第7話
お母さんを助けるために謎解きゲームをしに来たここは、あらゆる人の素直な言葉を貯蔵する大きな校舎。その名も、『言の葉の校舎』。
「て、どんな場所なの?」
「細かい説明は謎を探しながら話すよ。」
―――・・・
「そんで、
「勝手に漢字にすんな!」
「イテッ」
顕斗は少しからかうとコツッと頭を叩いた。カンパは小さいながら拳はちょっと強いらしいです。本当、なんの茶番をしているのやら。私は横であきれ返るばかりであった。
―――・・・
コンクリートの上をてくてく歩く私と顕斗、そして羽でパタパタ仰いで空中に浮かぶカンパは最初の問題を探しながらカンパからのこの場所の説明を聴いた。問題を探しているといっても正直なところどこへ向かっているのかは疑問だが。どんな条件でどんな場所に出現されるのかは今説明を聴いているところなのだ。
「ここには現実世界の高校の生徒40年分の素直な言葉を貯蔵している倉庫だ。それらの言葉は物になり、建物になり、あらゆる生物になったりと姿を変えて保管されている。」
カンパは地面に指を指したのを見て反射的に私と顕斗は足元を見た。
「この歩いているコンクリートに見えるこれも、大事な大事な素直な言葉の一つ!」
コンクリートが言葉の一つだと聴くと思わず足をバタバタあげたり下げたりして踏まないようにしようとするとカンパは笑った。
「そんなに気に掛けなくていいよぉ~。こういう建物だったりコンクリートの地面はだいぶ初期の生徒たちの素直な言葉なんだ。新しい言葉たちはこの建物内に入りきらなくなって、今や自然を作り出している。それも終わりのない広大な自然を。」
だから現実よりも川が広くて綺麗だったり、木々も多くて虫の音も大きいのだと理解した。楽しそうにカンパの話を聴く私に対して、顕斗は興味なさげに「ふぅ~ん。」と適当に返す。それよりも最初の問題はどこだと不満げな顔でこちらへ訴えてくる。
「俺らはどこへ向かっているんだ?そんな大きなこの現実からかけ離れたような場所でどう見つければいいんだよ。」
溜息混じりに言う顕斗の問いにカンパは淡々と答えた。
「それは後で言うよ。まずは図書室へ行こ。あそこなら一番分かりやすく問題を見つけられるはずさ。」
ということなので、私たちは図書室へ向かった。
―――・・・
産まれた時から独りぼっちじゃなかった。それは奇跡的なことなのだと両親はよく言ったっけ。2卵生の双子の顕斗と遥架。2人一緒じゃないとダメなんだと小さな頃からお互いよく笑いあった。
春になると川の両端にある桜並木を見ながら歩くのが家族の伝統である花見であった。小さい頃の顕斗はお父さんに肩車をよくして貰ってたっけ。私はお母さんと手を繋いで家族4人で他愛のない話をした。
「顕斗と遥架はね。産まれた時からいつも一緒なのよ。お腹にいた時も、寝る時もご飯食べる時も一緒にいるの。」
今よりも若々しいお母さんは、今と変わらない優しい口調でよくこの話をした。それはお父さんも一緒だった。
「一度に2人のパパになれたことにものすごく幸せだと思うよ。そりゃ2人分大変だけどさ。奇跡的に一緒に産まれてきたんだ。2人とも大切な子供達だ。」
てね。そしてまたお母さんはこういうのだ。
「何か辛いことが起きたら、必ず2人で乗り越えるのよ。あなた達にとって、1番の味方は兄弟だ、ていうことを忘れないでね。」
すると私は必ずこう訊くのだ。
「ママとパパは1番の味方じゃないの?」
左手で握るお母さんの手をギュッと握ってしっかり目を見た。するとお母さんは微笑んでこう返すのだ。
「ママとパパはもちろん2人の味方だわ。でもね。ずっと一緒には居られないし、未来に何か起こるかもしれない。でもね。2人はきっと大丈夫よ。お互いにとって1番最初に同じ気持ちだ、ていうことに気が付くわ。何があっても、お互いが大切なんだということがね。」
私と顕斗は顔を見合わせて笑いあった。
「僕達は最強?」
「うん!私達は最強!」
すると、家族4人で声をあげて笑った。これは幼少期から小学生辺りの話。地元に同じ川は今でも何も変わらずに流れてる。私達は何か変わっていないものがあるのだろうか。
―――・・・
私の目の前にはお母さんとお父さんはいない。目の前にいるのは顕斗だ。産まれた時から一緒。それは呪いとも言うべき、魔法の言葉。
『お互いにとって1番最初に同じ気持ちだ、ていうことに気が付くわ。何があっても、お互いが大切なんだということがね。』
ずっと一緒な訳では無い。いつかはバラバラになると、心のどっかでは感ずいていた。けど、
「顕斗、三連休は部活があるんじゃないの?」
「あー、大丈夫。部活は休みだから。」
私はその返答に対して「そか。」と言って隣を隣を歩く。実は無意識の中で繋がってるんじゃないか、て今は期待している。離れていた時期が長くとも、いつかは話し合いたい。お母さんを助けるための謎解きゲームは長い戦いになりそうだ。それでも、お母さんの言った通り2人なら大丈夫だと信じたいと思った。
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