第9話リーファ排除計画②

「あ!いいこと思いついた!」

「なんだいリュカ……」


ユーゴは全く重大に受け止めていないリュカに呆れを越して嫌気がさしてきていた。呑気にきらきらと瞳を輝かせ、自分のためにリーファをどうやって懲らしめようか考えているようだ。

そんな様子に「いままでしっかり向き合っていなかったけれど弟ってかわいいな」とユーゴは思うのだった。



しかし!リュカの脳内ではある程度もう悪辣な計画は完成してしまっていた!


(最近ガータリオンが俺にデレてきていて気色悪い。おっさんの頬ずりなんていらねぇんだよ!)

ガータリオンがリュカを可愛い愛息子と認識しているのだ。確かにリュカは7歳。まだ可愛いざかりではあるが今までの態度はどこに行ったのやら。

リュカは本当に人間は糞だなと、実の父であるガータリオンを見るたび吐き気を催すのだった。


(ほんとうに猫を被っている俺を褒めて欲しい。)

『まあこれから一生続くんじゃがな』

(まじで気が滅入るからやめて欲しい。)


リュカの考えている計画はこうだ。

①アマンダに毒を仕込み、ガータリオンのリーファへの不信感を煽る。

②リーファをイラつかせる。

③ユーゴへの鞭打ちが酷くなる。

④ガータリオンと一緒にお風呂。


正直ガータリオンが俺達と一緒に風呂に入ってくれるかが心配だ。


『じゃが、その計画だとデメリットがあるじゃろうて』

(はぁ?どこにもないだろ)


『違うんじゃって、ユーゴとアマンダが苦しむことになるんじゃ』


(??それのどこがデメリットなんだよ)


『……』


リュカは今目の前にいるユーゴがこの計画のなかで痛い思いをすることや、実の母であるアマンダが毒で苦しむことをなんのデメリットもないと思っているのだった。




「ユーゴの怪我を父様がしることが出来ればいいんだろ?」

「まあそうだね。」

「じゃあ一緒にお風呂に入ればいいじゃないか」

「え!?嫌だよ。というか僕と入ってくれるとは思わないし」

「最近父様は俺に頬ずりしてくるんだ。多分行けるって!」


「えぇ、それ本当に父様??」

「うん。それに優しくしてもらうと嬉しいんだ!(うん。それは俺も思った。人間の醜いところがバッチリ出てるよな!)」


「ふふっ。リュカはまだまだ子供だな」


「えっ?なんか言ったか?ユーゴ?」

(バッチリ聞こえてんだよクソガキ)


「ううん。なんでもないよリュカ」



テラスでの微笑ましい兄弟での会話のなかで、リュカの脳内では殺伐とした空気が流れていることは誰も分からないだろう。




- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -



「いやぁ〜最近またリュカは綺麗になったんじゃないか?」

「そんなことないよ父様」

(はぁ??前まで当たり散らかしていたおっさんはどこに行ったんだよ!きめぇ!)

「ふふ……リュカは私とあなたのいい所ばかり受け継いだようね」

(うん。お前はいい仕事をしている。リーファをイラつかせることが目的だからな)

「……」



最近の夕食は仲良し家族ごっこばかりしていて、リーファは1人孤立している。内心でここにいる全員を嫌っているリュカは心の声が間違えて口に出ないか細心の注意を払うのだった。


最近は剣術の稽古で指南役に負けることがない。その上物覚えもよく、全てが上手く行きすぎていた。やはりパルサパンの力は偉大だ。だがしかし、リュカは全てが上手く行きすぎていることに不信感を持ち、不安があふれ、イライラするのだ。


(おい……これも全て嘘なのか)

『おいおい、お主、それはもう病気じゃなくて呪いじゃろうて。そこまで来たら救えんぞ』

(はぁ、話している相手がおっさんだということだけが唯一真実だと信じれる)


『リュカよ。この世界は本心で何を考えていようと口に出せばそれは事実になるのじゃ』

(あぁ)

『だから思い詰めんでもいいぞ、嘘だと疑うのは周りの反応を仰いでからじゃ』

(俺には周りがいねぇんだよな)


リュカはパルサパンも、ガータリオンも、自分も全てが偶像であり、嘘なんじゃないかと果てしない沼に沈んでゆくのだった。


「ユーゴは最近どうなんだ!?」

(プライドをかなりおってしまったからな!)

「ぁぁあ、僕はぼちぼちかな、リュカほど勉強も進んでないしね」


ユーゴの心境は複雑だった。今まで劣っていると思っていた弟に……気づくと何もかも追い越され、その上秘密鞭打ちもバレているのだ。リュカ的にはユーゴは被害者だと言っていたが、ユーゴ自身はリュカには話していないが自分もレイアを鞭打ちしてしまっていたし、内心複雑な気持ちなのだ。


最もリュカはそれすら知っており、とっくの前に期待などしていなかったのだが

(ユーゴは相当嫌な気分だろうな。無邪気な子供バカに、虐待してくる母親ババア、態度をすぐ変える父親おっさんにタチの悪い悪女アホ


リュカがちらりのリーファを見ると貼り付けたような頬笑みを浮かべており、無言のままお上品に食事をしていた。

ガータリオンはそんなリーファの様子を見てやはり惚れた女だなと見直しているようだ。


(よーく、イラついても猫かぶったままで居られるよな尊敬するよ)


味は上品だが前世のカップラーメンとは比較にならない旨みのない料理。それこそが今俺がここにいることを裏づけている。


サラッサラの銀髪も、少女とは勘違いしようがない気の強い美しい顔も、自分自身の目的さえ、全て偶像のようだ。心の中では必死に恨み言を垂らしているが、リュカの瞳は相変わらず虚空を見つめていた。

演技すること以外ではその深い紅色の瞳はより1層深く見えるのだ。


(はぁ!イライラするっ!俺に動く理由見せてくれ……)


何故こんなにも考えてリーファを排除しようとしているのか頭が痛くなってくる。






殺せばいいじゃないか

俺の評価が落ちる

本当は殺したい



暗殺者でも雇えば

ツテが無い

確実じゃないと怖い



家督争いに勝ち、この家で頭のいいやつをいなくしたい。


その後はどうするの……?




また面倒なやつを排除するだけ


それでなにになるの?力があれば嫌な奴を殺すだけで済むのに





本当は殺したいんでしょう?












「うわああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!!」



「どうしたんだリュカ!大丈夫か!」

「リュカ……どうしたんだい?」

「リュカ!!!!大丈夫なの!?」

「リュカくん……!!」


(これもきっと全て嘘)


リュカは前世からこういう人間だった。悪いこと……というより人を殺したくて仕方がないのだ。


そんなリュカの荒れ狂う心境を見て、パルサパンは下品な笑みを張りつけて笑っているのだった。





- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る