聖女候補は婚約破棄調査員です!

豆ははこ

第1話

「此度の学内芸術鑑賞会成功おめでとう! 成功を祝うパーティー開始の挨拶時に済まないが、僕こと王太子は婚約者たる公爵令嬢、貴方との婚約を破棄する!理由はこちらに居る留学生、聖女候補殿への度重なる陰湿な行為! 婚約者たる僕への思い故としても愚行の極み! である!」


 この国は文化芸術に深い伝統を持つ国として知られている。その国の王太子殿下が国立学院の芸術鑑賞会成功を祝うパーティーで唱えた冒頭の発言に、周囲は騒然とする。


 王太子がパーティーに伴ったのは親交のある国からの留学生。将来聖女様として顕現される可能性を持つ存在、聖女候補。

 優秀な婚約者がおられる王太子殿下と婚約者はいないが親しき友人、つまりは王太子とそれから自身の親の威光で威張り散らすと悪評が高い騎士団団長令息、魔力の大小で人を差別しがちな癖に真に内面外面共に優秀な宰相閣下のご令嬢にして王太子殿下のご婚約者でもある公爵令嬢を悪し様に言うと女性陣から毛嫌いされている為に婚約者は候補すらいない魔法庁長官令息という三名と親しくしていると噂がある留学生だ。

 だが、聖女候補になり得る聖魔力保持者が少ないのがこの国なので、留学生とは言え聖女候補に対する敬意の為と言う事ならば、と好意的に考える向きも一定数は存在していた。


 だが、

『やはりな……』というのが周囲の反応。

 元々この王太子、婚約者がいる癖に聖女候補が留学される以前からも他の女性に対して気安い、チャラい、バカ、と碌でもなかったのだ。 

 顔だけ王太子、と陰で言われているのも知っていて、

「この僕が美しいからだな!」と言う程の厚顔無恥ぶり。

 婚約者たる公爵令嬢が

「婚約者がいる子女に対して礼節をお持ちになって下さいませ」

 と都度諫めていらした為に実害は無かったが、ついに実害は生じた。

 ……しかも、公爵令嬢への婚約破棄宣言と言う最悪の形で。


「婚約破棄。それが、婚約者たるわたくしを学内のパーティーに同伴なさらなかった理由に存じますか?」


 そう、公爵令嬢は宰相閣下たる父君を伴われてこの会場にいらしていた。

 この国きってのイケオジ、奥方はダントツ美熟女の最愛であられるご令嬢は当然の事ながらお美しい。しかも、魔力知力体力と性格も最高。

 そんな訳で、むしろ顔だけ王太子と並ばれるよりは遥かに眼福、とご令嬢と宰相閣下のファンの学院生達は両手放しで喜んでいた位だ。

 既にイケオジ宰相閣下は愛娘をその背に庇われている。

 魔法障壁も全開だ。

 王太子が乱暴に愛娘に触れようとした為に、障壁が作動してしまった場合も、被害者は王太子とその腰巾着だけになる筈。


『……愚かだ。実に。だから国王に止めろふざけんな、と言ったのに……。国王が「宰相君の娘ちゃんにお義父上って呼ばれたいの! 王妃もお義母上って呼ばれたいわって! お願いします!」……と、泣いてすがって頼まれたから仕方なく、本当に、し、か、た、な、く! 婚約させてやったのに……。このスカ王太子が!……あ、この件について私が斯様な見解を示すことは国王も認めておられるし公文書にて委細沙汰無しと記されているので、もしこの独白が聞こえてしまった者がいても心配無用だ。料理でも飲み物でも歓談でも楽しみなさい。無礼講だ。宰相、そして公爵家当主として許可する』

 この様に、もしもの時にはあの顔だけスカ王太子とバカ連中を魔法で攻撃してやろうか、と魔力を溜めていた公爵令嬢のご友人達、所謂高魔力保持者への配慮まで示されて念話で独白をしていらした。


 ほっ、とする一部の高魔力保持者達はさっさと飲食を開始している。それに倣い始める者も居た。

 もう、あのバカ達の茶番劇に付き合わなくても良いのだ! と安心する者も多数。

 良かった良かった、公爵令嬢は顔だけカス王太子に断罪されても大丈夫……万事上手く行くのだな、とばかりに。


 そんな事とはつゆ知らず、王太子はノリノリ。

「そうだ! ついでに宰相も恐れおののけ! 後悔するなら娘の悪辣さにだ!」

『はい、×2つ』


「……誰が、かは置きまして、後悔はするかも知れませんな……」

 イケボで呟いたイケオジ宰相閣下が、更に、

「とっとと締めるかこのぼけ共を……」

 と言い掛けたのを、公爵令嬢が美しい仕草で止められた。


「王太子殿下、宰相閣下の管轄機関ないしは法務庁への婚約破棄申請はなされましたか? また、此度の殿下とわたくしとの婚約は王命に存じます。破棄は言語道断、解消に際しましても解消に至る確たる証拠とそれぞれの家の一名以上の直筆署名を二家分添えましたものを我が父、宰相閣下の管轄機関又は法務庁へ提出後、指定された書式の公印付の公正証書をもって申請、両家の承諾をもって受け入れられると、公文書に定められてございますが」

