第9話 デカケタ!

 私は、ザックバード公爵から離れ、浴室へ入った。香り豊かなボディソープとシャンプーで髪の毛から足の先まで洗う。特に顔と胸は念入りに洗った。


(ううう、どうしてこんな事に。おかしい。絶対おかしい。)


本当に、泡一つとっても最高なのだ。クリーミーな泡はしっとりと肌をつつみ、洗った後は肌がしっとりと吸い付くようなもち肌になる気がする。

浴室の外に準備されているタオルは、フカフカで吸水性が高く、撫でるように体に当てるだけで水気が取れる。用意されている部屋着は貴族が着る最高級の服で、すごく滑らかな肌触りだ。


本当に捕まえた使用人とは思えない最高級の環境。


ただ、変態がいるだけだ。



脱衣所から出ると、テーブルに豪華な食事が並んでいた。週種類のパン、コーンスープ、サラダにフルーツ、スクランブルエッグに香ばしく焼かれたベーコン。色とりどりの朝食が並ぶ。


整った顔の銀髪の公爵が私を出迎える。


「ソフィア。一緒に食べよう。」


そう言い、微笑んだ。





そう、最高級の環境だ。


一対のカトラリーと、自分の膝に私を座らせようとする公爵を気にしないのであれば。










ザックバード公爵は学院を休んだらしい。朝食、昼食、おやつ、早い夕食と、私にせっせと食べさせてきた。まるで幼児にするかのように、自分の膝にのせて微笑みながら私の口に食べ物を運ぶ。へたに拒否すると、主についてしつこく問われる為、私は大人しくしていた。



本当においしい。



全部おいしい。



食事を私の口に運ぶ公爵は、溺愛する子供を世話する母親のようだ。つい私は公爵に尋ねた。

「もし主が分かったら、どうするのですか?」


ザックバード公爵ははっきりと答えた。

「処分するかな。くまなく調べて、髪の毛一つ残さないつもりだよ。」


そう言い笑う公爵に私はぞっとする。


「私は、帰して、、、、」


期待を込めて、公爵へ告げる私を見る目は全く笑っていなかった。


(絶対に帰す気がない。しゃべったら、グレゴール侯爵家は髪の毛一つ残らず処分される。)



「いえ、なんでもないです。」


私はとりあえず、グレゴール侯爵家について絶対に口に出さない事を心に決めた。









今、私はザックバード公爵に抱きしめられている。

「あー。行きたくない。せっかくソフィアがいるのに、行きたくない。戦勝会なんて中止になればいいのに。」

今日は戦勝会が王城で開かれる。1か月前から準備されてきた盛大な戦勝会は主役のザックバード公爵が絶対に参加しないといけないはずだ。もうすでに外は暗くなっている。完全に遅刻していると思うが、主役は私を抱きしめながら、もう1時間も駄々をこねている。


屋敷の外が騒がしい。


公爵を呼ぶ使用人の声がかすかに聞こえてくる。


「公爵様。」


「出てきてください。」


「コレクションを燃やしますよ。」


コレクションという言葉を聞き、ザックバード公爵は頭を上げた。


「本当に嫌だけど行ってくるよ。ソフィア。君の主について何かわかるかもしれないしね。」


私は、顔を強張らせながら、ザックバード公爵が部屋から出ていくのを見送った。










ザックバード公爵を乗せた馬車が、出発するのを窓から見届けてから私は、この部屋から脱出できないか調べる事にした。


ウォークインクローゼットの装飾品の一つから取り外した数本のピンを持ち、ドアというドアをくまなく調べていく。


寝室の左側のドアが開かなかった事を思い出し、そこを調べる事にした。


鍵穴はどこにもない。ドアノブは動かない。


たぶん見えないところに仕掛けがあるはずだ。私は、ドアの周囲を念入りに調べていった。


ドアの左側に一部壁紙が薄い場所を発見した。近くで目を凝らさないと分からない程の些細な違いだ。


私はピンをそこに押し当てた。ピンを押すと壁の一部が沈み込む感触がある。奥まで押し込み、反対側の手でピンを増やし、穴の右側に押し込む。


(鍵穴だわ。開けれそう。)


ガチャ。


開錠された音がした。



私は、ドアノブを捻りゆっくりと中に入っていった。










部屋の中は、異様な光景が広がっていた。


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