第13話

解かれた問題は再び蝶の姿になって便箋の上にとまって、今度は「親身」という文字に姿を変え、上から二文目は『部活や勉強が上手くいかないときや辛かったとき、苦しかったときも寄り添ってくれたこと、いつもになって私の話を聴いてくれたこと、その全てが私の前を向く力となっていました。』と、文章が繋がった。


「これでよし、と。次はどこを探す?」


私は顕斗とカンパに目を配ると顕斗はお腹を抱えて言った。


「お腹すいたからご飯食べようぜ。」

「そうね。食堂行く?」

「それじゃ、もったいなくね?せっかく高校と激似の校舎に来て誰にも怒られない環境にいるのに。」


私は顕斗の言っていることが分からず首を傾げた。


―――・・・


「鍵かかってるかもしれないわよ。」

「それは大丈夫さ。この校舎に鍵がかかっている場所はない。」


カンパが私の疑問に答えた。東と西の校舎の真ん中にあるC階段にだけ、屋上に上るための階段が設置されている。私の前を歩く顕斗はこちらを振り返らずに階段を上っていく。普段は立ち入り禁止である屋上には、入学当初にクラス写真を撮って以来だ。やがて階段を上りきると透明なガラスのドアが待ち受けていた。顕斗が手をかけるくぼみに力を入れると難なく開いた。ガラガラとドアを開けるとそこには沢山の山々と、オレンジ色の夕焼けのような太陽が私たちを迎え入れた。


「わぁー。」


と感嘆な声を出しながら網になっている落ちないためのガードのところまで走って言った。山はかなり遠くまで続いている。木の葉はかなり色鮮やかで、山全体を緑で染めていた。


「ここで昼ご飯なんてとてもロマンチックじゃない。」


一人で興奮している私を後ろから見ている顕斗は苦笑し、カンパは顕斗をからかうように笑って「良かったじゃん。」と顕斗の頭の上に乗った。


「分かったからご飯食べよ。」


少し呆れ気味に私をご飯を食べるよう促した。


―――・・・


 袋からお弁当を出して、蓋を開ける。顕斗と私のお弁当には量は違うものの、入っている種類は同じだ。きんぴらごぼうに卵焼き、肉団子にエビフライなどがおかずとして入っていて、白米にはふりかけがかかっている。そっとお弁当から顔を上げると、横からカンパが羨ましそうに涎を垂らしていたのを見てクスッと思わず笑ってしまった。


「食べる?」


と訊くと、カンパは「いいの!?」と言うように目を輝かせた。


「何食べたい?」

「この卵焼き食べてみてもいい?」

「いいよ。」


私はカンパの分を小さめに切ってあげるとカンパはそれを素手で掴んで嬉しそうに満面な笑みでもぐもぐと頬張った。


「美味しいぃ~。遥架ちゃんは料理の天才だね。」

「そうかな?ありがとう。」


私が作った卵焼きを絶賛してくれるのがとても嬉しくて口角が持ち上がった顔をカンパへ向ける。でも、ふと思った。


「どうして私が作った、て、知ってるの?」

「僕は遥架ちゃんのことなんでも知ってるよぉ~。」


カンパは特に何でもないように答えた。それに今度は顕斗が突っ込んだ。


「カンパはその『なんでも知ってる。』て、どういうこと?」

「話すときが来たら話すよ。」


私と顕斗は顔を見合わせてその『話すとき。』が来るのかという疑問を飲み込んだ。

 顕斗はお弁当を食べ終わるとA6のサイズの便箋を取り出して空欄の数を数えた


「午前中で問題を解いたのは二つ。残りは八つ。こんなペースでこれが完成すんの?」


顎に手を当てて渋い顔をする顕斗にカンパは答えた。


「今日で終わらなかったら明日も明後日も来て続きをやればいいさ。流石に三日もあれば全部空欄が埋まるだろ?」

「かなり長い戦いになりそうだな。」


私は気がかりになっていることを顕斗に訊いた。


「顕斗、部活は?こんなに休みが続くことなんて過去に無かったわ。」

「大丈夫だ。お前が心配することないよ。」


顕斗はなんでもなさそうに言う。それでも私は本当にそうなのか疑いの目で顕斗をじっと見つめるが、それでも特に動揺もせずに「そんなに俺のこと信じらんない?」と言われてしまったもんだからこれ以上疑いようもなく目線を外した。

 顕斗は何を考えているのか、まだ分からない。家では目も合わせずに素っ気なく、冷たい態度を取っていたというのに謎解きゲームをしている今では普通に話している。それが良い方向へ行っていると普通に考えれば解釈することもできるが何か企んでいるようにも思えてしまう。考えすぎだとは自分自身でも思うけれど、それでも普段からのギャップが違いすぎて余計なことまで考えてしまう。


「おーい。遥架。」


顔を覗き込まれてハッとし、勢いよく顔を上げた。


「他に何か問題でも?」


まっすぐな目でそう言われてしまえばもうこれ以上悩むことも特になくなっていた。


「ううん。ごめん、何でもない。」


すると、顕斗は満足したような表情になってその場に立って言った。


「さてと、そろそろ探すか。」


私もコクリッと頷いて顕斗に続いて空になったお弁当箱をバックに閉まって立ち上がった。

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