第2章 遥架とお母さんからの影響

第10話

 顕斗は私に訊いた。


「遥架はどうして問題があるページを見つけられたんだ?」


私はその問いに「それはね。」に続けて答えた。先ほど見つけた問題の種が挟まっている本のページ。その表紙には植物と書かれていた。お母さんがお花が大好きなのだ。


「私のページを探せばいいんじゃないかな、て思ったの。それならお母さんに関して探せばすぐに出てくるかな、て。」


―――・・・


 お母さんはお花が好き。「このお花の花言葉は?」て、訊けばほぼ全ての花言葉が出てくるほどだった。お母さんは春になるとよく私に外に連れて川辺にある桜並木を眺めながら歩かせた。

 幼少期の頃だった。


「桜の花言葉は何?」

「『精神美』『優美な女性』『純潔』よ。」


今年も同じような春がやってきて、お母さんと散歩してるときに訊いた。花言葉なんて訊いても覚えられてなかったけど。お母さんはと特に桜が好きだった。そして必ず毎年言うことがあった。


「桜はね。散るからこそ、美しいのよ。」


と。それだけは覚えている。家の前にも桜が植えられていた。夏になるとよく顕斗がその青々とした桜の木に登って遊んでいたのをよく覚えている。


「遥架もこっちに来いよー!」

「危ないじゃない!早く下りてきてよ!枝が折れたらどうするのよ。ママの大事な桜の木よ!」


顕斗は小さいころから活発で、運動神経がよくこうやってよく動いて走り回って遊んでいた。木登りなんてお得意様。まだ小さくて軽い体をヒョイッと高いとこまで持ち上げて木の枝に引っ付いていた。それでも、どんなに慣れていたとしても「猿も木から落ちる」ということわざがある。


「顕斗!」


顕斗は足を滑らせて転落寸前だった。お母さんがぎりぎりで受け止めたので怪我をせずに済んだのだ。

 その後の顕斗はお父さんにたんまり叱られて可哀そうだった。でも、お母さんは微笑んだままで叱りはしなかった。私はあのときにこう訊いた。


「どうしてママは怒らないの?」


て。するとお母さんは。


「お父さんが鬼の形相で叱ってくれてるからこれ以上は可哀そうでしょ。それに、あの桜の種類が何か知ってる?」


私は少し考えた後「ううん。」と首を横に振った。お母さんは私と同じ目線になるようにしてしゃがんだ。


「あの桜はね。八重桜て、言うの。」

「やえざくら?」


小さな声で訊き返す。そしていつものように問う。


「花言葉は何?」


いつもなら『精神美』『優美な女性』『純潔』と答えるはずだ。でも、今回は違った。


「『理知に富んだ教育』、『豊かな教養』よ。」


私はあのときは首を傾げたが、もう少し大きくなってから知った。この桜は私達を思って植えた桜の木だったのだということ。それにしては木登りをしているの知っていて何も言わず見守っていたお母さんはマイペースというか、それは親としてどうなのかとか思うが、きっと、顕斗に遊んでほしかったのだろうと今では思う。今では中学になると木が大きくなりすぎて撤去されてしまったけれど、丸太はまだ残っていて、それを見るとよく私は懐かしく思う。マイペースで、おっとりしているお母さんはいつも私たちのことを一番に考えてくれている。そんなお母さんが、私にとってとても大切な存在である。そう思った大事な日だったから、今でも鮮明に思い出すことができるのだ。


―――・・・


「そんなことあったっけ?」


案の定、顕斗は覚えていなかった。ただ、夏に木登りするのが好きだったのは覚えていたらしい。けどその木が家で育てていた木だったということはすっかり記憶から消えていたとのこと。


―――・・・


「顕斗、カンパ。」


 階段を上ると顕斗とカンパの姿が見えたので手を振って自分が来たことを知らせた。

 東校舎の4階にあるのは何クラスもある一年生の教室。見覚えのある階段と階段の途中にある鏡、上に上るといつも開け閉めをしているロッカー、約40人分の机が並ぶのを見て一瞬ここが私達がいつも登校している学校なのだと勘違いしそうになる。


「問題は?」


顕斗は壁にとまっている四葉の形をした羽を細かくパタつかせている蝶を指さす。問題の種を見つけたのだ。


「遥架と俺が揃わないと問題が出てこないんだとさ。」


私はカンパの方を見ると、言い忘れていたと言うように「てへっ」と可愛く片手を頭につけてポーズをとった。


「それじゃあ、早く問題を解こう。」


パタパタと羽を上下させていた蝶は私の言葉を訊き入れたのか図書室で見たのと同じように私達の頭上までひらひらと飛んで行ったかと思うと上から下へ光を照らした。すると、今度は壁に問題用紙が貼られた。

 カンパは謎解きの開始の合図のように誰もいない校舎内に響くほど大きな声で言った。


「さぁ、第2問だよぉ〜。この問題を解いた言葉はこの便箋の一番上にあるの空欄に当てはまる。」

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