第17話
遥架は意識を失った。
「遥架!?」
「遥架ちゃん!眠っちゃだめだ!」
現在、3つの謎を解き終えた矢先。廊下を歩いていたときになんの前触れもなくだ。
―――・・・
とりやえず遥架を背中におぶってカンパに顔面蒼白のまま訊いた。
「寒波、遥架どうしたんだ!?マジで。」
「顕斗くん、落ち着けない状況だろうけど、落ち着いて遥架ちゃんをどこかに寝かせておかないと。はい、深呼吸。」
俺はカンパの吸う息と吐く息に合わせて深呼吸する。
「よし。で、どこにおろそう。そうだ、保健室行こう。」
俺たちは意外に合ったチームワークで遥架を横にならせることに成功した。
―――・・・
「顕斗くん、遥架ちゃんのこと大好きでしょ~。」
「気色悪いこというなよ。」
俺は思いっきりしかめっ面をカンパによこす。だけど、カンパはへらへら顔をするだけだった。
「にひひぃ~。」
「寒波、ふざけないで説明してくれ。遥架はなんでいきなり意識を失った?」
こればかりはヘラヘラしてられないとでもいうようにカンパは珍しく顔を引き締めた。それを望んでいた俺も不覚にも背中をぞっとさせた。それほどまでに遥架が危険なめにあっているのだと認識してしまう。
「遥架ちゃんに黒歴史ある?それかショックで忘れている記憶。」
俺は真剣に考えてから言った。
「思い当たることはある。けどそれがどうした?」
「よく聴いて。正直こうなるとは思っていなかった。けど、可能性はあったんだ。配慮が行き届かなかった僕に責任があるよ。ごめん。」
「そういう前置きはいいからどうなってるのか教えてくれ。」
カンパはコクッと頷いてゆっくりと説明を始めた。
「遥架ちゃんにとって一番大切で、だけどきっと言えない言葉があるんだ。多分。」
「言えないこと?」
カンパいわく、俺の行動に問題があったらしい。それだけでは俺でもカチンッと来るような内容だ。だが、俺の行動が不安を煽り忘れたいほどショックな出来事を刺激したらしい。俺はカンパに、「どうして気付いていたのに言わなかった?」と低い声で訊くが、ただ「ごめん。」と謝られるだけだった。遥架の『言えないこと』。それがなんなのか、俺には何も分からなかった。
―――・・・
「えーと?」
当時、5歳のときに夏祭りへタイムスリップ?した私はおじさんが出した謎解きに5歳の顕斗と一緒に現在、挑戦している。
紙に書かれているのは「いか」のイラスト。その右には大の字に寝転ぶ男性のイラスト、目をこすっているイラスト、そしてやりの先に矢印が描かれているイラスト。そしてまた右には6個のマスに左2マスは赤色縁、5個のマスに左1マスは赤色縁、4個のマスに左から2マス目が赤色縁。問題の内容は『赤色縁を左から読むと現れる言葉は?』とのこと。
いかのイラストと右のイラストをかけ合わせて言葉を作る問題らしい。
『問題:赤色縁を左から読むと?』
『いか 大の字に寝転ぶ男の人:赤赤□□□□
目をこすっている :赤□□□□
やりの先に矢印 :□赤□□ 』
なんというか、このような形式の問題は先ほど見たような気がする。きっと、左のいかのイラストと右のイラストを掛け合わせて一つのものにするのだろう。ただ違うのが、番号を並べて答えるというものが赤縁を左から読むのだということだけだ。
「あ!分かった!」
声変りをしていない高い声を出す顕斗が声を上げた。私は「もう分かったの?」と、目を見開いた。
「大の字だから『大きい』ってことじゃない?だから深海に生息する一番大きい『だいおういか』。」
「なるほど!顕斗やるじゃない。」
いかのイラストと右のイラストを合わせるといかの名前になるらしい。よって、一番上の6つのマスには「だいおういか」に決定。こんなに早く一つ分かるだけでも凄いことだと私はすぐに答えが出ることを期待の眼差しで顕斗を見た。幼い顔立ちの兄は高校生と打って変わって無邪気な笑顔で問題を解こうと必死になっている。そんな姿がとても可愛らしく見える。
「『こする目』と『いか』か。」
「これもいかの種類の一つなのかな?『こするめいか』?」
私は顕斗の横で唸っていると、顕斗は「こするめいか」と何度も口ずさんでいた。するとまた分かったというように目を光らせた。
「『するめいか』でしょ!」
どんどん答える顕斗に圧倒されつつある私とおじさんは「「おー!!」」と声を揃えて感嘆な声をあげる。これではすぐに顕斗が答えてしまいそうだ。だがしかし、最後のいかとやりのさきにある矢印だけは顕斗はわからなかった。
「遥架~。これ何?分かんないよ。」
先ほどの勢いはなくなったというでも言うように顕斗は顔をしかめた。私はそれを「あははっ」と乾いた声で返した。だって、私にも分からないのだ。やりが描いてあるので普通に考えれば「やりいか」になるはず。でも、おじさんは意地悪そうに「違うんだよね。」と言って笑うだけだった。「う~ん。」と、唸る私をよそに顕斗は飽きたと言わんばかりに脱線して別の人と話し始めた。それを見た私は呆れた声で「顕斗~。」と呼ぶが、別の迷子の放送部の人が優しく相手していたので安心しつつも諦めた。
「すみません。」
「はっはっは!本当に遥架だけ大人になったみたいだねぇー。女の子だからか?」
私は「そんな訳ないです。」と、また否定した。顕斗のことはほっといてもう一度視線をホワイトボートに目を移す。いかとやりの先に矢印。そして、私達にとって大事な言葉とはなんなのかを頭の片隅に置きながら考えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます