀裂へと繋がってしまう。僕は彼らがどのようにして破滅したのかはさっぱりわからないが、とにかく2人が破局してしまったということだけは風の噂で知っていた。

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今を振り返る 浪人ダディ @Rickeyderbydirty

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