第12話
「もしかしたらこれ星座かも。」
とは言ったもののまだ確証がなかった。何故ならばこの線と星と見立てた丸の列の名前が分からないからだ。なんとなく見たことはあるような気がしてここまで出かかっている星座の名前をなんとか引き出そうと記憶を模索する。時には「なんだったけな。」と声に出しながら。必死に一人で悶々と模索していると、どこでこの星座を見たのか。その風景が徐々に映像となって頭の中で映画館で映画を見ているように映し出された。
―――・・・
春の時期にお父さんと一緒に山へ行ったことがある。あれは確か、中学生のときだっただろうか。あの時はまだ冬の寒さは完全に抜けきっていない頃だった。暗い夜の中車のライトが道路を照らして山を登る。それはそれは急坂で、ある程度上ったときに街を眺めるとビルやマンションなどの明かりは蛍のように光が粒になっていた。道路のしっかりと整備されたコンクリートはたまに亀裂が入って浮き上がっているところに車が通ると、ガタンッと大きく車が揺れた。
「父さんは星に興味を持ったのはいつ?」
助手席から運転する父さんに訊いた。怒ると怖いが、普段は普通に優しいくてよく笑う。そして、大学では天文学を学んでいたのだと家で雑談しているときになんとなく訊いていた。
「小学生ぐらいだったかなー。親に星座の図鑑を買ってもらったらハマったのがきっかけで、それからずっと。」
俺は訊いておきながらも「ふぅ~ん。」と気のない返事をした。今日の夜は天気がいいから星を見ようと、父さんは突然言った。でも遥架は塾だったし、母さんもあまり乗り気じゃなかったから俺が父さんについていった。星に興味があるかと言われてみれば普通と言わざる負えない。星座の図鑑を買ってもらったところで、それを読むかと言われてみればきっと一日目に数時間目を通してそれっきり、手を付けることはなかったであろう。それでも付いてきたのは父さんと出かけるのは何となく気に入っていたからだ。もちろん説教が始まるとめんどくさいが。
山の上にある駐車場に車を止めると上着を後ろの席から取って車から降りる。夜だからなのと、標高が高いという理由もあって風は冷たく肌寒い。鼻の中に溜まった鼻水をズズッと吸い込んで先を行く父さんの後を追いかけた。たどり着いたのは、暗くてよく色は見えないが、広大な原っぱであった。父さんは立ち止まって「空を見てみ。」と、指をさした。俺は言われた通り空を見るために顔をぐいっとあげると、住宅街では見れない満点の星空が俺たちを歓迎した。
「わお。」
そう、短く感嘆な息を漏らす。父さんは方位磁針を持って、「あっちの方かな。」と独り言を呟きながら星を探している。俺にはさっぱり何をしているのか分からない。
「あっちの空に明るい星があるだろ。これが春を代表する星『アークトゥルス』『スピカ』『レグルス』。これを三つ繋ぐと春の大三角になる。」
父さんは右手に星まで届く緑色の光線を出すレーザーポインターで指す。それらの星はとても目立って空を輝かせている。三つの一等星を中心として「うしかい座」「おとめ座」「しし座
」の説明を聴く。俺は適当に「へぇ~。」だとか「ほぉ~。」とだとか反応しながら父さんの話を真面目に聴いた。
「うしかい座のアークトゥルス(一等星の名前)、おとめ座のスピカ(星の名前)をこの星に結ぶ大きなカーブは『春の大曲線』と言われていて、これはおおぐま座の尻尾の端。で、こっちはおおぐま座のα座のポラリスと呼ばれる星とこの緑のβ座の二等星があって、こう結ぶとおおぐま座の尻尾になる。」
緑色の光線を出すレーザーポインターでα座とβ座を下に繋いで、左に一つ星を繋いで、上の星に繋ぐ、そして左に三つ繋いで尻尾の先から先まで形を現した。
「このおおぐま座の尻尾は別名...」
―――・・・
「おおぐま座の尻尾の別名は『ほくとしちせい』。」
そうだ、北斗七星だ。そして二つ目の7個の丸に線で繋がれたものには線で囲まれていて、左の縦線と下の横線には数字が書き込まれていて、最後に「フ」。とヒントのようなものが既に嵌められている。これはきっと「オレセングラフ」だ。確かめるために字数を指で数えてみると7文字になる。
「遥架、これは『北斗七星』で、こっちは『折れ線グラフ』だ。」
「あ、本当だ!それじゃ、①と②に入るのは『し』と『み』つまり、『親身』ね!」
問題を解けたことに多大な達成感を感じた俺は、父さんとの会話と星を見に連れて行ってくれたことに数年の時を経て初めて感謝した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます