第9話
便箋の一番上にある空欄を埋めるべく、一つの問題に挑む私と顕斗。あることに気づいた顕斗は口を開く。
「花なんか当てたとしてもそれがそのままこの空欄に入るとは思えないし。本当にこれってこの虫食い文章と連動してんのか?」
同意を求める目でこちらを見ると、私はコクリッと頷いた。便箋に当てはまるものはお花ではないことは便箋の文章を見れば分かる。問題とにらめっこしていたらまた問題の下に文がでてきた。
『ユリ:純粋
八本のバラ:(あなたの)思いやりや励ましに感謝しています。
ひまわり:(あなた)を思い続けます
ピンクのチューリップ:誠実な愛』
なるほど。選んだお花の花言葉を入れるのか。それが分かってもやはりどんなに考えてもクイズの答えが浮かんでこない。
「カンパ、何かヒントとかない?」
「ヒントを貰うには蝶からの許しが必要だ。問題の片隅にある四葉を人差し指で触って、心の中でこう唱える。『運命に逆らうことなかれ、努力と苦しみに縋りて幸運をつかむ。』てね。」
私は顕斗にヒント貰うか訊くとコクリッと頷いたのでカンパに言われた通りにやってみた。すると、
「『共通点を見つけよ。注目すべきは音階。』音階、て、ドレミファソラシドのことよね?」
私の隣で顕斗が「うーん。」と腕組をして唸るる。
「ドーナツにはド、クレープにはレ、ハチミツにはミ。」
イラストの名前に音階の一つが隠されていることに気が付いて私と顕斗はパッと笑顔を見せあって続けた。
「「ファイルのファ、パソコンのソ、名刺のシ。」」
「足りないのは?」
期待の眼差しで顕斗を見る。
「ラ!」
「答えはズバリ?」
「「バラ!!!」」
つまり、私たちが探し求めていた言葉は『(あなたの)思いやりや励ましに感謝しています。』ということになる。実際、当てはめてみると「私はお母さんの『思いやりや励ましに感謝しています。』」となった。間違いなくこれが答えである。
私達は「やったー!」と顔を綻ばせて喜び合った。
「見て、顕斗。」
問題が再び蝶の形になってひらひらと飛んだ。と思ったら便箋の一番上の空欄の上にとまって姿が消えた。私達は目を見張ると、カンパは淡々と言った。
「問題に正解すると蝶は姿を答えに変えるんだよ。」
と、チョンチョンと小さい手で答えの部分を突く。そしてカンパは小さい体を紙の上に乗せた。
「それじゃ、次行こうか。」
―――・・・
先ほどの本を手に取って問題の種を見つけたページを開く。先ほどの本のタイトルは「植物」そこには菅野遥架と名前が書かれており、問題を解く前には名前だけ書かれてなかった一文が今でははっきりとこう書かれていた。
『私はお母さんの思いやりや励ましに感謝しています。』
と。顕斗とカンパにはもう少しここで問題を探したいと言って、図書室に一人で探させてもらっていた。顕斗と久々に話した今日は、なんていうか...
「楽しい。」
ふと、声に出しすと気恥しくなってバタンッと音を立てて本を閉じた。
それよりも私が探しているのは顕斗の素直な言葉だ。本当は顕斗に探してもらった方がいいのだろうけど、私が内緒にして知りたいのだ。顕斗の本音を。長いこと素っ気なくて冷たい態度を取っていたというのに、どうしてだかいきなり一緒にご飯を食べようと言ったり、この謎解きゲームに付き合うのも半信半疑だったというのにあんなに一生懸命になって一緒に一問目を解いたのだ。よくないとは思っているが、裏があるんじゃないかと思ってしまう。ないとは思うけれど。
家族愛の棚から「スポーツ」というタイトルの本を取り出してありえそうなページを捲ってみるが菅野顕斗という名前は見当たらない。結構「家族愛」という本棚から本を確認したというのに見当たらないともなれば、他の本棚を探すしかなくなる。私は図書室を見渡して、もしかしたら「恋愛!?」とも思ったが、なんとなくないような気がした。となればどこの書棚になるだろうか。
私は「友愛」の書棚を詮索してみることにした。すると、目に飛び込んできた名前があった。クラスメイトである鈴木真弥だ。表紙のタイトルは「相談」。私は中身を見ていいのか一瞬躊躇った。人の本音を見るのはプライベートを覗くことになるのではないだろうか。それでも気になって真弥の一文を読んだ。
『大切な友達の遥架ちゃんが自然と笑えるようになりますように。』
「・・・。」
言葉を失った。気が付けば熱の籠った体の体温が徐々に冷えていく感覚でさえ感じる。
「真弥...。」
真弥の一文は願いであった。それも自分の願いではなく私の。家のことしか考えていなかった自分が急に恥ずかしくなる。こんなにも大切に思ってくれる友達がいるというのに。
しみじみしているところにスマホにメッセージが届いていることに気づいて慌てて見ると顕斗からだった。内容は「東校舎の4階の階段へ来い。」とのことだった。次の問題が見つかったのだ。私は泣きそうになった涙を引っ込めてカンパと顕斗の元へ急ぐのだった。
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