第14話 カエタ!

私はライル・サザーランド王子と共にグレア亭を後にした。

元使用人仲間には、騎士に見つからない場所に隠れるとだけ伝えた。


ライル王子には、マーガレットお嬢様へ渡す報告書に使おうと思っていたザックバード公爵の生写真を渡すから、内密で王城で雇ってくれと交渉するとすぐに了承された。


今、私はライルの案内で、王城から少し離れた住宅街にいる。ライルの馬で相乗りして移動し住宅街の家の入った。家の裏に馬をとめて中に入る。


人気がないその邸宅は、貴族の邸宅のようだった。


ライルが話す。

「ここは王族の私有物なんだ。有事の時の為の地下通路がつながっている。地下通路は血族魔法がかかり、血族以外の者が通ると迷宮になるんだ。王族しか進めないんだよ。さあ、行こうか。」


邸宅の地下にある豪華なドアの前で、ライルはそう言い私に手を差し伸べてきた。


私は少しの荷物を持ってライルの手をとった。


ドアをくぐり、地下へ入る。ライルは私の手を握りしめたままだ。


地下は沢山の枝分かれした道があった。ライルは迷うことなくわずかに光る道を選び進んでいく。


「すごく複雑ね。でも光っているからわかりやすいわ。」


「光る?おかしいな。王族以外には見えないはずなんだけどね。」


「まあ、進もう。でも、うれしいな。同士に会えて、僕のコレクションも増えた。同士と一緒に過ごせるなんて、これでいつでもザックバードについて語り合えるよ。」


「ええ、ええ、ソウデスネ。」


ライル王子には、私がザックバード公爵に追われている事は伝えていない。伝えてしまったら、絶対にザックバード公爵をおびき寄せる餌に使われそうだ。



地下通路を抜けると、そこは王城の中庭だった。周囲は静まり返り、夜空には星がきらめいている。


ふと、目の前の大きな大樹に見惚れてしまう。


『ずっと、いっしょにいようね。』


そう誰かに言われた事がある気がする。イヤ気のせいだ。私にそんな記憶があるはずがない。




地下通路がから出た瞬間にライル王子は私の手を離した。

「こっちだよ。ソフィア。」











私は、ライル王子直属の侍女として採用されることになった。王城に着き、初めにしたことは、私の髪を元に戻す事だ。ジョンの小屋から持ってきた黒い袋の粉を水で練り、髪に丁寧につけていく。2時間ほどおいて、綺麗に流せば、私の髪は茶髪から金髪に変化した。私が7歳の頃、マーガレットお嬢様が急に自分以外の金髪が目障りだと言いだした。金髪だけでなく色素が薄い髪色の使用人はお嬢様から体罰を受けるようになった。


王都では珍しいが、ジョンの出身地では髪の染粉が流通していたらしい。ヨボニという植物をすりつぶし髪に塗ると、髪が黒く変化する。色を戻すときはヨボニを乾燥させ、砕いた粉を水で溶きつければ染色が落ち、元の髪色に戻る。


ジョンは、森で取ったヨボニで染粉を作り使用人たちに配った。私は7歳の時から毎週髪を染めてすごしていた。何もしていないのに、体罰を受けるなんてゴメンだ。今では元々の金髪より、茶髪の方が馴染みがある。



髪を金髪に戻した私は、髪を一つにまとめ頭部でお団子を作った。キツイ印象の眼鏡をかけ、侍女服を身にまとうと、170㎝と長身の金髪の教師のような女性が鏡に映っていた。


私は満足して、王子宮に足を踏み入れた。


ライル王子は私を見て言う。

「ソフィア。見違えたよ。酒場と雰囲気が全然違うね。優秀な同士はそうやって目立たないように変装してザックバードの後をつけるんだね。勉強になるよ。」


うんうんと満足そうに頷くライル王子はなにか勘違いしているようだ。


「ははは。ありがとうございます。」


私は乾いた笑い声を出して返答した。
















王子宮に来客があった。水色の長い髪、藍色の瞳のすごく可愛い令嬢だった。


ライル王子は挨拶をする。

「ルチアーノ嬢、久しぶりだね。」


王子が私以外の侍女を下がらせたらすぐに、ルチアーノは興奮したように話しかけてきた。

「お久しぶりです。ライル様。そちらが例の同士ですか。」


ライルが言う。

「ああ、そうだよ。優秀な同士だよ。ソフィア、こちらは僕の婚約者のルチアーノ・クローデンス伯爵令嬢だ。会長様なんだ。」


私は戸惑う。

「会長様ですか。」


ライルが言う。

「ああ、ザックバード公爵の黒影会員第1号さ。」


ルチアーノは言う。

「ライル様にお聞きして驚きましたの。ザックバード公爵は凄くガードが堅いでしょ。あの方は防御魔術に秀でていて隙が無いんです。月より麗しく、太陽より輝くザックバード公爵様を陰から見守る黒影会会長のルチアーノと申します。ザイル様は名誉会長になっていただいていますの。本日は、ソフィア様にもぜひ黒影会に入会していただけたらと思って伺いました。今なら10521番の会員賞をお渡しできますわ。ソフィア様さえよければ、ぜひ幹部に、、、、」


