第14話

「それ何?」


私は顕斗の首にかかっているチェーンの先にぶら下がっている黒縁の丸い箱のようなものを指さして訊いた。


「方位磁針だってさ。問題の種はこれに反応するんだと。」


この方位磁針の詳細を聴くと私は


「それなら最初からこれを出してくれればよかったじゃない。」


と、じっとカンパを見つめた。するカンパは首を横に振って説明した。


「いいや、図書室に入ると針がぐるぐる回って使えない仕組みなんだよ。でも、図書室が一番見つけやすいから最初に行ったっていうだけ。」

「そういうことだったの。」


私は納得したように頷くと、今度は顕斗に訊かれた。


「そういや、遥架は図書室で何か見つけた?」


私は図書室で探していた時を思い浮かべて首を横に振った。


「やっぱり顕斗が探さないと見つかんないと思う。でも...」


私は出かかった言葉を飲み込んだ。自分の友達のことは顕斗にとって知らない人だから、喋る必要がないと思ったのだ。こんなにも謎解きに直結しなさそうなことを話したら呆れられてしまいそうだ。それとも真面目に探してないと思われるか。突然黙りこくり下を向く私を不審に思った顕斗は「でも、なんだよ。」と訊いてくる。


「大したことじゃないんだけど、」


横からの視線が心なしか圧が強く感じ、話さなくては少しずつよくなっている気がする関係が振り出しに戻る気がして言葉を切ってから言った。


「友達に心配かけてた、みたいで。」


短くそう言い切ると沈黙が流れていたたまれなくなった。やっぱり言わない方が正解だったと心底後悔する。そろりと反応をを伺うと驚、いたことに顕斗はぽかんとしていた。それってどういう反応なのかと頭の中でテンパって「それより問題探さないと!」と、急かす。すると、何かがプツンッと何かが切れたように顕斗は笑い出した。


「何を今更?」


何を笑われているのかも分からず立ち尽くすが、顕斗の笑った表情をかなり久々に見たのに対してホッとした。なぜなら嫌われているのだとずっと思っていたのだ。ちなみに、この二人の様子を後ろから伺っていたカンパは特に干渉せず静かに佇んでいたことに、遥架と顕斗は気づくことはなかった。


―――・・・


 外に出て東、西校舎から離れている南校舎へ向かうときに方位磁針に反応があった。方向は校舎の真ん中にある下駄箱。重い下駄箱の扉を開けて入る。


「(蝶は)いる?」


あの蝶は小さいので見つけるのに時間がかかる。辺りを見渡しても見当たらないのでここではないのかと思い方位磁針が本当にここを指しているのか確認しようと思ったときに顕斗が声を上げた。


「遥架、あった。」


蝶はアルコールの容器が置かれている机の下にとまっていた。それにカンパは私たちが訊く前に「種も気まぐれなんだよ。」と突っ込んだ。

 蝶は見つかったと認識すると今までの二問、問題を解く前と同じように羽をパタつかせて頭上まで飛んで机に向かって光を照らした。出てきた問題の紙切れにどれどれと覗き込む。


『問題:数字の順に読むと現れる言葉は?』


と、問題が書かれていて、その下にイラストが左に1つ、右に3つ縦に描かれていて、またその右にところどころに数字が入っている四角い枠が3つのイラストの横にそれぞれ6個並んでいる。。左のイラストには横になった女性、その右の3つのイラストは、上から海と青空、三本の木と芝生、太陽。四角形のそれぞれ6個の空欄には、最後の2文字は同じものが入るらしくイコールで繋がれている。その下には最終的に答えになる番号の並びとひらがなが書かれていた。私は先ほどまでとはまた違ったややこしさに眩暈がしそうになった。


『横になっている女性 海と青空    :④□□□③□

           三本の木と芝生 :□□□□③□

           太陽      :□②①□⑤□

※最後の二文字はイコール


①①ろ②’③④②(小さい)た』


―――・・・


 東校舎、二階の奥に食堂が整備されている。そこからは階段を下りて一階の食堂にも行けるようにもなっている。一階の食堂には自販機二つ、お菓子が売っている自販機一つと、パンが売っている自販機が一つある。


「『美言葉の所持者の名において葉鍵ようけん寿ぐ言葉の力。』」


カンパの呪文のような一言と共に小さな手に埋まる小さな鍵を胸の前で左に回した。


ガチャッ


沈黙の中澄んだ鍵が開くような音と同時に、窓から差すオレンジ色の太陽のような光と部屋の隅の薄暗い影ははスッと消えた。代わりに大きな窓の外の向こうに青空が広がり、見慣れた鳩が目の前を横切った。


「これで、現実世界に戻ったからちゃんと自動販売機が使えるはずだよぉ~。」

「ありがと、寒波!」


カンパは「どういたしましてぇ~。」と照れくさそうに身をよじる。私もカンパにお礼を言ってお金を入れてお気に入りのミルクティーをガタゴンッと落ちる音を聞いてから取り口から手にとった。顕斗は自分の右にあるお菓子が売っている自販機からチョコを買って、また右の自販機でパックのイチゴミルクを買っていた。

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