第10話 ニゲタ!
部屋の中は、写真や絵で埋め尽くされていた。
全て金髪の可愛い幼児が映し出されている。豪華な衣装を着ている幼児は美しい人形のようだった。
壁一面の幼児の写真に肖像画、ガラスケースに収められているのは、一見してゴミに見える。近づくとそれが髪の毛を1本づつ保存されている事が分かった。
スプーンやフォーク、お皿、小さな靴、服までガラスケースに丁寧に収められている。
(なんなの?この部屋は)
ふと気が付く。この幼児はザックバード公爵のロケットの少女ではないのか?
(やっぱり、変態で幼児愛好家。)
私は怖くなり後ずさった。
後ろの壁に背中がついた時、足元でゴトリと大きな音がした。
私は両手を口に当て悲鳴を押し殺す。
どうやら仕掛け扉のようだ。ゆっくりと後ろの壁が開いていった。
「まあまあ。本当にいらっしゃるとは。」
中から出てきたのは、50代の優しそうな女性であった。
女性は、ガイヤ公爵家のメイド長だった。
メイド長に促されるまま、私はあの部屋を脱出した。
そのまま、メイド長の後に続き移動する。
「前公爵様からの遺言なんですよ。もし、先ほどの部屋に誰かがいるようなら、逃がして欲しいと言われましてね。ザックバード様が昨日からすごく、ご機嫌で、体調が悪いと言うわりには、たくさんお食事を召し上がっているみたいなのでおかしいと思って、あの部屋をのぞいてみたんですよ。」
「あの。ありがとうございます。でも公爵様にばれると貴方が大変なのではないですか?」
「ふふふ。大丈夫ですよ。ザックバード様は少し変わっていますが、家族や屋敷の者にはとてもお優しい主人なんですよ。」
私は不思議に思う。マーガレットお嬢様と同じように、髪の毛や私物を集めている変態なのに、公爵は使用人にはとても慕われている様子だ。
私は裏口に案内された。メイド長は私に、小さな巾着袋を渡してきた。
「これも、前公爵様から言づけられていたものです。ですが、今回の事で、あの隠し扉についてはザックバード様が知られる事になると思います。私がお手伝いできるのは最後ですよ。」
「はい。ありがとうございます。お世話になりました。」
メイド長は巾着袋を受け取った私の手をしっかりと握りしめて、私に言った。
「ザックバード様は変わっていますが、本当にとても良い方なんです。私もお嬢様に、ここに留まっていただきたい気持ちがあります。あんなに嬉しそうなザックバード様は初めてみました。もし、お嬢様の気が変わればいつでも公爵家に帰ってきてくださいませ。」
(それはありえない。)
私は、頭を下げて公爵邸を後にした。
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