『はい、ヨシ! +1つ』


「そんなもの、どうとでもなる! 僕は王太子だぞ?」

『はい、×2つ』


「その様な回りくどい事を申すのが確たる証拠だ! 尻尾を出したな女狐めが! 聖女候補への度重なるいじめ! 許しがたし!」

「聖女候補様とは授業でご一緒しました事がございます。聖教会が定められました教義に関して共に話し合いを行い、聖魔力に関しての考察を魔力水の精製を通じて行いました。たいへんに有意義な討論並びに考察、精製活動でございましたが、授業以外ではお会いした事もございません。まさか激しき討論、それから考察等を虐め、と仰いますの?」


 ……暗に、上位クラスに在籍する公爵令嬢と特別枠で上位クラスの受講資格を得ている聖女候補の学問はクラスが異なる王太子殿下達貴方々には分からないでしょうね、という嫌味(ただの事実!)を不敬と取り、益々激高する王太子。

「……煩い! 貴重な時間を割いて僕が声を掛けたら、聖女候補は僕と親しくする事は出来ないと! 訊いたら、婚約者が居る方と1対1とは有り得ない! と! これすなわちお前が聖女候補殿に辛く当たっている動かぬ証拠!」


 うわ、やっぱりバカだこいつ……。


 会場がしん、とする中で、聖女候補が一歩、前に進み出た。


「はい、×1つ。……5つ揃いました。婚約破棄、決定です。……婚約破棄、この聖女候補が承りましてございます。公爵令嬢様への誹謗中傷は全てこの破棄を認定しました聖教会へのそれとなりますので、皆様、よーくお見知りおきを。ちなみに罰則はございませんが国内外のありとあらゆる聖教会関連建築物や行事からはご自身並びにご血縁が全て弾かれますので、それでも宜しければご自由に。……以上に存じます、宰相閣下」

「うむ。聖女候補殿、ご協力痛み入る」


 聖女候補の美しい礼と、それに倣う宰相閣下。聖教会関連から弾かれたい人間など、聖教会を尊ぶこの国に存在する筈がない。つまり、それ程の事、という訳だ。

 恐らく×の内容を記した手帳であろう品をしずしずと歩き出した聖女候補が恭しく宰相閣下に手渡した。

 先程から聞こえていた×とか良し、はこれだったのか、と高魔力保持者達は納得した。


「……な、何を? 聖女候補殿、破棄は殿下からだろう? それにその手帳、は?」

 顔もまあ、整っていて、体格は良い。だが如何にも短慮そうな男子が訊く。

 彼は一応騎士団団長令息。あくまで一応、だ。


 宰相閣下の側から動かずに、せいせいしたとばかりに微笑む聖女候補。


「騎士団団長閣下のご令息殿、貴男はこの殿下の愚行を諫めないばかりか、公爵令嬢様に無言の圧力、睨みをきかせておられましたね? その無駄に大きいお体と威圧的な目付きで。騎士団所属騎士でしたら公爵家からの申し入れにより一兵卒への格下げ又は除隊案件です。それに、私に仰いました『次期騎士団団長が確約された俺が殿下と共に貴女を守る!』とはどんな世迷い言でしょう? 貴国の騎士団は世襲ではございませんよね? お父君へはご報告済です。丁寧なお礼のお言葉と共に『万が一、ご令嬢に悪しき行いがあるとしても恥ずべき行為な上に正に罪無きご令嬢に圧力とはこの恥さらし! それに騎士団は世襲制ではないぞボケカスッ! 勘当じゃ! 家には優秀な長女と次男がおるわ! 二度と家と騎士団には関わるな!』とのお言葉を預かっております。お早くお帰りになった方が。……まあ、ご自宅に入れるかは存じ上げませんが」

