第13話 サガサレタ!
フードの下の男性の顔は、ソフィアがよく知っている人物だった。
いやソフィアだけでなく国民のほとんどが知っている顔だ。
なぜなら毎年の生誕祭では王国紙に写真が掲載されるのだ。
「ライル・サザーランド王子」
ソフィアは思わず指を指して目の前の男の名前を呼んだ。
男は慌ててソフィアの口を両手で塞ぐ。
「お忍びなんだ。静かにしてくれ。」
「どうして、こんな所に一人でいるんですか?」
ソフィアは、小声でライルへ話しかける。
その問いでライルはまた涙目になった。
「さっきも言っただろ。昨日戦勝会があったんだ。そこで、ザックバードに告白したら断れた。母は妹のイザベラと結婚するようにザックバードに僕の目の前で言ったんだ。ザックバードは妹との縁談も断ってしまって、もう学院にも行かないって言うし、そうなったらザックバードと仲良くなる機会がない。」
私は不思議に思い聞いた。
「え?でも公爵でしょ。これからいくらでも接する機会があるのではないですか?」
ライル王子は悲痛な表情で言う。
「それが、ザックバード公爵は城に来るのを拒否している。何度も僕も母も呼んでいるのに城に来たのは戦争が終わった時と戦勝会の2回だけだ。国政会議も代理人を出して全て欠席する。僕は、ザックバードに嫌われてしまったんだ。ウウウウウ。」
「え?えーーーー?」
(ザックバード公爵って変態で、幼児愛好家で、サボリ魔なの?)
この国の未来が心配になる。唯一の王子は男に一目ぼれして、一人酒場で酒を飲んでいる。国の英雄は変態でサボリ魔。
おい、大丈夫か?国の中枢が腐っているぞ。
王子はまだ話し足りないのか喋りだした。
「そもそも、戦争から帰還してザックバードはすぐに登城したんだ。僕は期待してしまった。真っ先に城に来たから、ザックバードも僕に会いたかっただろうと思ったんだ。だけど、父上と話をしてすぐに離宮に行ったかと思うと、全然帰ってこないし、僕が離宮まで行って話しかけても返事もしてくれない。あの時のザックバードは凄く落ち込んでいた。その表情がほんとに悩まし気で色気があった。本当に僕はザックバードが好きだと実感したんだ。ザックバードに僕を見てもらおうと何度も話しかけたし手をつなごうとした。10年ぶりなんだ。当然の事だよ。なのに、ザックバードは僕に触るなと怒って、、、、怒った顔も素敵だったよ。」
ライル王子は正体が知られて開き直ったのか、怒涛の勢いで話だした。
時折思い出したかのようにウットリと呆けている。
(確かに公爵は色気があるよね。でも、なんだろ違和感しか感じない。)
私は表情を引きつらせながら頷いた。
「ザックバードが学院に通いだしてからは、同じクラスで勉強できるだろ。やっと仲良くなれると思ったんだ。なのに、ザックバードは僕を避けるし、僕がザックバードと結婚したいって両親に昔お願いしたから、両親が側近にザックバードと僕を近づけるなって命令していて、学院で話しかける事もできない。少しでもザックバードを感じたいから、ロッカーも開けたし、鉛筆や使用済みカトラリーも手に入れようとした。大変だったんだ、側近や使用人は両親に厳命されているし自分でやるしかない。等身大の人形だって買いたかった。でも、どうしても買いにいけなくて、、、うううううう。」
「あー、等身大の人形はなかなか買えないですよね。私も前日から並んでやっと購入できました。」
ライル王子は私をキラキラする瞳で見て、両手を掴んできた。
「ああ、同士よ!」
私は慌てて首を振り否定する。
「お嬢様の命令ですから。私はストーカーではありません。」
そこに、店主のガイクがやってきた。
「ソフィア。大変だ。ちょっといいか?」
私は、ガイクについて店の奥へ行く。
そこには、グレゴール侯爵邸の元護衛のロンがいた。
ロンは、グレゴール侯爵邸を辞めてから、騎士登用試験を受けて採用され、東町の駐屯騎士として働いているはずだ。
「ソフィア、騎士団長の命令で茶髪で170㎝程の身長の女性を探している。たぶんソフィアの事だろう。明日には一斉に捜索を開始するはずだ。たぶんここにいるだろうと思って訪ねてきたんだ。なにがあった。」
私はそれを聞き、落ち込む。ガイア公爵家のメイド長が逃がしてくれてから大丈夫だと思っていたが、やはりそうはいかないようだ。
私は説明した。
「それが、マーガレットお嬢様の命令で、ザックバード公爵を探っていたんだけど、捕まってしまったの。屋敷のメイド長が逃がしてくれたんだけど、グレゴール侯爵邸へ帰ったら追い出されたからここに来たのよ。」
それを聞き、グレゴール侯爵邸の元使用人たちは同情したように私を見て頷いてきた。
「まあ、わがままお嬢様は変わらないな。」
ガイクは言う。
「だが面倒な事になったな。俺たちがソフィアの事を話す事はないが、今日店に来ていた客はソフィアを見ている。ここにいるとすぐに居場所がばれるぞ。」
ロンは、まじめな表情で言った。
「騎士団長は、周辺くまなく探すつもりだ。どこにいてもすぐに見つかるぞ。騎士たちが入れない場所にでも隠れないと。」
(騎士も、ザックバード公爵も来ない場所。こっそりと隠れられる場所)
私が考え込んでいると、待ちくたびれたのかフードを被ったライル王子が奥まで追いかけてきた。
「なあ、まだ話しているのか。僕の話を聞いてくれよ。こんな事相談できる相手はいないんだ。」
面倒な人に絡まれたと思いながら、ライル王子を見る。王子を見て私はひらめいた。
「あっ。そうだ。」
ザックバード公爵が行かない場所。こっそりと隠れれる絶好の場所があるではないか。
私の目の前に!
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