第6話媚び売り大作戦④



「あ、あぁ……!リュカ、今まですまなかった。寂しかったんだよな…!だからきつく当たってしまっていたんだな。」

「…???」

(は?え?なんでこのおっさん泣いてんだ???)


ガータリオンはいつもの氷のような顔面をグズグズにして泣いていた。

リュカはその行動が自分にとって悪いことではないと瞬時に判断して落ち着きを取り戻したが、未だに泣いていることに疑問が残った。そもそもリュカ、『雅人』は、全人類を悪意でしか行動しないと思っているので、ガータリオンの行動は、予測不可能な上、理解できないのだ。


「う、うわぁぁあん!お父様〜〜〜〜!」

(何が何だかよく分からないが乗っておこう。)


「構ってやれなくでごめんな。仕事で少し頭がおかしくなっていたみたいなんだ…」

「あぁ、だ、だから(意味もなく泣いている状態)だったんですね…!」

「ああ、昔は私も(リュカに構ってやれなくなるほど)おかしくなかっただろう…?」

「はい。昔は(急に泣き出すなんてことはなく)大丈夫でした。」


ガータリオンは、こんな不甲斐ない父を許してくれるのかとリュカの成長に感心していた。一方でリュカは、たしかにこんなに感情的になるほど追い詰められたガータリオンを見るのは初めてだなと、改めて驚いていた。


「ユーゴにも、知らず知らずのうちにプレッシャーをかけていたのかもしれんな。」


ユーゴが最近少し苛立っていることを伝えると、ガータリオンは以外にも自分を責めだした。リュカはガータリオンの性格がよく分からなくなってきていた。この言動さえ自分が“息子にしたわれている父親”という偶像をつくりあげたいからなんじゃないかと邪推する。


「ところでサリーはいつからユーゴの専属なの?」

「サリー…?すまんな私はリーファが連れてきたということしか知らん」


リュカは考えた。ユーゴを裏で操っているのはリーファで、サリーを連絡橋としているんじゃないかなと。そう考えるとリーファは思っていた以上に野心家に思える。影で、リュカを孤立させておきながら、常に優しく接してきていたからだ。

だがしかし、そう考えるとユーゴあの悪癖ストレス発散を矯正しなかったのは悪手だ。だが、たかだか使用人。裏でリーファも同じようなことをしていたから危機感が薄れていたのか?


それはリーファを貶めるのにも使える手だ。やはり人は余裕が無くなると選択を間違えてしまうんだな。俺も普通と考えずにおかしなところはしっかりと考えて手を打たないと。


リュカはガータリオンに抱きつきながら少しの発言から思考を高速回転させていた。嘘泣きで少し潤んだ瞳は成長を感じさせており、アマンダ譲りのまつ毛が主張したつり目になってきている。真紅のように深い赤色の目はどこまでも続く穴のようで、ガータリオンは眉だけを下げるリュカに大人びた色気オーラを感じた自分に不信感を抱いていた。「これは将来女泣かせになるぞ」と。


「リュカは最近ますますアマンダに似て綺麗になってきたな。」

(っっ!パルサパンのおかげなんだよなぁ…さすがに2倍は目立つか??)

『なんじゃ?魅力だけ減らすか??』

(今更顔の雰囲気が変わったなら尚更おかしく思われるだろっっ!)


リュカはユーゴの悪い噂を耳に挟む事に機嫌が良くなり調子に乗っていた。



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次の日…

今日は執事見習いのジョンの誕生日だ。ジョンは、俺たちより3つ年上で将来は、執事として当主を支えるだろう使用人たちの出世頭だ。ジョンの父親は現執事で、ガータリオンの補佐をしているセバスチャンだ。

つまり、暗に言えばジョンは次期公爵家当主を真っ先に見極めねばならないのだ。だがジョンはユーゴとリュカに等しく接しており、未だにどちらにもつかないのでよく、リーファからは餌付けをアマンダにはリュカに付けと急かされていた。


リュカが久しぶりに窓からの日光を浴びながら廊下を歩きジョンを探していた。予想どうりジョンはユーゴと一緒に居るようで、テラスで優雅に紅茶を嗜む様はいい意味でお似合いだった。


キラキラと輝くテラスに2人の少年がいる。1人の少年は見るからに上品な貴族服を着ており、まだあどけなさ残る顔立ちには賢さが浮かび、表情からは優しさが溢れていた。もう1人のたっている少年はまだ成長過程と思われる体つきで、黒の執事服を見事に着こなしていた。座っている少年の方が色素が薄く、そのアクアマリンのような瞳からは高潔さを、たっている少年の濡羽色のような髪は誠実さを印象づけた。


(はぁあ、何優雅に紅茶飲んでんだー?ユーゴ、お前はお前で仲良くなるポイント稼ぎに必死だな)

『お主、口を開けば悪口しか出てこんな』

(実際2人とも真っ黒な腹の読み合いをしてるんだろうがよ)