「え、え……? 済みません殿下、いきなり持病の癪が……。これは実家の薬以外では治りませぬ故失礼を」

 転がる様に扉に近寄り、勢い良く走り出す騎士団団長令息。何処に持病が? と思う者も多数。

 まあ、静かになったから良いか、という感じ。


「お、おい? あ、じゃあ魔法庁長官令息! お前が何か言ってくれ!」

「ああ、自分が大して上位でもないくせに、こちらのご令息は魔法基礎学、魔法実践学共に首位であられる公爵令嬢を妬まれ、私こと聖女候補に『あの女は魔法や知識ばかり鼻に掛けてかわいげが無い! 君とは段違いだ!』等々罵詈讒謗を私に吹き込みましたね? きちんと全て魔道具にて録音しまして、複製を父君に転送しました所、『お前はその魔法や知識さえご令嬢に勝てないどころか足元にも及ばないだろうがボケッ! かわいげがない? ご婚約者がおられるご令嬢が他の男にかわいげがあってどうするボケボケッ! お前の卒業後が楽しみだな? ライバル庁の長官が魔法薬の実験体を募集していたから推薦しておくぞ! せいぜい魔法の発展に役立て! ああ、副作用で何が起きようと一切文句は言わぬと伝えておるし公文書も渡したからせいぜい励め! 魔法庁にはお前とは比べものにならないくらいの優秀で性格も良い粒揃いな人材が豊富じゃから気にするな! 家の養子候補もたくさん居るわ!』と伝えて頂きたいと。……良かったですね、あと半年で卒業ですが、既に進路が決定ですよ!」

「嘘……。あ、だからやたらに聖女候補……殿は僕に家柄と名前を繰り返させたのか……。僕が家柄や名前を話せば僕が言った確実な証拠になるから……。殿下、済みませんが僕も、実家に急用が……失礼します!」

 令息は魔力が足りず転移陣は使えないのですごすごとしつつも早足移動。


「転移陣、使えないのか? だったらそもそもあいつ、公爵令嬢と比べてどころか、俺達上位クラスの学院生達よりも魔力、少ないよな……?」と、高魔力保持者達、所謂公爵令嬢のクラスメート達にバレてしまった隠したかった事実。

 まあ、今更、だ。もっともっと恥ずかしいのが現状とそしてこれから、なのだから。


「せ、聖女候補殿、何故こんなやり方を? 君と僕との仲ならばきちんと話し合いをしたら良かっただろう……?」

「それは意見が通る方の言い分ですよね? 貴方は話し合いで他者の意見を聞く耳などは持ってはいないでしょう? ですから公爵令嬢様はお困りの皆さんの為に貴国の聖教会を通じて聖教会の本部が存在する我が国へご依頼をなされたのですよ。ご依頼をなされたのは国王陛下の許諾を得られた宰相閣下御自らですが。『殿下はすぐに婚約者があられる女子学院生にお声を掛けられる、婚約者が居る身、王太子として的確とは言えぬ為調査を願います、と』ですからこの聖女候補がその様な不埒な感情をお持ちの方にだけ好みの異性に見える認識阻害魔法を掛けて対応させて頂きました。勿論貴国の王家の認証もございます故これ即ち聖教会本部への正式なご依頼です。公爵令嬢様はお母君と共にこちらの国の聖教会に熱心に通われ、ご実家は寄与をたくさんしていらっしゃいます。王家の皆様方も貴方様以外の皆様方はご自身又は他の形で様々に……、よって貴国の聖教会から我が国への聖教会への依頼を迅速に対応出来たのですよ。……で、貴方は何かをされました?」


「いや、王家はきちんと……。あれ、聖女候補、君……あれ、もっと何だか儚げで愛くるしくて……みたいな感じでは……」


 孤立無援、しどろもどろの王太子。

 それでも聖女候補の外見の変化には気付いたらしい。

「はっきりと自分よりも劣る頭脳で男にしな垂れかかりそうな守ってあげたい容姿の女子ではなかったのか! と言えば良いでしょう? 因みにそう見えていらしたのは貴方達だけですよ。これ程までに愚かな存在が三人だったのは貴国にとっては不幸中の幸いですね! いえ、幸い中の不幸ですか?」


「その通り!」

「いやー、あの理知的な聖女候補殿の事をあの守ってやりたい感じが……とか言ってる三馬鹿、面白かったよな!」

「本当に! 聖女候補様とは手すら繋いでいないのに、あの方達ったら、お互いの手を握りあって、君の手は何て柔らかいんだ……とか、お馬鹿、いえ、滑稽でしたわ!」

「その間、公爵令嬢様と聖女候補様は学問を共にしておられたのでしょう? お美しい公爵令嬢様と理知的な聖女候補様……厚い友情でしたわ!」 

 そう、それは聖女候補(偽)。馬鹿っぽいけど愛嬌とスタイル抜群、自分の言う事全肯定、それは顔だけ王太子と仲間達の理想の女子。奴等は正に三馬鹿だった。


「いや、そんな! じゃあ君は僕達を騙したのか?」

 言うに事欠いて、とは正にこれ、な王太子。

「ですから、ご自身の婚約者を蔑ろにして学業に励むべき国立学院でお山の大将、なかんずく、女子学院生には声を掛ける。貴方は最悪以外の何者なのですか? 教えて下さい。因みに聖魔法の認識阻害魔法、公爵令嬢様は一目で視認されてましたよ?」

