第10話くたびれた孤児院の少年 ★

結局、その日からリュカは殺人欲求が高まってしまい、もう考えることが面倒くさくなってしまった。

だがしかし、ここが踏んばる時だリュカ。負けるな俺!


「リュカ、大丈夫か……?」

「はい……大丈夫です。父様」

(ああああ。すごくイライラする。人を殺したくて仕方がない)


ガータリオンはベッドで、顔半分を隠しながらやつれた顔をしている息子を見て愛おしさで胸が破裂しそうだった。

自分とお揃いの青みがかった銀髪も、宝石のような赤い瞳も、少しワガママなとこさえも可愛くて仕方がない。今まで息子の可愛さに気づかなかった自分がバカみたいだ。


対してリュカは幸せそうな顔をするガータリオンをみて忌々しく思っていた。


「父様……今日は一緒に湯浴みしませんか?」

(おっさんの裸なんて見たくねぇ!!!!!うげぇ!)

「……ぁあ、お前が少しでも元気になるならそれもありだな」

「あ、ありがとうございます。」

(なしだよ!手のひらくるくるジジイ)

「じゃあな私は書室に戻る。」


そう行って扉を閉めたガータリオンの顔はいつもの威厳を帯びた孤高の公爵の顔に戻っていた。


(はぁ、やっと出ていってくれたぜ)

「よっこいせ」


リュカはしんどそうな振りをやめてベッドからおきあがった。

時刻は昼過ぎ、まだまだ時間はある。


そろそろ俺は限界だ。


こんなに自由な世界なんだから少しぐらい欲望のままに行動したっていいじゃないか……。


というよりする。


「パルサパン。契約だ」

『ほーい。代償が重くなるのは重々承知じゃな??』

「わかってる。今更俺が望むものなんてない」


確かにそれは確信めいたことだった。だがリュカは言葉が矛盾していることに気づくことは無い。


『じゃあ何を望むんじゃぁ〜?』

「移動手段だ。瞬間移動とか」

『うーん。それは出来ないんじゃが羽を生やすことは出来るぞ』

「ちっ。つくづく使えねぇーな」

『あのなぁ、お主、わしが愛想をつかせることもあるんじゃぞ?』

「はっ。悪魔は消して契約を破れない。俺が死ぬまでお前は俺と契約し続けるんだ」

『どっちが悪魔かわからんのぅ』

「翼だっけ?それって姿を消せるのか?」

『うーん。まあ顔を隠すぐらいはできるぞ』

「はぁ、もっと便利なのないのかよ」


『……クソガキじゃな』

「聞こえてんだよ!」


「あ〜〜〜。もうとりあえず翼でいいわ。厨二臭くてかっこいいし」


『……クソガキじゃな』

「だから聞こえてんだよっ!」


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パルサパンと契約して悪魔の翼を手に入れたリュカは、早速窓を開け、飛ぶ準備をする。


風が心地いい、今は冬、木に色づいていた木の葉も枯れ落ち、鼻にツーンと冷たい空気が入ってくる。

もちろん暖房なんてものは無いため、部屋も充分寒いのだが……。そとの空気は一味違った。


(顔を隠してくれ)

『ほいよ』


鏡に映るリュカの顔は何故か黒く塗りつぶされて見えなくなっていた。

部屋の端に掛るローブを身にまとい翼を広げる。


その翼は悪魔と契約したものにふさわしく、コウモリのような真っ黒な羽根だった。


脳に直接どう飛べばいいか全て入ってくる。まるで何年もこの翼を使っていたみたいだ。




窓から庭に人がいないのを確認し、そっと窓にかけていた足を外し、宙に浮いた。

パタパタと音を立て空を飛ぶ。街の景色を一望することが出来、なんだか世界を統べる魔王になった気分。


裏路地に行き、そっとおりる。


風が落ち着き、そっと口元に運んだ匂いは顔を顰めたくなるような腐敗臭。

リュカは転生して初めてこのような腐敗臭を嗅いだ。だがしかし、それはそれで楽しみだ、


表通りに出ると賑やかに皆が街を行き交っている。

ガヤガヤとしているこの街の雰囲気が







おれは大嫌いだった。


(はぁ、気持ち悪い。人がこんなに沢山いるとこうも心地が悪いのか。)


俺はさっさと目的を済ませ館に帰ることを決めた。


(まずは〜っと)

武器屋を見つけたリュカはそこに近ずこうと足を1歩1歩動かした。

人の匂いや顔から読み取れる感情。その全てがリュカを不快にさせる。


「なあ、この短剣買いたいんだが」

「おや、お客さんかい……こりゃあ、また随分怪しい風貌だね」


中から出てきたのは赤毛と日に焼けた肌が特徴のドワーフだった。胸に着いているふたつの脂肪の塊がやけに俺の視界に主張してくる。これが男の性なのか……。マシュマロのような見るからにやわらかそうな体を見てしまう。






(ああああ!気持ち悪いはずなのにこの女をぐっちゃぐちゃにして殺したい気持ちが抑えられない!!!)


