第2話 お兄ちゃんのこと大好きだもん

 俺は気になって花歩を追いかけた。


「本当に本当に、花歩なんだよな……?」

「どうしたの、お兄ちゃん。わたしは、わたしだよ」


 健康な肌。目に隈もないし、体つきだって今までとは違う。これはそう……五年前以上の花歩だ。あの頃はまだ元気で病弱ではなかった。

 病気になったのは三年前だ。


「そ、そっか。俺は悪い夢でも見ていたのかな」

「寝惚けていたんじゃないの~」



 あははと笑う花歩は、今度こそ自分の部屋へ戻った。


 ……花歩があんな明るいだなんて。俺は本当に悪夢でも見ていたのか?


 あの時、病院で左手首を反時計回り・・・・・にしたら、急に視界がグニャグニャとなって、眩暈がして、気持ち悪くなって……うっ。


 思い出したら、また吐き気が。



 頭を押さえていると、ポケットから振動がした。……なんだ、スマホ?


 取り出すと、それは型式の古いスマホだった。



 嘘だろ……。これって俺が五年前に使っていた“ザンフォン”じゃないか。ザンフォンは、2015年頃に発売されたモデル。

 俺が持っていたはずのスマホは“ピクセルフォン”だ。なぜ……?


 とにかく、俺はスマホの画面をタップしてみた。


 すると、そこには――。



『お前の左手にはタイムマシンが宿った。その力で未来を変えろ。発動条件は反時計回りに左手首を動かせば過去に、時計回りなら未来へ行ける。現在に戻りたいのなら、両手を同時に動かせ。以上だ』



 そのメッセージは十秒足らずで消滅した。



 な、なんだったんだ…………今の。

 タイムマシンだとか書いてあったが――まさか!


 このスマホが古いのも、花歩が元気なのも……俺が過去に戻ったから? つまり、これはタイムトラベル? もしくはタイムリープか。


 どちらせにせよ、俺は『過去』の時代にいるんだ。


 マジかよ……!


 でもどうして、俺にタイムマシンが?

 誰だ、誰が俺を救ってくれたんだ。


 ……まあいい、この力があれば花歩を幸せにしてやれるんだからな。



 俺は嬉しくて花歩の部屋へノックせず入った。



「花歩、お前を幸せにしたい……!」



 だが、そこには下着姿の花歩が経っていた。

 びっくりした表情でこちらを見つめ、死ぬほど顔を真っ赤にしていた。



「お、お、お兄ちゃん……な、なんで勝手に入ってるの……かな」

「……あ。すまん」


「お兄ちゃんの馬鹿っ」



 泣かれそうになったので、俺は部屋から緊急脱出した。……びっくりしたぁ。

 それにしても、花歩ってあんなに胸が大きいのか。知らなかったぞ。



 * * *



 リビングで気持ちを落ち着かせていると、花歩が姿を現した。


「花歩、さっきは――」

「いいよ、お兄ちゃん。許してあげる」


 ワンピース姿の花歩は、笑顔でそう言った。

 あまりに可愛くて、俺は見惚れてしまった……。すごく可愛い。マジで。



「そ、その……いや、本当にスマン」

「その代わり、どっか出掛けよっか」

「そうだな。いつもの場所へ行くか」

「あ~、いつもの場所だね」



 いつもの場所。

 俺の唯一の友達というか、悪友の家だ。もっと細かく言えば、家の庭にあるコンテナ。そこが溜まり場になっていた。思えば、よく遊んでいたな。


 あそこは“秘密基地”だ。


 悪友は、いつも研究をしている。俺はその手伝いをさせられていた。


「行こう、花歩」

「うん。手を繋いでくれる?」

「分かったよ。俺から絶対に離れるなよ」

「もちろんだよ。お兄ちゃんのこと大好きだもん」



 また可愛い笑顔。

 ……あぁ、良かった。こんな元気な姿を見られて。でも、これは過去の花歩のはず。


 悲惨な未来を変えないと……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

義妹を幸せにしたい 桜井正宗 @hana6hana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