余命一年の僕、きみだけには忘れてほしくないんだ
天雪桃那花(あまゆきもなか)
僕はあと一年の命だと知った
「そう、分かった」
僕は知った。
ここにいられる時間はわずかだということを。
桜の花びらが散る……。
来年の桜が咲く頃には、僕はもうきみのとなりにはいないんだ。
🌸🌸
「
「ごめん、
「熱? あっ、熱い。風邪かなあ? もーお、また何時間も星を眺めてたんじゃないの? だから夜空を見るのもたいがいにしなさいって言ってるのに」
僕のおでこにそっと触れる凛音のひんやりとした手が気持ちいい。
凛音のさらさらな長い髪が僕のほほにかかってくすぐったい。
「凛音は学校、……行って。僕は休むから」
「うーん、心配だからなあ。そうだ、病院に付き添ってあげるから一緒に行こう?」
「
「蒼真を家に一人で置き去りにして生徒会長としてどうなのかなって感じ。生徒一人を
僕はもう限界だった。
凛音の体をからめとるように腕を伸ばして引き寄せた。
ベッドに横たわる僕が抱きしめると、二人で布団の上でじっとしていた。
「好きで義妹になったんじゃないのに。……蒼真のこと、ずっとずっと好きだったから告白してくれて嬉しかった」
「血の繋がりはないんだもの。付き合ったってかまわないでしょ? 凛音と僕が愛し合ってることはいつか父さんと
「むう〜。ずるい、そんな顔」
「そんな顔?」
腕のなかの凛音が僕を見つめてくる。
こんな可愛い凛音を僕だけのものにしたかったから、告白して良かったなって本当に思う。
「泣きそうで哀しそうで、なのにカッコいい顔」
「なんか複雑な表情をしてんですかね? 僕は」
「そっ。色々いつも思い悩んで、難しいこと考えてそうな。蒼真は頭良いもんね」
「凛音だって賢いじゃない。新学期の生徒会の決意表明の英語のスピーチ原稿読んだよ」
「ねえねえ、どうだった?」
「とっても良かったよ」
「わーい。学年トップの成績の蒼真に褒められると素直に嬉しい」
「勉強は好きなんだけどね。もうちょっと体を鍛えないとな。ひ弱なカレシですいません」
「体が弱いのは仕方ないよ、持病があるんだもの。蒼真はハンデに負けずに頑張って偉いなって思うの。……私、やっぱり学校行く。蒼真のためにしっかりノートとってくるよ。授業が終わったら走って帰って来るから!」
「危ないから慌てて帰ってこないでいいよ。こんなんただの微熱だから」
「微熱って……。けっこう熱いよ? 今、おでこ冷やすの取ってくるから」
「あとでいい。凛音をもうちょっとだけ摂取させて。……でも風邪がうつっちゃうからダメか」
「大丈〜夫! 私のは頑丈に出来てるから。めったに風邪とかならないもん。ぎゅってしてあげる」
凛音の体温を感じる。
僕と凛音の心臓の鼓動を感じる。
どきどき、早くなる。
喘息とかあるし心臓の拍動が人より弱いせいで、僕は小さい頃から病院に入退院を繰り返していた。
僕は夢をよく見た。
幼馴染みの凛音が僕を置いて行っちゃう夢を見る。
小学校の帰り道に手を繋いだ僕と凛音は桜の満開な丘に立っていた。
凛音は野良の子犬を見つけた。
この頃の僕は凛音よりかけっこが遅かった。すぐに咳き込むから、走るのは好きじゃなかった。
空が飛べたら良いのに――。
凛音をお姫様抱っこしてスーパーマンみたいに力強く空を自由自在に飛べたら、きっと凛音は喜んでくれる。
僕はぜえぜえ言いながら、車の通りが多い道の方に行ってしまう子犬を追いかける凛音を追いかけた。
「凛音、凛音っ! だめだ、そっちに行っちゃダメだあぁ――っ!」
道路に飛び出した子犬を拾い上げた凛音に猛スピードで迫る大型のバイクが見えた。
間に合わない!
やだっ!
やだっ! 凛音をそっち側に連れてかないで!
僕の魂をあげるから、僕の凛音を助けてっ、神様。
白い羽根の生えた僕は空を飛んでいた。
凛音と子犬を抱いて、僕は空を飛んだんだ。
『約束、忘れないで。きみはもう力を使い果たしたんだ』
声がした。
あの声の主は今朝、僕に会いに来た。
知ってる。
僕は天使だから。
――繰り返し見る夢は記憶、で出来てる。
約束を忘れないから、僕は夢を見てる。
凛音の命を救うために僕は神様と約束したんだ。
天使になって、僕は地上を離れる。
あと一年の寿命が、終わるまで。
僕は凛音といたかったから、神様はプレゼントをくれた。
残された時間、一緒にいられるように義理の兄妹にしてくれたんだ。
僕は凛音が大好きだから。
奇跡は起こしたら、責任をとらなくちゃならないんだって神様が言った。
『君は天使になるんだ。望んだとおり、君の寿命が彼女の寿命になったのだから』
凛音とお別れまであと一年。
どうか……僕を忘れないで凛音。
愛した記憶、いっぱい笑った思い出。
初めてのキス……。
きみがずっとずっと先に僕のこれから行く世界に来たら、きっとすぐに見つけ出すよ。
どうか、凛音。
僕ときみとの思い出を忘れないで。
でも。
僕がいなくなっても。
どうか幸せになって、凛音。
さよならは僕からは言わない。
来年の今ごろは、思い出の桜が淡く美しく咲くのだろう。
いつかのように。
毎年毎年、春がくるたびに二人で見たあの桜の樹。
荘厳にピンク色に染まる桜が満開になって、いたずらな風が花びらを散らすのだろう。
――去年の春、花吹雪のなかの凛音がハッとするほどとても綺麗だったよ。
僕の知らない凛音みたいだった。
ねっ、凛音……、どうか笑って。
僕を忘れないで。
……ううん、僕を忘れてくれていいんだ。
きみが幸せになってくれるなら、僕は嬉しいから。
了
余命一年の僕、きみだけには忘れてほしくないんだ 天雪桃那花(あまゆきもなか) @MOMOMOCHIHARE
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