「いや、僕は王太子だから、学院の間だけは自由を……」


「……貴方は何を? 何者? と先程から申し上げておりますが。公爵令嬢様は月に1度はかならず領地を慰問、また、領地以外にも孤児院、医療院、様々な場所に出掛けられ、ご寄付のみならず人的支援の陣頭指揮を執られた事も多々ございます。自由を、と言うのならば貴方も学院生の間は自由に奉仕活動や学問を行うべきでしたでしょう?」


「そうです、我が領地の領民から感謝の声が! 小麦栽培の為に土壌に魔法付与を頂きました!」

「うちの領地はワインの不作時に肥料や人員を派遣して頂きました!」

 出て来ますねえ、他にも色々。公爵令嬢万歳! が。

 うんうん、家の娘、最高! と宰相閣下はにこにこ顔。イケオジスマイルに子女達も歓喜。


「それは、王家に嫁ぐ者としての義務……」

「はい、でました義務! では、貴方の果たすべき義務は? 矛盾矛盾ー! また×が増えました! ですから、申し上げましたでしょう? この破棄は王家からの認証済、と。此度の件は聖教会本部に一任されているのですよ。愚かの極み、と判断した場合は公爵家からの婚約破棄並びに王太子としての継承順位入れ替えは当然、王太子としての権利剥奪もある、と。一代爵位授与……は無理そうですね」

 宰相閣下はそりゃそうだ、というお顔。


 平民落ち、と言うとこの場に居る数少ない優秀な平民の学生にも失礼だ。だから宣言はされない。


 そもそも、卒業パーティー等ではなく、一応学内の、と言える会場で婚約破棄宣言をさせたのも、聖女候補なのだ。勿論、宰相閣下とばっちり結託した上で。

 もしも婚約破棄宣言の時間や場所を王太子に任せていたら、ド派手に外国からの賓客などがいらっしゃる集いでぶちかまされた可能性もあった。絶対。


「……お待たせいたしました、聖女候補殿。兄上、貴男が王位に就かれた方が都合が良い者達への対処は手筈を整えて下さっていらした宰相閣下のご尽力で、全て終えております。……これでやっと、貴女に僕を見て頂けます」

 突然中に現れたのは転移陣。


 そこから降り立つ美少年。会場がざわめく。

 ……第二王子殿下だ!


 第二王子殿下は有名人。外国の学舎を飛び級され、既に学院上位クラスの卒業資格を有しておられる方。ただ、まだ御年8歳であられるのだ。因みに顔だけとは10歳差。


「皆さん、愚兄が失礼申し上げました。とくに宰相閣下、聖女候補様、公爵令嬢殿には。 そして婚約破棄、おめでとうございます!こちらには状態保存魔法を掛けてございます。……そして、僕が愚兄の代わりに、などとは申しません。僕が貴女のお側に立てる存在か否か、ご判断を頂く機会をお与え下さいませ!」

 自らの魔力で作られた美しい氷の薔薇の花束を取り出す殿下。

 薄い魔法付与済の包みで守られているので、その冷たさは決して伝わらない。


「良し!ですよ、第二王子殿下!」

 聖女候補は拍手。

 つられた周囲も、拍手喝采。


「年齢だけが理由でしたら、僕は永遠に貴女を愛すると誓います。婚約者、とは申しません。候補にして頂き、これからの僕を見ては頂けませんか?」

「え、あ、は、はい……わたしも、殿下の聖魔法の発現の可能性に関する論文の文脈の美しさ、とても素晴らしいと……」

「ありがとうございます! あれは地味だが良い、と博士達には評価が高かったのですがあまり表には出していなかった論文なのです! 嬉しいです!」


「うむ。殿下はそこなとは比べものにはならぬからな。年齢差等些末な事だ。第二王子殿下、娘を宜しくお願い申し上げます。但し、10年後、娘の年齢を理由に……等がありましたら、お覚悟は宜しいでしょうな?」

