第17話 タスカッタ!
王妃が短剣を振り下ろそうとした瞬間
ドーーーーン
と大きな音が鳴り響き、離宮の壁が壊された。
大穴が開いた壁から入ってきたのは、ザックバード公爵だった。
煌めく銀髪、茜色の瞳。魔法を使った為か周囲にバチバチと火花が散っている。
呆気にとられ、王妃は動きを止めて呆然とザックバードを見ている。
王妃が口を開いた。
「なんて、美しいの。ザックバード。やっと会いに来てくれたのね。」
王妃はザックバードを見て、歓喜の声を出す。
私は、あまりの恐怖に震えが止まらなかった。
(狂乱王妃に変態公爵。もうダメだわ。)
王妃と私がいる方向を向いてザックバードは微笑んで言った。
「会いたかったよ。」
王妃が返事をする。
「私もよ。ザックバード。」
短剣を落として、王妃はザックバードの元へ駆け足で向かって行った。
「未来について話し合いましょう。ザックバード。」
王妃がザックバードに近づいた時、王妃が急に何かに押しつぶされたように地に伏せた。
「ブベシ!」
何か変な鳴き声が聞こえた気がする。
「本当に気持ち悪い。死ねばいいのに。」
(公爵は王妃の味方じゃない?私は助かったの?)
私は先ほど感じた死の恐怖に震え、蹲った。
もし、公爵も私を殺そうとしたら?
王族が王妃を害したと、私を追ってきたら?
(小さく丸まっていれば、気づかずに去ってくれないかな?)
トコ、トコ、トコ、トコ、トコ
近付いてくる足音がする。
「探したよソフィア。間に合ってよかった。」
声をかけられ見上げると、銀髪の美青年が私に微笑みかけている。ザックバード公爵の周囲は空気が煌めき、微笑む茜色の瞳は、安心できる温かさがある。
(ああ、すっごい美形。)
「大丈夫だよ。俺がソフィアを守ってあげるよ。絶対に。」
そういい、ザックバード公爵は私を抱きしめてきた。
地に伏せた王妃のうめき声が聞こえる。
それに気がついたザックバード公爵は言った。
「王妃は執着が強い。俺の母も逃げるのに苦労したらしい。王城にいるとまたソフィアは狙われるだろうね。今回は俺がソフィアにかけていた防御魔法で防げたけど、次は魔術師や暗殺者を送ってくるかもしれないよ。」
私は、反論する。
「人違いです。王妃様はソニアとか叫んでいました。私じゃありません。」
ザックバード公爵は言う。
「ああ、分かっているよ。でも、王妃は思い込みが激しいからね。」
私は言う。
「そんな。人違いで殺されるなんてあんまりです。」
ザックバードは言う。
「俺なら王妃から守ってあげれるよ。国王でさえガイア公爵家には手が出せない。どうするソフィア。一緒に公爵家に帰ろう。」
私は迷う。絶世の美形の変態公爵と、私を殺そうとする狂乱王妃どちらがいいか。
「あの、国外に私だけ逃がしてくれたり、、、、」
ザックバード公爵は私を見つめて言った。
「ソフィア。好きなんだ。君の事が気になって仕方がない。どうか俺の側にいてくれ。絶対に守るから。」
さっき王妃に短剣を何度も振り下ろされ、腰が抜けたみたいだ。まだ体は震えている。一人で立ち上がれそうにない。真剣な表情のザックバード公爵をみて私は決心した。少しくらい変態でもいいじゃないか。命の危険がある王城で死のスリルを味わうより、公爵家で絶品料理を食べて過ごしたい。この際公爵の変態行為は気にしないようにしよう。死ぬわけじゃないし。
私は、頷き告げた。
「わかりました。公爵家に連れて行って下さい。」
私の言葉を聞きザックバード公爵は、うっそりと妖艶な笑みを浮かべた。
背中がゾクゾクする。胸がドキドキと音を立てる。なぜか逃げたくて仕方がない。決心が鈍る。
「あ、やっぱり、、、王城の使用人部屋へ、、、、」
「ははは、ソフィアは冗談が上手いね。さあ、一緒に帰ろう。もう離さないよ。」
私を抱き上げたザックバードは地に伏せる王妃には目もくれず、離宮の外へサッサと足を進めた。
ザックバードに抱き上げられたまま見た肖像画の金髪の女性は、満足そうに微笑んでいるように見えた。
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