第4話媚び売り大作戦②


「リュカ様困ります!!ただいま料理人は休憩中です!」

「俺は別に今、コックはいらない。キッチンを使いたいだけだ。」


リュカが女のコックを見つめて頬を膨らますと、女は少し戸惑った表情を浮かべ、困惑しはじめた。

(すごいな、この『顔』の効果は……)


「……危ないです。リュカ様……!万が一怪我でもしたらどうするんですか…!」

「別に…………母様以外心配しないよ……!」

「リュカ様……」

「教会から、光魔法の使い手を呼べばいいだけだ。」


リュカは、いつもの無邪気バカさに合わせて可愛さと投げやりさを演技していた。“父親を振り向かせたい子供”に見えるように。

ガータリオンがリュカとアマンダを毛嫌いしているのはこの館では無論承知だ。


「……一体何を作りたいんですか??」

「父様が誕生日だからお菓子を作りたいんだ。別に俺が父様に構ってもらいたいわけじゃないからな??」

「…………ふぅ。仕方ないですね。その代わり私たちと一緒ですよ?」

「私も手伝います。」


後ろから料理長のマイケルが話しかけてきた。皆リュカの計画道理に乗せられ、柔らかい表情をしていた。

(ははは!すげぇや。おもったよりも上手くいくもんなんだな。)



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「リュカ様お上手です!」

「やったあ!出来たぞ…!」


リュカはあえて失敗を繰り返し、“リュカがガータリオンを思って頑張った”という事実を作り上げた。リュカはもうこんなこと演技することは懲り懲りだと思っていたが、やり遂げ、使用人が思ったように動くのは達成感と優越感が凄まじかった。


リュカは無邪気な子供を演じながら焼いたクッキーを3つずつ袋に入れ、合計6袋と2つほどのクッキー点数稼ぎを手に入れた。


(よし、1袋はガータリオン、2袋目は執事見習いのジョン、3袋目はメイド長のアリサ、4袋目と5袋目はパルサパンに持ってもらっておいて、6袋目と2つはここに集まった合計5人で食べよう。とりあえずは料理人の中で俺の評価は向上したはずだ……!)


「余ったやつとこれはいまからみんなでたべるか……?」

リュカは少し照れているように袋を差し出しながら顔を背けた。


「いいですね!食べましょう!」

「「「賛成〜!」」」


リュカが作ったクッキーは初めて作ったには美味しく、料理人たちはリュカが意外と器用だったことに驚いていた。1人が袋を空け、クッキーをお皿に並べると、みなが食前の挨拶をしてクッキーに手を伸ばし始めた。


「リュカ様、優しいとこもあるんですね、!」

見習いのコックがクッキーを食べるなか発した言葉に料理人たちは凍りついた。リュカの怒りが飛んでくると思ったからだ。

「……そんなことねぇし。ユーゴ見たいな奴には絶対になりたくない」


以外にもリュカの反応は優しく、料理人たちは戸惑った。リュカは使用人に暴力を振るい、見目のいいメイドには辱めを罰としていると聞いたからだ。だが、今日一日のリュカを見ているとそんなことは全くの嘘かのように思えた。リュカがキープしているメイドはエマで、リュカが顔で選ぶとは思わないのもあった。キープとはお気に入りの使用人を専属にすることで、手出しご無用という意味でもあるからだ。見目のいい使用人なら夜伽に、腕っ節のいい使用人なら護衛に。そんな意味が含まれていた。


そもそもしっかり考えてみると、リュカは正直に言ってまだ子供バカだ。それにメイドたちにはその噂を広めて被害者アピールをするレイアを気に食わない者もいた。そもそも、リュカが暴力を振るうのは自室の中だけで、傲慢な装い以外、特に見ていなかったからだ。レイアに嫉妬するメイドは、リュカに気に入ってもらおうと噂を払拭するのだった。




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レイアside


最近、私はメイド仲間のグループから爪弾きにされている。何でもリュカ様の、嘘の噂を流したとされているらしいのだ。リュカは使用人たちに嫌われていたはずだし、そもそも嘘なんてひとつも言っていない。


「リュカ様って、最近さらにかっこよくなったわよねぇ〜!」

「性格はちょっときついけど将来のためなら媚び売れるわ」


あなた達はわかってない。夜中に呼び出されては裏庭で辱めを受けているのに……!!

いつも馬鹿なフリして根は残酷なんだわ。人を嬲るのが好きな異常者サディストなのよ……。


たしかに外見で言えばリュカはユーゴより整っていた。ユーゴも整っていると言えるが、リュカはそれ以上にオーラが違うのだ。


「ユーゴ様ってなんで夜中の護衛をサリーにしてるのかしら。全く変わらないわよね。」

「サリーを気に入ってるのかしら。前、サリーが手紙を持って使用人の館に走ってるの見たわ。もしかして恋人かしら」


(え…?サリーが手紙?)

レイアは一瞬リュカからの手紙を思い出した。もしかするとずた袋を被っているのはリュカではなくユーゴかもしれないという恐ろしい考えが頭に浮かんだのだ。


ユーゴの夜中の護衛の話を流したのはリュカだった。その話がレイアの耳に入れば夜中抜け出していることのおかしさに気づくと思ったからだ。


(そもそもリュカ様って夜中の護衛は毎度変わっているのにどうやって抜け出しているのかしら…)


え……もしかしてあのずた袋の中身はリュカ様ではなくリュカ様のフリをしたユーゴ様…?でも昼間起こった内容を知っていたし…。いや、そもそもリュカ様なら手紙を届けるなんてことは出来ないわ…。リュカ様が猫を被っているより、ユーゴ様が猫を被っていると言われた方が現実味がある…。まさか、私は今まで嘘を流していたというの……??


「え、リュカ様が夜中外に出ていっところを見たものはいる……?」


レイアは青白い顔をしながらメイドたちのグループに入っていった。メイドたちはいつもどうり仲間はずれにしようとしたが、さすがに普通ではない様子に話を聞こうと輪の中に入れるのだった。


「リュカ様は夜中に出ていったことは無いわよ。トイレも寝る前に済ませるようだしね。」

「……ね、ねぇ、わ、私ね、3日に1回ほどリュカ様からの手紙が届くの……。そこには“1時に屋敷の裏に”と書いてあって……そこに向かうとずた袋を被った子供がいるのよ…!そこで裸にされるの……。リュカ様は私を嫌っていて、よく強く当られるのよ……、でも、あ、あらためて考えたらそ、その子供は…リュカ様じゃ、な、ないわよね…?」


「……な、なにそれ、てことはあ、あなたの言ってたことは本当だったの???」

「じゃあ夜中抜け出していないリュカ様ではなく其れはユーゴ様じゃない、!?」

「え、?あの優しいユーゴ様が?」


その日から、その噂は広まり、1週間も経てば、使用人全員が知っているような事件になっていた。リュカの評価は向上し、ユーゴの評価は地に落ちていった。

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