第4話 謎の女

 次の日、落ちてきたのは左足だった。

 昨日椿の下におさめた右足と特徴が酷似しており、対であることはほぼ間違いないと思えた。


 不気味に転がる左足にゆっくりと手を伸ばす。硬直したその足にはももの内側に3つ並んだほくろが見て取れた。


『こんなところにほくろが。まるでオリオン座の真ん中に輝く三ツ星のよう』

 風の中からまたひとの声がした。


 私はしゃがんだまま首をひねって周囲を見回す。しかし人の気配はない。


 三ツ星のようなほくろをそっと指の腹でなぞる。その途端、どこか後ろ暗い感情が湧き上った。私は立ち上がると例の椿の木の下に左足を並べた。


 次々と体の一部が降ってきた。その体に触れるたび、私の記憶が一つずつ蘇った。


 左足の次は腰、胸そして今日は左腕。

「ボトリ」と落ちてきた左腕は、応接間に置かれたローテーブルに引っかかった。


 クリスタルガラスでできた灰皿に、未練がましく中指と薬指がかかる。


『私は椿の花が好きなの。だって色あせ萎れることなく、一番美しい姿のままで逝くことができるんですもの』

 そう言って美しい人は微笑んだ。


「あなたは一体……誰なんだ?」

 蘇る記憶に向けて私は問いかける。


 逆光で顔は見えない。ただ椿のように美しく赤い唇が印象的だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る