第7話転生者の影


そして2週間がたった。

リュカはこの間、もちろん使用人たちに媚びを売ったが、同時に金稼ぎの案を出すことにした。ジョンを取り込むのにはそれが一番だからだ。前世の記憶を上手く使い、新しい製品を発案しようとも思ったがそれはダメだ。どうやら最近平民の中でオセロが流行っているらしいのだ。もう転生者の予感しかしない。高位貴族ではチェスが流行りだしたらしい。少なくとも平民に1人、伯爵以上の子息令嬢に1人、転生者がいる。


リュカは前世のことを思い出したくないと思っていた。転生者が活動するだけで前世のことを思い出し、その度嫌な気持ちになるのだ。リュカは朝食であるコーンスープを飲みながらガータリオンが久しぶりに出席した朝食でそんなことを考えていた。


「陛下に献上された盤上の遊戯が5個限定で発売されるらしいんだ。」

(クッソ。前世を持ち込まずに金を稼ぐにはどうすればいいんだ。)

「私も購入したいと名を挙げたが当選するのかどうか……」

「凄いのね。私も陛下に献上された遊戯は興味があるわ」


アマンダがそう言うとリーファが

「最近は下町でも盤上の遊戯が流行っているらしいじゃないの」


「……はぁ、あなたね、平民たちが遊ぶものなんて興味無いわ」

今日も関係はギスギスだ。


ユーゴは苛立っているのか最近あまり話さない。というより連鎖的にリーファも苛立っているようだ。

リュカも前世を思い出す話題を持ち出されて嫌な気持ちしかない。ガータリオンは何故か1人だけ打ち解けたと舞い上がっている。

(父さん、俺は優しさを見るとイラつく性なんだ。)

『だから精神病になるんじゃろ』

(あぁ、何もないから人を殺したくて仕方がない)

『……人に生まれたのが間違いじゃったな。』

(なら俺は神を恨めばいいのか?)

リュカはレイアが思っているように過度なサディストだった。というより犯罪的な行動を起こせと脳に支配されているのだ。前世ではストッパーがかかっていたが、現在比較的権力を持った立場にいるためどうしてもあふれでてしまうのだ。


(とにかく金稼ぎの件はゆっくり案を出していこう。)


リュカは一旦考えるのをやめて、当初の目的である使用人をどうやって取り込むかに行動を移した。リュカに取ってリーファは害でしかないので、何らかの形で排除したいと思っているのだ。幸い、クッキー作戦でガータリオンはリュカに対する認識を変えた。ならば次は何か問題を起こしてガータリオンのユーゴへの認識を変えてやろう。

コーンスープを飲みきったリュカは伸びてきた銀髪を耳にかけながら、あくどい笑みを浮かべていた。




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(いやぁ〜〜クッキー便利すぎだろ!!!うまくいきすぎてこぇえわ)

目の前でメイド長のアリサがユーに事情を問い詰めているのを見てリュカは口角が上がるのを耐えるので精一杯だった。


何故こんなことになったのか、自体は約1時間前に遡る。










朝食を終え、リュカはメイド長のアリサに誕生日祝いとしてクッキーを渡そうと思ったが、さっき考えていた問題を起こすという考えと奇跡的にマッチした、名案が頭の中に浮かんだのだ。

(そうだ!アリサにクッキーを渡す途中にわざとクッキーを割り、ユーゴを悪人に仕立てあげよう!)


計画はこうだ。

①アリサを探している振りをしながらユーゴを探す。

②ユーゴにわざとぶつかりクッキーを割る。

③大事にし、ガータリオンの耳に入るような事件にする。


ユーゴには可哀想なことをするが、この計画の素晴しい所はメリットが3つもあるところだ。

①ガータリオンのユーゴに対しての認識の変化

②ユーゴが失敗したことによりリーファをイラつかせる

③アリサへのは媚び売り

素晴らしいな。これは


早速行動に移すとしようか。

(パルサパン、クッキーを亜空間から取り出してくれないか?)

『はいよ〜』

(テンクス)


『異世界語はやめるんじゃ、意味がわからん!』

(ありがとうって意味だよ)


『お主、いい所もあるんじゃな。まあクズじゃが』


(俺もそんなこと思ってねぇよジジイ)




『はぁ〜〜魂刈り取りたい気分になってきたわい』

(…ハンサムですね。パルサパンさん)

『じゃろじゃろ?』



(このクソ親父が…)

『聞こえとるぞ』


クッキーを手に持った俺は全く気持ちの籠っていない手紙を書き、計画を実行するため楽しげな足取りで扉を開く。


リュカがしばらく館を捜索していると、ジョンと出会った。目が合った当初まさに「げっ」と擬音が出てきそうな顔をしていたがリュカが近ずいていくと、ポーカーフェイスに切り替わった。


「おいジョン。ユーゴを見てないか?」

「ユーゴ様はただいまリーファ様に呼び出され、リーファ様の自室に向かっていらっしゃると思います」

「わかった。引き止めて悪かった。仕事がんばれよ」

(せいぜい俺のいいように動いてくれ)


リュカはリーファの部屋に向かい歩き出した。リーファの部屋はリュカと同じく2階なのでまた2階への階段を登るのは馬鹿らしかった。リーファの部屋に行くと、どうやら何か話しているようだ。


(パルサパン、部屋を覗き見してくれ)

『はいよ〜』





(なんの話しをしていた?)


『リーファがユーゴを叱っていただけじゃったぞ。最も内容はお前が喜びそうなものじゃったが』

(なんだって?詳しく教えてくれ)

『体罰じゃ。リーファがユーゴを裸にしてむち打ちにしておった。』

(思ったより悪辣だな)


この時パルサパンは中に1人の使用人がいたことを知っていたが、リュカに聞かれなかったので何も言わなかった。もちろんその使用人はサリーであり、のちに、この時にリュカが知らなかったことで、大きな問題を引き起こすのはまた別の話。


リュカはユーゴのあの悪癖ストレス発散がリーファ譲りのものだったことをやけに納得していた。そう考えるとユーゴは被害者のようだ。だがリュカはクズだった。これは付け入る隙があるなと新たに企みを始めたのだった。


ガチャ


ユーゴが虚ろな目でドアからでてきた。

(よしっ!チャンスだっっ)


バンッ


「うわっ」


リュカはわざとクッキーをほおり投げバッキバキに割った。そして目に涙を貯め始める。


「う、う、うぅぅ」

「リュ、リュカ…!あ、あぁっもうなんなんだよ」


ユーゴはなんでこんなに不幸が重なるのかと自信を呪った。リーファに呼び出されただけで今日は憂鬱だったのに、オマケにリュカをこかしてしまったのだ。


(やばいやばい口角が制御出来ない。)

リュカは腹から見れば泣いているように見えるだろうが実際は俯いたままニヤニヤと笑っていた。


「うわああああああん!ユーゴ!!なんでそんなに酷いことするんだよおおおぉ!」

ポロポロと涙を零しながらリュカはユーゴを恨んだ。その演技はまさに迫真で、ユーゴはどうやって宥めるのか、ていいっぱいだった。騒ぎを聞き付けた使用人たちがこちらにやってくる。リーファは自室にこもり、無視することに決めたようだ。


「リュカ様、落ち着いてください。ユーゴ様もわざとではありません」

「ちがうもん!ユーゴのやつが俺をわざと転ばせたんだ!せっかく作ったクッキーをわられたぁ!」


リュカはバカを演じ、多少自身の評判が下がってもガータリオンがユーゴに大して悪い印象を持たせる方を優先した。

「うっ、うぅぅう!!」


使用人たちは15人は集まってきていた。

するとそこに、

「アリサ!俺…た、誕生日、プレゼント、…ウッ…壊しちゃった…。手紙だけだけど…」


リュカは走ってやってきたアリサに泣きながらプレゼントを渡す。きっと使用人たちはこの話を広めてくれるだろう。

「うっ…うっ…はっあ…あっ」

リュカは下を向いて泣いた振りをしながら笑っているのだった。




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