第8話 真相


 雪曇ゆきぐもりの空は低く、まるで今にも天が落ちてきそうな寒い日だった。


 私は中庭に出てくだんの椿の木を目指した。ほぼ満開に咲き誇る椿の枝下に、これまでに落ちてきたパーツが並んでいる。


 私は欠損していた左腕をあるべき場所にそっと置いた。その時、激しい頭痛が私を襲った。


「ぐぅっ!」

 眼球の裏に刺すような痛みを感じ、目を開けていることもできない。私は椿の下に横たわる首のない体の上へと倒れこんだ。


 ズキズキと痛む頭に、記憶がなだれ込んでくる。


 それはしわがれた熊吉の声だった。


「ぼっちゃん、奥様がお呼びです」

 熊吉に促されて、私は床の間に横たわる椿のもとへ二週間ぶりに顔を出した。


 美しかった椿は見るも無惨に痩せこけて、まるで骸骨のようだった。


「久しぶりね」

 薄く目を開き、彼女は短く声を吐き出した。


 死にゆくものにかける言葉も見つからず私が黙っていると、椿はゆっくり口角を上げた。


「ねぇあなた、覚えている? あなたは私の椿なのよ」


 何の話がわからず戸惑う私に、椿は茶を勧めた。

「一服いかが?」


 私の膝先には茶托に置かれた湯呑が湯気を立てていた。

 熊吉が入れていったものらしい。


 沈黙に耐えかねた私は、場繋ぎ的に湯呑を手に取った。


 一息に口に含んだとき、嫌な後味がした。外に吐き出そうと慌てて立ち上がる。しかし踏み出した足はもつれて、そのまま私は畳の上に転がった。


 カラカラと茶托の転がる音を聞きながら私は意識を手放した。


***

 暗転した私の意識は、誰かの話し声に再び呼び起こされた。眼の前には靄がかかったように何も見えない。


「ああ、これであなたは永遠に私のもの」

 愛おしそうに震える椿の声が耳元で聞こえた。


「それで、体の方はどう処理するの?」 

 椿が声色を落として熊吉に問う。


「風呂場で血抜きをして解体しました。持ち運べるよう細かく分断して、ひとまず屋敷の中に隠しておきます。人目につかぬよう少しずつ運び出して裏山にでも埋めて参ります」

 熊吉の回答に満足したように、椿はゆっくりと呟いた。


「そうよ。どうせ『罪を犯す』のなら、とことんやらなくてはねぇ」

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