私は後退りながら告げた。

「あの、私は、ザックバード公爵のファンではなくて、、、」


ルチアーノは言う。

「え、ですが、ザックバード公爵様のペンを手にしたことは?」


私は答える。

「あります。」


ルチアーノは言う。

「では、使用済みの用紙を回収できたことは?」


私は答える。

「あります。」


ルチアーノは言う。

「この、ザックバード様がカメラ目線の写真を撮影したのは、」


私に見せてきたのは、先日ライル王子へ渡したザックバード公爵の写真だった。たしかにカメラに向かって微笑んでいるように見える。


私は答える。

「私です。」



ルチアーノは私の両手を握りしめ告げた。


「ああ、同士よ。」


デジャブかな?ライルとルチアーノの言動がシンクロしている。


ここで、否定するのは悪手だ。しばらくは王城で働きたい。


私はため息をかみ殺した。









優雅にお茶を飲みながら王子は言った。

「ザックバードはなぜか上手く写真が取れなくてね。ピントがずれたり、残像しか映らない事が多いんだ。多分魔術が関係していると思うんだけど。黒影会でもたびたび議題にあがっていて困っていたんだ。」


ルチアーノ嬢は、頷き肯定する。

「本当に驚きました。まさかこんなにハッキリ映っている公爵様の写真が手に入るとは。ソフィア様はなにか特別な才能をお持ちなんでしょうか?」


もう、ホラーだな。ホラー公爵。私はただ、写真を撮っただけだ。


「いえ、とんでもないです。だだの使用人ですから。」




ルチアーノは思い出したかのように言った。

「それにしても、王妃様は何をお考えなんでしょう。第二王女とザックバード様の結婚を進めるなんて。」


ライル王子も嫌そうな顔をする。

「本当だよ。イザベラにはザックバードはもったいない。あれなら、まだ第一王女の方がマシだったよ。」


ルチアーノは私に言った。

「イザベラ王女は、ザックバード様が好きなんですけど、以前黒影会が用意した似顔絵フルセットをイザベラ様が強奪する事件があったんです。それ以来、我々とは犬猿の仲で、、、」


私は言う。

「そうなんですね。王女様が強奪。」


王子が言う。

「母にそっくりの外見なんだが、傲慢で陰険な所がある。誰に似たのか不思議なんだよ。」



王妃は黒髪で、きつめの美人だ。第二王女も黒髪だったはずだ。



「最近ザックバード様は騎士団を引き連れて王都で誰かを捜索されているようですわ。市民の会員から、王都でお見掛けする機会が増えたと喜びの連絡が届いています。」


「じゃあ、僕も王都へ、、、、」


「ライル様は学院があるじゃないですか。第一王子が学院に出席しないわけにはいかないでしょう。」


「ウウウウ、どうして僕だけ。」


(やっぱりまだ、探されているのね。気を付けないと。)


読み通り、王城にきてから騎士団やザックバード公爵との接点はまだない。









その時、ドアの向こうの使用人が新しい人物の来訪を告げてきた。


「王妃様が来られました。」


王子の来賓室へ入ってきた王妃は、長い黒髪を纏め、ダイヤのイヤリングやネックレスをしていた。切れ目の迫力のある美人だった。中に入ると王子とルチアーノ嬢を見て満足そうに挨拶をする。


「まあ、仲良くしているようね。今日もザックバード公爵にはお茶会の誘いを断られたわ。ルチアーノ嬢はザックバード公爵の従妹だったでしょう。貴方からもザックバード公爵に王城へ来るように言ってくださらない。なかなか連絡が取れなくて困っているの。イザベラとの婚約の話も進まないし。」


ルチアーノ嬢は、表情を変えずに返答した。

「ええ、お会い出来たら伝えますね。戦争が終わってから何かと忙しいようで、私もゆっくりお会いできていないのです。」


王妃は残念そうに言う。

「そう。仕方がないわね。あら、貴方見かけない顔ね。」


私を見てきた王妃に声をかけられた。

「お初にお目にかかります。ソフィアと申します。ライル王子の侍女として働かせていただいています。」


私をみて、なにか訝し気な顔をした王妃は命令してきた。

「なんだか、、、ねえ、その眼鏡を外してみて」


言われるままに私は眼鏡を外した。その私を見て王妃は驚いた表情で後ずさった。



王妃の顔は幽霊を見たかのように真っ青で、手は小刻みに震えている。


ライル王子は心配して声をかけた。

「母上、どうなさいましたか?」




王妃はすぐに無表情になり言う。

「いえ、何でもないの。気分が悪いので失礼するわ。」


そのまま、ドアから出て行った。


ルチアーノ嬢は言った。

「珍しいわね。王妃様はいつもお話が長くなるのに、、、、」



私は、ドアから出る前の王妃から睨みつけられた気がした。

(なんだろう。なんだか嫌な予感がする。)









































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