「あれが以前の婚約者ですから、ご不安は当然の事です! あらゆる可能性を全て公文書に記しまして全てに署名捺印申し上げます! 万が一の際はどんな厳罰でも構いません! 嘗ての婚約が結ばれた時、僕はまだこの世に存在すらしていなかった! 年若いこの身を悔いるばかりだった今までを思えば、何でも出来ます!」


「宜しい! 良く仰いました! 妻も喜びますよ。私も妻もあと数年早く殿下がお生まれになっていたら、と何度悔し涙を流した事か……。殿下を義息子と呼べます日が楽しみです。国王夫妻も娘を義娘に出来るのだから、文句などないでしょう!」

「お、お父様……」

「はい、決まり。不当な年齢差は×ですけど、これは有りまくりの有り! しかも今回は最初から破棄権付きです。良かったですね!……でも、まあそうはならなそうですね!」


「あ、あの、皆……僕は……」

 哀れ、元王太子。既にあれ扱い。


「失礼! 元王太子を捕縛に参りました! 元騎士団団長令息と元魔法局局長令息も元ご実家からのご協力により、捕縛済みです!」


「よく来てくれたな。……では」


 宰相閣下の鮮やかな捕縛魔法。騎士団の精鋭が手にしていた縄があっという間に元王太子を荷物用の縛り方でキツキツに締め上げた。

「ご協力、感謝申し上げます!」

「はい、万歳! パーティーを邪魔された生徒さん達へのフォローは第二王子殿下……現王太子殿下と宰相閣下にお任せしますね! では、私は自分の国に戻ります!」

 きらきらと輝く聖魔力。 

 ……聖女候補の転移陣だ。


「お待ちになって、聖女候補様! このご恩は……」

 慌てて飛び出す公爵令嬢。常ではあり得ぬ行動だがこの場では咎める者はいない。


「そのお気持ちは貴女の側の聖教会に! もし、本気で会いたいと思って下さるならば、我が国に是非いらして下さい! もしかしたらまた私も会いに伺うかも知れませんが! それに、貴女様には聖魔力現出の可能性がございます! 聖魔法水の性質分析を共に行いましたでしょう? その際に聖魔力の片鱗を感じましたわ!」

 おお、公爵令嬢に! 素晴らしい! めでたい! と万々歳の中。


「う、嘘だ……。第二王子に勝つには貴重な聖女候補を射止めるのが一番だと、大臣が……」


 キツキツに縛られてて良く話せるな、な元王太子が言う。

「その大臣は第一王子を王位に就かせた暁にはその功績をもって重用され、いずれはこの国を牛耳ろうとしていたみたいですよ。優秀な公爵令嬢よりも色々忙しそうな聖女候補が王妃になってくれた方が大臣とその仲間には都合が良かったみたいですね。因みに既に大臣以下関係者は捕縛済み。貴男は廃嫡の可能性も視野に入れて王宮へいらして下さい。廃嫡だけで済めば良いですが。どうせ素直には行かないでしょう? 騎士団が捕縛に向かってます。……と伝える筈だったんですけど進みがもの凄く早かったですね、王太子殿下?」


 転移陣の維持はそのままに、聖女候補が訊くと。

「ええ、その通りです、聖女候補殿。敵対国への元第一王子即位後の青写真を渡そうとしておりました所を捕縛出来ましたのは、貴女様が派遣して下さった調査官警護担当の皆様のお陰です。では騎士団の精鋭諸君、頼みます!」

「はい、王太子殿下! 失礼申し上げます!」


「……王太子殿下……あいつが……」

 さすがに黙って打ちひしがれた元王太子。


 やっと、やっと! 己の立場を自覚した?  かな?


「はい、これにて完了! 誰が呼んだか、聖女候補の別名、婚約破棄調査員。お困りの際は聖教会へ。お呼びとあらば、即見参!……それでは皆様、ご機嫌よう、またお会い出来るその日まで!」


 ありがとうございます! 素敵! 万歳! 


 そんな声の中、転移陣と聖女候補は消えていった。


 ……10年後、美しい王太子殿下と、その殿下と並び称されるお美しさ、年令などは者ともしない、お似合いな年上の聖魔力保持者でもあられるご婚約者様の結婚式が盛大に執り行われました。


 お二人は恩人として、ある聖女候補を最上位の招待客としてお式に呼ばれた、と専らの噂でございます。

 その方が式への乱入を目論んでいた自称騎士団団長令息と自称魔法局局長令息をふん縛って「お土産です」とお渡しになられたとか。


 ああ、元王太子殿下とやらは聖女候補のお国で真面目に働いている……らしいですよ? 

 ……まあ、噂に過ぎませんが。


 それでも、まあ、めでたし、めでたし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

聖女候補は婚約破棄調査員です! 豆ははこ @mahako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