リュカはまだ7歳。性的欲求は感じないのだが、恐らく12になる頃には息子が元気になってしまうと言うほど人を殺すことにワクワクが止まらない。


「銀貨2枚だよ。」

「はい。」


銀貨を渡す際に触れた仕事でいたんだ手。そこから感じる温もりは確かに生きている……。血の巡りを感じるのだ。


その手が段々と冷たくなり、人形のような不思議な感触のモノ死体になることを想像する。



胸に短剣を突き刺し、衣服は破れ、そして次はきめ細やかな皮膚…女の胸元の皮膚は顔同様焼けているのだろうか。

何色なのか想像もつかない皮膚を突き破ると、次はグミのように柔らかい肉……!

ズズっと皮膚に刃が入り込み、そのこじ開けた穴からは鉄臭い生きている証が溢れる。その匂いを肺に吸い込み、自らの行動に果てしなく幸福を感じる。脳がドバドバと幸せホルモンを出しているようだ。

赤い液体は衣服に広がり、女は驚き、声を上げる。

いつもは自分の承認欲求がために誇張した声を上げるのだろうが、今聞こえるキンキンとした叫び声は本当に脅えているようで!

グリッと刺さった短剣で胸元を抉ると、女はまたも嬌声をあげる。肉をえぐる感覚が脳にダイレクトに伝わり……





短剣を手渡され、目の前の女にぶっ刺したい気持ちでもう。抑えられない……!

テラテラと光るその切れ味の良さそうな刃で肉を裂きたいぃぃ…………!!!




グサッ




「うがあ"あ"あ"あ"ぁあ!!」


ドロドロと真っ赤な鮮血が流れでる。鉄の刃が肉にくい込み、その隙間から絶え間なく愛液がながれでる。

想像よりずっとサラサラとした赤く透き通るような血液。ぽたぽたと地面にシミを作りその液体が落ちてゆく。


もったいない


傷口から溢れ出る血液を舌でレロリと舐め…しょっぱい様な癖になる味だ。ズルズルと音を立てて血液を吸う。







自らの腕が貫かれる痛みさえリュカのフェチズムを刺激させた。


「……ッ……だっだ……いじょうぶかい……??」


目の前のドワーフは急に腕に深く短剣を突き刺した客に怯えているようだ。


(ここでは……だめだっ……せめて路地裏で……)


「大丈夫です……」


リュカはにげるように路地裏に走っていった。




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少年side


「……お前にやる飯はねぇーよ」


バタン


路地裏にある寂れた店の扉が閉まる。


(ふぅ……ここでの生活もお別れか)


孤児院にいられるのは12歳まで。12歳からは働くことが出来るからだ。

しかし、少年は能力が足りず、度胸にも、体格にも恵まれなかった為、住み込みで働かせてくれるところはなかった。


今追い出されたのはとある町外れの魔法具屋。もちろん違法だ。


最近、盤上遊戯とかいう貧民街には縁のないものが流行りだし、力をつけた商会ギルドが違法な商売をする店を駆逐しまくっているようなのだ。

そのため魔法具屋は売れ行きがあまり良くなかった。


少年はなぜ自分はこんなにも不幸なんだと自らを呪った。

孤児院のうるさく狭い寝室も、

埃臭くて文句の絶えなかったあの屋根裏部屋も、

今となってはオアシスだ。


これからどうやって生きようか……少し暮れてきた空を見上げ、少年は路地裏をさまよっていた。




目の前から何やら挙動のおかしいローブの子供が近ずいてくる。恐らく身長は140cmほどで顔は見えないがなにやらブツブツと呟いているようだ。


(嫌な予感がする。)


子供が手に持った、キラリと光る金属の刃。


急いですれ違おうと……追い越そうと足を早めた瞬間。


「うぐっ」


なにやら衣服にかけられたようだ。質素な服が肌に張り付き、何やら液体が足を伝う感覚がする。


恐る恐る腹を見ると、



そこには短剣が刺さっていた。














「うわああああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!」












痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い



ダラダラと血が止まらない……、!焦って短剣を引き抜く


プシュッと音を立ててさっきよりも出血量が増える。


腹からの絶え間ない苦痛が神経を犯す。声を出す気力もないほどに痛い、痛い、ただひたすらに痛い!


(なんでだ。俺、は、ここで、しぬの、か??)


少年は腹を腕で押えながら、よろよろと壁にもたれかかった。少し痩けた平凡な顔は真っ青になっており、目には涙が溜まっていた。


子供が痛みで動けない俺に馬乗りになり、





またも短剣を突き刺した。


胸に刺さった少し高そうな…俺には一生買えないような…そんな短剣を見ながら俺……の…………意識…………は…





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リュカside




「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


血まみれになったリュカは動かなくなった名も知らない少年を見ながら妖艶な表情を浮かべていた。

頬を赤く染め、ハァハァと肩で息をする姿は美しい顔であるから色っぽく見えるのであって、パルサパンがしていたら通報案件だろう。



真っ赤に染った自身の手のひらを見る……想像していたよりずっと興奮する。。!



少年の腕を手首あたりでたとうとナイフをつき立てようとするが固くてきれないことを想像し、辞める。


リュカは肘に思いっきりナイフを突き立て、関節を外して肉や筋を切った。

前世で食べたケンタッキーのチキンのような骨が2本見えて、クスッと笑ってしまう。





本当は死体も弄って楽しみたいが、先程の悲鳴でばれると危ないのでリュカは急いで羽を出して空を飛んだ。


腕を抱えて飛ぶ空は

行きしなよりもずっと楽しげに見えた。










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