第3話 元彼女

 菊池がいらないサプライズ登場をして、僕の元々少ない僅かなモチベーションをさらに下げてきて、身支度でもして帰ろうかと思っている時、僕の隣にはもう二度と会うことは出来ないと思っていた、また今後二度と会えないであろう女の子がいた。

 その子は中学時代には想像できない純白色のドレスを見に纏い、小ぶりな真珠たちを首に飾っていた。昔の彼女は、いわゆる"オタク"と言われるような趣味をしていて、青い丸眼鏡にチェックのワイシャツを羽織るような子だった。性格はこれまたオタクそのモノで、早口で、でも相手の意見や主張を受け止めるその年齢にしては、そしてその容姿に反してもとても大人だった。根から性格が真っ直ぐな子で長く付き合っている人間にしかわからない大人な部分、人の趣味や思考を否定しないところ、そして何より顔が愛らしかった。だから、彼女を嫌っている人間は聞いたことがないし、ほとんどの人間が好いていると思う。決して、誰もが憧れるような華やかな薔薇というような女の子ではないが、県道に咲くツツジのような女の子だった。その蜜を求めてる蜂みたいに僕も彼女のまわりを飛び回っていた。僕らが最後に会ったのはおそらく2年前の元旦だったと思う。年末になると、一年生の頃のライングループが活発化することが毎年の恒例で、その年は流れで初日の出を見に行くことになった。頻繁にスケーターの格好をした不良かあるいは不良の格好をしたスケーターのいる海岸で、香奈と僕は高校生になってから初めて顔を合わせた。「久しぶり。くっそさみいな」

僕は、当たり障りのない言葉から始めていた。そもそも数日前に電話しているのだから相手の空気感は復習できているはずなのに。

「それな。卒業式以来だっけ?」

「せやなぁ」

電話ではしっかり話せていたはずなのにやはり時間が経った間柄、歯切れの悪い会話が続いた。お互いの進路のことや、香奈のアルバイトの話、そんな状況確認をした。僕たちは6.7人で集まっていたから、流石に歯切れの悪い会話の続く人間たちもその数だけ新しい話題は生まれて、初日の出にほとんどを賭けていた。こんなにプレッシャーをかけられる初日の出とやらもビックバンが起こり、宇宙が広がってから滅多にないだろう。そこに、お忍びでやってきたスペシャルゲストがいた。ヒロトである。彼は香奈の中学時代の彼氏で、香奈といえばヒロト。ヒロトといえば香奈。と言われるほどの時間を共に過ごしていた。僕も香奈と付き合っていたが、2週間か2ヶ月か、もしかしたら2日間だけだったかもしれない。仲間達は香奈の主役の彼氏はヒロトで、僕なんてせいぜいハンバーグの備え付けの人参か、良くてもポテトくらいだった。そんなヒロトと香奈でもやはり3年ぶりの再会は話題に困って、僕達がいじって、彼らを少し苦しくさせて、それで終わりだった。しかしそれに反して、日の出は美しく、海水浴なんてお世辞でもできない僕らの汚いとても汚い海をも透き通らせて、まだ続くこの関係を今となっては予感させていたと僕は思う。いや、そう思いたいのかもしれない。

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