第5話媚び売り大作戦③

三日後…今日は作戦の決行日。リュカは、ガータリオンが会議を行っていると知った。アルシオン公爵家が王家から賜っているのは防衛大臣の座。つまり、国家間での戦争に繋がる動きがあったということだ。突撃は辞めようかと思ったが時刻は既に22時、小学一年生であるリュカはもうお休みの時間なのだ。7歳であれば多少わがままも許されるだろうとガータリオンの書室に突撃した。


「リュカ様、旦那様は会議をしております。会議が終わるまでお待ちください。」

「いーやーだぁぁあ!」


ガンガンガンッッ


「お父様〜〜!!! 」


ガチャリ


「おい!!!うるさいぞリュカ!!毎度毎度問題ばか…り……」

「…お父様…誕生日おめでとうございます。お仕事邪魔してすいませんでした……」


「あ、…お、おい!リュカ!」

リュカは泣いた振りをしながらクッキーを押し付けたあと廊下を満面の笑みで走っていった。

(やったぞ!!上手くいった!時間が出来れば書室に呼ばれるはずだ!そこで嘘泣きして、感動を煽ろう!!)


『悪辣じゃな』

(フッ!頭がいいって言ってくれないかい?パ・ル・サ・パ・ン?)



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ガータリオンside


ハファエル王国は今緊急事態に陥っていた。隣の大国であるターリーズ帝国が王国北西部、ハリトン伯爵領にある鉱山に因縁をつけて軍事侵攻してくるという自体だ。


最近はアマンダと性格が似てしまったリュカだけでなく、ユーゴの噂もたっているし、どうしてこう、私の周りは面倒事ばかりなのかと神に嘆いていた。


「これより、帝国、王国間にあるわだかまりについての会議を始める。これより下手を打てば帝国は、軍事侵攻してくるといっている。そもそも奴隷問題や、亜人の差別問題でも因縁をつけられており、既に関係は修復できないほどだ。だが、幸いあと10年後に、勇者や聖女が現れるとされている。それらを戦場へ戦力として投入すべきなのだが………」


(聖女を戦場へ戦力として投入するとなるとやはり教会が野次を入れてくるだろうな……)


(ん?なんだ?)


会議中なのだが扉がゴンゴンと揺れており、みながそちらに注目している。どうやらドアの前で誰かが話しているようだ。

「ぃーやーだぁぁあ!!」

(ちっ。この声、リュカか……!またあいつ面倒事を起こしたな……)


「すいません。うちの愚息みたいです…少し失礼します……。」

ガータリオンは皮でできた上等なイスを引き、スーツにシワがつかないようにピシッとしてから歩き出す。銀髪に合わせた深いカーキ色のスーツで、落ち着いているが威厳のあるガータリオンにびったりだった。


がチャリ


「おい!!!うるさいぞリュカ!!毎度毎度問題ばか…り……」

扉の向こうにいたリュカは、私譲りの銀髪を少し長めに後ろに流す髪型をしており、久しぶりにみると、少し身長が伸びたようだった。リュカは私の顔を見て少し涙目になりながら、何かを私に押付けた。


「…お父様…誕生日おめでとうございます。お仕事邪魔してすいませんでした……」



「あ、…お、おい!リュカ!」


初めは会議を邪魔した馬鹿さに頭を抱えたが、誕生日を祝ってくれたのかと心が温まる。

そういえばリュカと最近話すことはなかったなと、なんて不甲斐ない親なんだと情けなくなった。涙を堪えながら走っているのだろうリュカの背中は寂しいと言っているように見え、仕事が忙しくなってから、何かと元気のいいリュカには当たってばっかりだったなと初めてリュカを見れた気がした。


だがリュカはアマンダと同じく傲慢でしよう人に敬意が全くない。だが、人を思いやる気持ちは持っているようだった。


扉を閉めると会議中の皆がこちらを向いており、まさか全部見られていたのかと、ガータリオン恥ずかしくなった。しかし……


「アルシオン公爵は本日誕生日でしたか……!おめでとうございます。」

「「「おめでとうございます。」」」


「いや、しかし可愛い子でしたね。あれはユーゴ君ですかな?」

「あれは次男のリュカです。少し傲慢なところもありますが優しい子ですよ。」

「それは、クッキーですかな?」


手元を見ると袋にクッキーが3つと手紙が入っている。歪な形で、1つは少し割れてしまっていたが、手作りなのが伝わり、またもガータリオンは情けない気持ちになった。


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会議が終わり、気づくと時刻は1時過ぎ、既に日をまたいでいたのかと、リュカが会議中に入ってきた理由がわかった。早速机の上に置かれている。28歳のたった一つの誕生日プレゼントを開ける。クッキーを1つ掴み口に放り込むと、想像していたより美味しく、気持ちが籠った味がした。


ガータリオンは今まできつく当たってきたことを思い出し、涙が目から溢れてきた。


(あぁ、リュカは私の知らないところで成長していたのだな。)


ガータリオンは涙脆い。人に厳しい分、自分にも厳しいからだ。しかしリュカは人のことは絶対に信用しないのでその事が伝わることは無いだろう。


ガータリオンは涙を拭い、クッキーをひとつ残して手紙を読むことにした。


===


お父様へ


いつもお仕事お疲れ様です。私は最近学園の範囲を終えました。

剣術では指南役の騎士に勝ったこともあります。お仕事が大変

なのは分かりますが、お母様にも少しは構っていただけると嬉

しいです。お父様に振り向いて貰えるように使用人たちに厳し

くすることも我慢しています。立派な公爵家当主になれるよう

に頑張ります。


リュカ・アルシオンより


===



拙い文章で、感謝や憧れを解いたその手紙はリュカを愛おしく思うのに十分だった。



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リュカside


次の日


コンコンコン


「リュカ様、旦那様がお呼びです。」

「分かった」

(はい!来ましたー!こ・れ・は!謝られるやつじゃないですか??!)


『お主少しは同情せんのか?』

(共感したら負けなんだよ。)

『そんなんじゃから、失敗するんじゃろうて』

(失敗したら殺せばいいだけだって)

『お主、そういう奴じゃったな。』


リュカはルンルンで書室へ向かった。


リュカはガータリオンはきっと相手の意見をしっかり聞ける人だと思っていた。下手くそな手紙でもそこに含まれた意思を読み取ることが出来るし、だからこそ防衛大臣としての座も与えられていると思ったからだ。リュカは呼び出された先ではガータリオンが“今まできつく当たってしまいすまなかった”という意味合いの言葉をかけてくると予想していた。


コンコンコン


「お父様…!リュカです…」


「あ、あぁ……!リュカ、今まですまなかった。寂しかったんだよな…!だからきつく当たってしまっていたんだな。」



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