第19話 テニイレタ!

ザックバードは、自分の隣で安心したようにぐっすりと眠る金髪の王女を見て満足していた。


ザックバードが幼い頃、王城へ呼ばれると、第一王子や第二王女、その侍女達と外でかくれんぼをするようになった。相手をしたくない煩わしさから、見つからない場所を探していると、大きな大樹の下で佇んでいる金髪の幼女を見つけた。


大きな煌めく緑の瞳、風に吹かれなびく金髪、大樹から出てきた妖精のようだった。その娘はソニアと名乗った。

ザックバードはすぐに第一王女だと気が付いた。


「あなたはだあれ。」


「ザックバードです。ソニア様。」


「ざっくばあ?」


「ザックとお呼びください。こんな所で一人でどうしたのですか?」


第一王子と第二王女は、いつも沢山の使用人に囲まれている。目の前の王女は一人だ。


「母様がいなくなってから、みんなどんどんいなくなるの。夜も一人で寂しいの。」


ソニアは涙目でザックバードへ告げてきた。


潤む緑の大きな瞳を見て、ザックバードは胸がドキドキと音を立てるのを感じた。

この子はザックバードのものだ。守ってあげないと。なぜか初めて会ったはずの王女に強く惹かれるのを感じる。


「ソニア様。ザックが貴方の側にいます。」


ザックバードは、ソニアをそっと抱きしめた。








その日から、夕方になると公爵邸を抜け出して、ソニアの元へ向かった。幼い頃から魔術に長けていたザックバードは誰にも気が付かれずに離宮へ忍び込む。離宮は王女がいるとは思えないほどに使用人が少なかった。


「ザック。」


ソニア王女はザックバードの事をすぐに覚え、懐いてきた。


「ソニア。会いたかったよ。」


ザックバードは寂しかるソニアを寝かしつけて、一緒の布団で寝る。夜明け前に起きて、公爵邸へ帰る生活をしていた。


ある日離宮でソニアの肖像画が破かれているのを発見した。無残に引き裂かれた肖像画は、使用人の誰かの仕業のようだった。それを見たソニアが泣いてしまい、肖像画を怖がるようになった。ザックバードは離宮の肖像画を全て公爵邸へ持ち帰った。隠し部屋にいれて並べた時に、肖像画が全て二対作られたものだと知る。もう一対を王城で探す事にした。すぐに、国王の私室でソニアの肖像画を沢山見つける。夜、私室の外から伺えば国王はソニアの肖像画を見ながらニヤニヤ笑っていた。


ソニアは、母を亡くしてから一人で泣きながら離宮で寝ている。最近はザックバードがいるから落ち着いてきたが、父親が放置している事は明らかだった。


(大事にしないなら、俺が貰う。ソニアは俺のものだ。)


ザックバードは、少しづつソニアの肖像画を国王の自室から運びだした。




遂に国王にバレて、呼び出された。ザックバードの事をストーカーと呼びソニアから引き離そうとした国王が、どうしても許せなかった。国王との話し合いの後、父親から諫められる。共に戦争に行き帰って来てから、ソニア王女との事は考えようと言われる。



ザックバードは、ソニアに銀のリボンを渡した。国王に接近禁止魔法を使って魔力を酷く消費していたザックバードだが、残りの魔力でソニアに防御魔法をかけた。銀のリボンはザックバードの髪の毛が編み込まれている。そのリボンをしているソフィアの場所は位置把握魔法で分かるはずだった。







戦争に行き、剣を持ち戦いに参加しながらザックバードは魔術の鍛錬を怠らなかった。時折位置把握魔法を使い王都のソニアの存在を感じて安心する。戦争を終結させて、早くソニアに会いたかった。

