第11話

「図書室でもう少し探してから言ってもいいかな?」

「遥架が残るんだったら俺も一緒に探す。」


第1問目をようやくクリアした後、次の問題を探すべく図書室から出ようとした時。一緒に探すと言った俺に遥架は横に首を振って拒否した。


「ううん。手分けして探した方が早いわ。顕斗はカンパと一緒に別の場所を探して来て。見つけたら連絡してくれればすぐ行くから。」


―――・・・


 宙をひらひらと飛ぶ紫色の服を来たカンパ。その隣を歩く俺は隠しきれない苛立ちからか床を蹴りながら廊下を歩く。C階段と呼ばれる中央にある階段を一つ上り、また一つ上って、なんとなく渡り廊下を歩くと、自分の腰辺りから頭上までの半円になっている窓ガラスが見える。その窓から差し込む陽の光は、ここに来てからずっと夕焼けのようなオレンジ色。この世界では昼夜も季節もないのだと言うことがこの外の様子でわかる。この奇妙な沈黙を破ってカンパは言った。


「そんなに遥架ちゃんと一緒にいたかった?」


少し鬱陶しく思う程、左右上下にからかうように飛ぶカンパを見てムスッとした頬がより固まるのを感じ、「このクソ寒波。」とボソッと低い声で悪態をついた。カンパは友達という親しい間柄では無いので心の中で出て来た言葉を表に出さずに飲み込む。数秒間沈黙になった末に、心に留めきれなくなった気持ちをポツリと呟いた。


「遥架は中々自分のことを話さないから。」


顕斗の弱弱しい声を聴いたカンパは愉快そうに笑った。


「意地悪したね。ごめん、ごめん。僕は顕斗くんにとって遥架ちゃんの存在がどうなのか知ってる。今は何にモヤモヤした感情を持っているのかも。」


俺は「俺の何を知ってるんだ。」と不機嫌な感情を隠さずに眉を寄せ、カンパは「ブッサイクだなぁ〜。」と可笑しそうに無邪気な顔でケラケラ笑った。


―――・・・


 問題を見つけるにはまずは問題の種を見つけなくてはならない。図書室から出たときにカンパは「ほい。」と、方位磁針のようなものを魔法のようにポンッと俺の胸の前に出して手に収めた。首にかけられるチェーンがついた黒縁の方位磁針。中には赤い色の針が1つ、透明な蓋をした容器の中で揺れ動いている。


「それは磁石じゃなくて問題の種に反応する方位磁針だよ。それ以外は普通の方位磁針と変わらない。」


方位磁針の針は俺たちが3階でうろうろしていた時に数秒間ぐるぐる回り始めてある方向にぴたりと止まった。その方向はA階段と呼ばれる東校舎にある階段。方位磁針の針の方向の通りに進んでいくと、1番上の階へ辿り着いた。そこは1年生フロアである見慣れたピンクの壁が目に焼き付く。問題の種と呼ばれる四葉の形をした羽を持つ蝶を方位磁針を頼りに探す。すると、灰色のコンクリートの壁に止まって羽をパタパタさせているのを見つけた。


―――・・・


「さぁ、第2問だよぉ〜。この問題を解いた言葉はこの便箋の一番上にあるの空欄に当てはまる。」


無事に遥架も合流して問題の種から問題が現れたので、私達はカンパの謎解き開始の合図に合わせて壁に貼られた問題の内容を読んだ。


『問題:丸に当てはまる言葉を当てはめて、番号に嵌ったものを読め。』


丸というのは、7個の丸が線で結ばれているのが2つ。それも、一直線に結ばれているのではなく、意味がありそうな形をしている。番号というのは、7個の丸が線で結ばれているものの真ん中に①と②が書かれていた。模式的に描くと、


『1つ目:〇(ほ)〇〇①〇〇(せ)〇(い)

 2つ目:〇〇〇②〇〇〇(ふ)』


というように、ところどころにヒントなのかひらがなが既に埋まっている場所もあって、これらの丸が線でカクカクさせて描かれている。そして、またその下には


『①②み』


と、この数字に文字を入れるとクイズの答えになるであろうものが書かれていた。問題の内容を一通り目を通すと、不意に顕斗は


「ここだけ青い。」


と、指で一つ目の7個の丸で繋がれたものを囲みながら呟いた。顕斗が指で囲んだ場所だけ濃い青になっている。色変わっているのには意味があるのだろうか。それともただの考えすぎか。でも、意味もなく用紙を青にしたりするのだろうか。顕斗は私の横で腕組みをして問題を真剣な眼差しでにらめっこをしている。その姿は、2年ほど使い古した黒いフリースさえもかっこよく見えるほどに。


「やっぱり、この丸が一直線に並んでないのに意味があるような気がするんだよな。」


私は「なるほど。」と、顎に手を当てて曲がった丸を繋ぐ線の意味を考える。でも、私には何がなんだがさっぱりだった。背景は青、そして歪に丸で繋いだ曲がった線。私には中々閃くできないので、ヒントを出そうかと思った矢先、顕斗が口を開いた。


「もしかしたらこれ...。」

「何か分かったの?」


膨らむ期待を表に出さないように我慢しながら気持ち声を抑えて訊くと、顕斗は「でも違うかもしれない。」と一歩後ろに身を引いた。

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