「ジョン!ちょっと俺の部屋にこい」


テラスの入口に腕を立てかけ、壁にもたれかかったリュカがジョンを呼んだ。ジョンはユーゴとの腹の探り合いがそんなに楽しいのか、こちらを向くと、目には少しつまらなさそうな色が浮かび、呆れたような感情が感じとれた。

(ん?こいつは俺よりもユーゴの方が使えたいと思っているのか)


「ユーゴ様…失礼します。」

「わかったよ。…しばらくリュカの相手をしてやってくれ」

(は〜〜!「リュカの相手をしてやってくれ」?いつからお前は保護者になったんだよ!!その上から目線を直さない限りぶちのめしてやるからな)


ユーゴはそういうとジョンにニコッと笑った。

リュカがユーゴに対してイラつくのには理由があった。ユーゴはたしかに使用人に対しても命令口調ではなく優しいが、リュカに対しても同じような気持ちで話してくるのだ。たしかにユーゴはリュカの下ではない。だがしかし、リュカもユーゴの下では無いのだ。


そしてユーゴの悪い噂が広まった今、使用人たちは気づき始めただろう。ユーゴは使用人にやさしいが、関心がない敬意を払っていないと。リュカでさえ、使用人たちには敬意を込めた振りをしている。じゃないと信用して貰えないからだ。さりげなく、「よくやった」など、労いをかけていた。


ユーゴはけして、下と判断したものに感謝はしない。してもらって当然と思っているからだ。多分使用人の中にもユーゴに使えていて何かモヤモヤした気持ちを持ったものもいただろう。そしてやっと気づいたのだ。ユーゴ様は私たち使用人に関心がない。と、。そのうちまたユーゴから使用人たちの心は離れるだろう。


ユーゴはジョンを後ろに連れて歩きながらニヤリと悪魔的な笑みを浮かべるのだった。




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ジョンside



「なんの御用でしょうか…ユーゴ様。」

「はいこれ。誕生日だったんだろ?その代わり俺が大人になったら支えてくれ」


ジョンは、リュカが使用人たちの噂にあると通り、傲慢ではあるがやさしい性格なことに気がついていた。しかし、改めてプレゼントを渡されると、やはり心にくるものがあった。

リュカは美しかった。心も、その全てが。純粋無垢な表情で少し頬を染めながらクッキーを渡してくる様子は、まるで告白してきたかのような勇気を感じさせる。自分はこうも大切に思われていたのかと。(※すべて計算されています)日頃ユーゴという裏表の激しい、まさにリュカの真逆とも言える狡猾さとも接しているのでこうやって労われることでジョンの中で少しリュカの株が上がった。


ジョンは頭がいいのでその言葉が、ジョンからのリュカの内心への評価が少し揺らいだ。

今のは暗に“”当主に推してくれ“”と言っているようなものなのだ。リュカの顔を眺めたジョンだったが、クッキーを受け取ってもらい、ウキウキとしているリュカしか目に入らなかった。


ジョンはユーゴの腹黒さを気に入っていた。なぜなら貴族というものはそうして建前を並べるものだからだ。だから個人的に当主には無邪気な後継者リュカよりも賢い後継者ユーゴが継ぐべきなのだと思っている。しかし、このところリュカの行動は、回り回ってユーゴの評価を下げるものばかりだった。


「ありがとうございます…」

(この表情すら演技なのならば…僕はどうすればいいのだろう)


果たしてリュカはただの無邪気な子供バカなのか、はたまたユーゴ以上に賢い子供腹黒なのか。

ジョンは未だに中立を保つのだった。



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リュカside


「はいこれ。誕生日だったんだろ?その代わり俺が大人になったら支えてくれ当主に推してくれ


その言葉を紡いだ瞬間、すこしジョンの目が揺らいだ。

(あ!こいつはバカよりも腹黒のほうが公爵を継ぐべきと考えているのか…)

リュカは、ジョンがきっと言葉の裏に隠された意味を捉えて、真意を測りかねていると判断した。まあ実際そうであったのだが。その証にジョンはいつもの呆れた目とは違い、戸惑うような目つきでこちらを眺めている。リュカは照れたように見えるように、伏せ目がちにして頬を少し染めた。


『お主キモイぞ』

(だまりな!)


リュカはジョンが思った以上に賢いのでらわざわざ自身の本質である“野心家、冷酷”という部分を教えないことにした。そもそも先程のように察してくれるだろう。というよりいちばん身近な目標である、「後継者争いに勝つ」ということは無邪気な子供である『リュカ』でも変わらないからだ。


「ありがとうございます…」


ジョンは少し恐怖の色が混じるようにこちらを凝視しており、そんな様子からリュカはジョンのある程度の人柄を測った。臆病、慎重、真面目、従順。まさに、前世の俺と同じく考えすぎてしまうタイプのようだ。だが相手の心中を完璧に把握したとなればそれは従順になるだろう。きっとジョンはアルシオン公爵家のためなら多少緩くなってしまう人間だろう。リュカはこれからはアルシオン公爵家への貢献もポイント稼ぎとして追加しないとな。と思った。




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