父親が、戦地で亡くなった。父親にも防御魔法をかけていたが、帝国の魔術師達に集中攻撃を受けて、耐えきれなかったらしい。


ザックバードは、騎士団長と公爵を引き継ぎ、最前線に立つようになった。


戦争が長引き、10年を過ぎた時、どんどん後退する戦線に痺れを切らし、遂に皇帝が戦争の最前線に現れた。ザックバードは好機だと感じ、皇帝を魔術で閉じ込めた。


見えない壁に閉じ込められた皇帝は、3日3晩、戦争の最前線に放置された。飛び交う魔術に剣や弓。帝国の魔術師達が解呪を試みるが、一人一人と狙い撃ちにされ、どんどん死んでいった。

閉じ込められて3日目に、皇帝は完全降伏を申し出た。


降伏する皇帝にザックバードは言う。

「なんだ、思ったより早かったな。俺は10年間戦地に閉じ込められたのに、戦争を起こした皇帝がたったの3日で根を上げるなんて。」


皇帝は言った。

「すまなかった。条件は出来るだけ飲む。だから、もう開放してくれ。もう3日も飲まず食わずだ。死んでしまう。」


確かに皇帝はやつれていた。ここで、殺してもいいが、ザックバードには望みがあった。

「俺の望みは一つだけだ。サザーランド王国のソニア王女が欲しい。」


皇帝は驚き言った。

「あの庶子の娘か。まだ生きていたのか。」


ザックバードは皇帝を睨みつけて言った。

「約束は守れよ。皇帝の魔力を覚えた。俺はいつでもまた閉じ込める事ができるからな。」



















戦争を終結し、サザーランド王国へ帰ってきた。ソニアが俺を待っている。そう思い王城へ急いで登城した。

そこで、ソニアが死んだと告げられる。


離宮に行き、隈なく探すがソニアがどこにもいない。


離宮のソニアの部屋から呆然と外を見ていると、キラリと光る何かを見つけた。


近付いていくと大きな大樹の枝に、ソニアに渡した銀のリボンが絡まっている。


ザックバードはソニアの居場所をずっとリボンを目印に探していた。


だが、リボンがここにあるのなら、、、、





幼い頃のソニアのわずかな魔力を思い出し、探す。


わずかに感じるその魔力をたどると学院にたどり着いた。たしかに生きている。ソニアはここにいる筈だ。



ザックバードは学院に通う事にした。




学院に通い、いろんな場所を訪れるが、ソニアが見つからない。たしかに魔力を感じるし学院にいる事は確実なのに、探知魔法をかけて、その方向を探しても見つからない。見えない何かと追いかけごっこをしているようだった。

そうしている内に、ソニアの魔力を感じる方向にいつも同じ人影が見える事に気が付いた。金髪ではないが、使用人のような姿の女性みたいだ。なんどか見つめている時に写真を撮られた。気になり追いかけるが、相手はすぐに姿を消す。


(なんだ、避けられている?)


更衣室で、捕まえた時に、顔を見てソニアだと確信した。だが、ソフィアと名乗った彼女は、ザックバードの事だけでなく、自分が王女という事も覚えていないらしい。そのまま公爵邸に連れ帰り、ソニアの為に用意した部屋に閉じ込めた。ソニアの為のドレス、ソニアの為の宝石、ソニアの為の家具、ソニアの為の小物。その部屋はメイド長が、戦地にいるザックバードに変わり管理を続けてきた部屋だった。


戦勝会の後、屋敷に帰るとソニアがいなくなっていた。メイド長から父親の遺言を告げられる。ザックバードに優しかった父が部屋に閉じ込められた人物を逃がすように伝えていたことに驚いた。


メイド長は、ザックバードを諫める。

「ザックバード様。閉じ込めては駄目です。心を開いてくるまで待たなければ。相手はずっと逃げますよ。」


ザックバードは言った。

「だけど、やっと見つけたんだ。」


メイド長は言った。

「ザックバード様ほど、素晴らしい方は王国のどこを探してもいません。気持ちが伝われば、ソフィア様もザックバード様の気持ちに応えてくれるはずです。」







再び、ソフィアを見つけてから、ザックバードは毎日愛をささやき、贈り物をした。銀の装飾品は全てザックバードの髪の毛と魔術が織り込まれ、強力な防御魔術をかけている。もし再び見失っても、今度はすぐに見つかるように。







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