義妹を幸せにしたい

桜井正宗

第1話 タイムマシン

 また俺は『過去』に飛んだ。

 手の甲にインプラ内蔵ントされた『小型タイムマシン』によって、俺は自由に過去、現在、未来を行き来できた。

 この力がなぜ手に入ったのか……未だに分からない。


 ある日突然、過去に飛んだ。


 それから俺は理解した。


 この力は“タイムマシン”であると――。



 * * *



 義理の妹・花歩かほは、病弱だ。

 昔から体が弱くて外も歩けない程だった。俺が面倒を見るしかなかった。


「……ごめんね、お兄ちゃん」


 今にも潰れそうな声で花歩は謝った。そんな必要ないのに。


「気にするな。もうすぐ金が入る……そしたら、もっと良い暮らしをしよう」

「ほんとに? でも、病院の費用とか」

「そ、それなら大丈夫さ」


 本当は大丈夫じゃない。

 いくつもの場所から借金をして、もうカツカツで……限界だ。闇金業者からも追われている日々。


 明日食うのも困る状況になってきた。


 花歩が悪いわけじゃない。

 全ては……世界の仕組みが悪い。


 どうしてだ。

 どうして、世間はこうも弱者に厳しいんだ。


 俺たちに親はいない。

 一家離散した。


 花歩が頼れるのは俺だけ。

 俺も心の拠り所か花歩だけ。


 だから……だから、どうしても義理を幸せにしたい。



 けれど、花歩の寿命はあと僅か。



 どうすれば…………。

 そんな時だった。



 左手の甲が血で滲んでいた。



「……お兄ちゃん、手をケガしたの?」

「いや、そんなはずはないんだけど」



 まったく身に覚えのないケガだった。いつの間に俺はこんな裂傷を? しかも、不思議と痛みはない。こんなに裂けているのに。


 もう片方の手で甲を抑え、俺は治療しに病院の受付へ向かった。受付のお姉さんが対応してくれて、救急箱を持ってきてくれた。


 俺は右手を離した――のだが。



「あれ、有馬くん。ケガなんてしないよ?」



 受付のお姉さんが不思議そうに俺の左手の甲を見つめた。そんなはずは――あれ。俺の左手……無事だ。さっきはあんなに酷い怪我だったのに、今は嘘のように元通りだった。


 なんだったんだ?


 不思議すぎて、俺は手の甲を見つめた。


 手を握ったり、開けたり、手首を反時計回り・・・・・に回したりしてみた。



 すると。



 視界がグニャグニャと乱れていく。……な、なんだこれ!? 嘘だろ、急に酷い眩暈めまいが。なぜ……?


「うっ……」

「有馬くん? 有馬くん! ちょ、有馬くん、大丈夫!?」



 受付のお姉さんが心配してくれるが、それどころではなかった。俺は意識を失ってしまった。



「……か、花歩……」



 * * *



 頭が痛い。割れるようだ。

 俺はどうやら倒れて意識を失っていたようだ。


 なんとなく目を覚ますと、知らない場所だった。



「え……ここどこだ? 家?」



 キョロキョロとしていると扉が開いて、花歩が入ってきた。



「あ、お兄ちゃん。おはよ~。まだ寝ていたんだ」

「花歩……花歩なのか?」


「へ? 何言ってるの。花歩だよ。どうしたの?」

「うそ……お前は病院で寝ていたはずだ。こんな元気じゃなかった」


「え~? 夢でも見ていたんじゃない~」


 あはは~と笑う花歩は、部屋から出て行ってしまった。……これは夢なのか。いや、だけどリアルすぎる。



 頬をつねってみた。



 ……痛い。



 これは現実リアルだ。

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